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第61話:おばあちゃん、お花見の後の「お片付け」で世界の理を定着させる

1.祭りの後の静寂と「もったいない」の精神

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。昨夜の賑やかさが嘘のように、今朝は空気がひんやりと澄んで、世界がゆっくりと深呼吸をしているようですよ。……さあ、私たちもお祭りの『お片付け』を始めましょうか」

 

四月の穏やかな朝。魔王城の裏手、昨夜まで世界中から人々が集まり、歓声に包まれていた『世界樹・桜』の麓。私は、竹箒と大きな籠を手に、桜の絨毯が敷き詰められた大地に立ちました。

 

この世界の設定において、祭りの後は「虚無の刻」と呼ばれ、高揚感が去った人々の心には深い喪失感が生まれ、そこを突いて新たな「影の魔物」が発生するバグのような仕様が存在していました。


運営の本来のプログラムでは、お花見の直後に「絶望の月曜日レイド」が発生し、プレイヤーは祭りの余韻に浸る間もなく、現実に引き戻される残酷な展開が待っているはずでした。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、始まりよりも終わりを美しく整えることこそ、真の品格というもの。……ですが、あちらの王都の広場、祭りが終わった寂しさに耐えかねた冒険者たちが、『もう一度あの夢を!』と、魔力薬をがぶ飲みして無理やり桜を咲かせようと暴走しておりますの。……おしとやかに、現実の清々しさを教えて差し上げる必要がありますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『調和の天秤』を召喚し、乱れた大気の魔力を整えていました。


彼女の召喚術は、今や「完璧なメンタル・デトックス」として機能していますが、人々の心の「寂しさ」までは吸い取れません。


セシルさんの指先から零れる淡い紫の光が、地面に落ちた花びらを優しく撫で、その魔力を土へと還していく様子は、まるで子守唄を歌っているかのようでした。

 

「……おかたづけ。……楽しかった、昨日、なくなっちゃうの? ……私、この、ピンク色の、地面、消えてほしくない。……ずっと、このままで、いられたら、いいのに。……おばあちゃん、どうして、お片付け、しなきゃ、いけないの?」

 

スノウさんは、無表情ながらも少しだけ寂しそうに、足元の花びらを指先でつんつんと突いていました。


彼女の純粋な魔力は、一瞬にして広場全体を凍りつかせ、この「祭りの光景」を永久保存することさえ可能でした。


しかし、それは死んだ景色を閉じ込めることに他なりません。スノウさんは、おばあちゃんがなぜ「片付けること」を大切にするのか、その真意を量りかねていました。

 

「ちょっと! 運営の管理パネルが『ユーザーの燃え尽き症候群が深刻です』って警告を出してるわよ! 昨日の団子の味が忘れられないって、魔王軍の幹部たちがストライキを起こして、誰も持ち場に帰ろうとしないの! キヨ、このままだと世界が『昨日』に縛り付けられて、明日が来なくなっちゃうわ!」

 

リタさんが、空になった重箱を何段も抱え、祭りの残骸(実はおばあちゃんが配った、一粒で魂を洗う飴玉の包み紙)を回収しながら叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(お片付け編)」

 

「あらあら、まあ。……寂しいのは、昨日が最高に楽しかった証拠ですよ。……でもね、お片付けをしないと、明日の『楽しい』が入ってくる隙間がなくなってしまいます。……よし、それならね、皆さんが『明日が楽しみになる』ような、特別なお掃除をしましょう」

 

私は、割烹着のポケットから「古びた手拭い」――実は第1話で龍がくれた、万物の汚れを落とし、代わりに希望を塗り込む聖布――を取り出しました。

 

「はい、これをこうして……。散った花びらを集めて、丁寧に『押し花』にして。……セシルさん、この花びらたちに『思い出を力に変える魔法』を添えてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『記憶定着・未来回帰』の術式を、おばあちゃんが拾い集める花びら一つ一つに封じ込めさせていただきますわ。……昨日の喜びは消えるのではなく、明日を歩くための『土』となるのです」

 

セシルさんが指を鳴らすと、私が箒で集めた桜の花びらが、まばゆい光を放ちながら小さな「黄金のしおり」へと姿を変えていきました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(日常の整理)が発動】

【お花見の残骸が『次世代への滋養・未来の種』へと昇華されました】

【効果:世界中の『祭りの後』の寂しさを消去し、代わりに『明日への活力』を100%充填する】

 

3.「ハナマル」の日常と青い空

 

私が、広場の中心に残っていた最後の一枚の花びらを拾い上げ、地面にそっと「お疲れ様」とハナマルを描いた、その瞬間。

 

シュォォォォォォォォン!!

 

世界中を覆っていた「祭りの後の物悲しさ」が、爽やかな初夏の予感を含んだ風となって吹き抜けていきました。

 

王都で項垂れていた冒険者たちも、手元に舞い降りた「おばあちゃんの桜の栞」を手にした瞬間、昨日への未練が消え、代わりに「よし、今日は畑を耕そう」「今日は新しいポーションを作ってみよう」という、前向きな日常への意欲が湧き上がってきたのです。

 

「……あ、あれ? 急に身体が軽くなったぞ! ……そうか、昨日は最高だった。だからこそ、今日からの生活を頑張って、また来年のお花見を目指せばいいんだな!」

 

「……おばあちゃん。……お空、昨日より、高い。……私、お片付けの意味、わかった。……昨日を、綺麗に、畳むから、新しい、今日が、広がるんだね。……私、お掃除、大好き。……おばあちゃんと、一緒に、ピカピカ、する」

 

スノウさんは、初めて「終わること」の美しさを知り、自分も新しい季節を迎える準備ができたことを誇らしく思いました。セシルさんが「おしとやかに」演出し、リタさんが「元気よく」支えた、世界で一番静かで、世界で一番前向きな「祭りの後の朝」が、キラキラと輝いていました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの日常回帰宣言』が完遂されました】

【バフ付与:『規則正しい生活』。今後一ヶ月、早寝早起きをするだけで、全ステータスが恒久的に微増します】

 

4.掲示板の伝説:お片付け革命編

 

その「日常を愛でる」お節介は、運営の「煽り」という基本方針を粉砕しました。

 

【オチャノマスレ 060】

 

100:名無しのアタッカー

全プレイヤー、速報。今、俺の部屋が「おばあちゃんの加護」で勝手に掃除された。

 

101:名無しの大魔道士

見てる。……あの「桜の栞」、鑑定したら『効果:昨日の自分を許す(無限)』って出たぞ。

運営の公式ログが出た。『本日のレイドイベント「絶望の月曜日」は、おばあちゃんがお掃除を始めたため、中止となりました』だって。

 

102:名無しの密偵

攻略組のトップが、お掃除を終えて「俺、最強の剣を物置にしまって、最強の雑巾を自作したよ」って、今、街でボランティアの清掃活動を始めたぞ。

 

103:名無しのアタッカー

竹箒(現在は世界の理を整える聖杖として認定)

104:名無しの聖職者

運営の公式ブログ:『「祭りの後の絶望」という伝統的なイベントは、おばあちゃんの「お片付け」により、「新生活応援キャンペーン」へと上書きされました。皆さん、昨日の思い出を力に変えて、今日を大切に生きてください』

 

105:運営の悲鳴(掃除中)

【最終告知】「退屈」とは「平和が続いている状態」であると、おばあちゃんに教わりました。

サーバーの無駄なログも全部消去されて、動作が爆速になりました。おばあちゃん、ありがとうございます。

 

「ふぅ。皆さん、今日という日を大切に過ごせそうで何よりですねぇ、セシルさん」

 

お昼過ぎ。魔王城の縁側で、私たちはピカピカに磨き上げられた廊下に座り、お日様を浴びながらお茶を啜っていました。

 

スノウさんは私の膝の上で、栞になった花びらを眺めながら、小さく「……おばあちゃん。……私、おばあちゃんと、明日も、お茶、飲む。……それだけで、最高、幸せ」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『端午の節句の神』を招待して、世界中の子供たちの勇気を育む『究極の鯉のぼり』の準備をいたしましょうか」

 

「……こいのぼり。……お空を、泳ぐ、お魚。……私、氷の、うろこ、作った。……お空、海みたいに、キラキラ、させる。……約束」

 

スノウさんの少しずつ増えてきた「未来の約束」に、リタさんの「お片付けの後の昼寝は最高ね!」という幸せそうな寝言が、春の穏やかな空に、どこまでも、どこまでも響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「お片付け」は、世界の焦燥を、最高に満たされた「日常の尊さ」へと変えてしまったのでした。〜

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