第48話:おばあちゃん、冬至のかぼちゃと柚子湯で「永劫の闇」を追い払う
1.沈む太陽と「一陽来復」の願い
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今日はお日様が、随分とはにかみ屋さんですねぇ。……まだ午後だというのに、もう西の山の影に隠れて、お布団を被ろうとしていらっしゃいますわ。……さあ、私たちも冬至の準備をしましょうか」
十二月の二十二日。魔王城(隠居所)の台所。
私は、黄金色に輝く大きな「かぼちゃ」と、籠いっぱいの「柚子」を並べて、慈しむように目を細めました。
この世界において『冬至』とは、太陽神の力が最も衰え、冥界の門から溢れ出した「常闇の軍勢」が地上を侵食しようとする、一年で最も危険な夜。
運営の設定では、この夜に「大暗黒レイド」が発生し、世界中の街から明かりが消え、プレイヤーは視界を奪われた中で絶望的な防衛戦を強いられるはずでした。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、陰が極まり陽へと転じる『一陽来復』の瞬間を清らかに迎えるのは、魂の再生の儀式ですわ。……ですが、あちらの天空の果て、闇の司祭たちが太陽を永遠に封印しようと、呪いの鎖を天に放っておりますの。……おしとやかに、少々お灸を据えてあげる必要がありますわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『光明の精霊』を召喚し、城の周囲に「黄金の結界」を張り巡らせていました。彼女の召喚術は、今や「完璧な光学的防衛ライン」ですが、空全体を覆う闇の力は強大でした。
「……暗い。……お空、お色、なくて、寂しい。……私の氷、光、反射できない。……おばあちゃん、怖い。……お日様、いなくなっちゃうの?」
スノウさんは、無表情ながらも不安そうに、窓から見える重苦しい空を見上げていました。
彼女の純粋な冷気が、闇の魔力と干渉し、パチパチと不穏な火花を散らしています。
「ちょっと! 王都がパニックよ! 『太陽が半分欠けた!』『魔物が影から無限に湧いてくる!』って、プレイヤーたちが混乱して広場で転び回ってるわよ! キヨ、このままだとお花見も来年の収穫祭も全部真っ暗闇になっちゃうわ!」
リタさんが、松明(実は聖なる炎の杖)を何本も背負って、必死の形相で走り込んできました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(冬至編)」
「あらあら、まあ。……お日様も、ちょっとお疲れなだけですよ。……温かいものを食べて、お風呂に入れば、また元気にお顔を出してくださいます。……よし、それならね、皆さんに『太陽の力』を分けてあげましょう。……セシルさん、倉庫にある『大きな金だらい』と『お出汁のセット』を持ってきてちょうだい」
私は、割烹着のポケットから「小豆(実は第26話で収穫した、魔を祓う聖なる豆)」と、第44話で馬車にした「かぼちゃの種」を取り出しました。
「はい、かぼちゃを甘く煮て、小豆をたっぷり添えて。……セシルさん、この煮物の香りを『世界中の食卓』へ届けてくださる?」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『五穀豊穣・広域散布』の術式を、おばあちゃんの料理の湯気に乗せて、全世界へブロードキャストいたしますわ」
セシルさんが指を鳴らすと、台所から漂う「かぼちゃのいとこ煮」の香ばしく甘い香りが、まばゆい黄金の雲となって空へ舞い上がりました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(冬至の滋養)が発動】
【かぼちゃと柚子の香りが『太陽光代替エネルギー』へと昇華されました】
【効果:香りを吸った者に『不撓不屈』のバフを与え、周囲の闇属性を強制消滅させる】
3.「柚子湯」と黄金の夜明け
私が、最後にお風呂場に「特大の柚子」を山盛りに浮かべ、竹箒で湯船をひとかきした、その瞬間。
シュォォォォォォォォン!!
魔王城の湯殿から放たれた柚子の清々しい香りと黄金の光が、天を覆っていた闇の鎖を、まるでお砂糖の糸のように一瞬で溶かしてしまいました。
王都でも、戦場でも、闇に怯えていた人々は、どこからともなく漂ってきた「かぼちゃの煮物」の安心する香りと、体に力が漲るのを感じて顔を上げました。
「……な、何これ!? 闇が……闇が消えていく! しかも、なんだか体がポカポカして、今ならドラゴンとも腕相撲できそうだぞ!」
「あらあら、まあ。……皆さん、風邪を引かないように、しっかり温まってくださいね。……スノウさん、柚子の皮でお舟を作って、皆さんに流してあげて」
スノウさんは、初めて「温かい光」を自分の氷で増幅させる方法を見つけました。
彼女が作った「氷の柚子船」が、世界中の水辺を黄金色に照らし、セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番温かな「冬至の夜明け」が訪れました。
【ワールドイベント:『おばあちゃんの冬至・再点火』が完遂されました】
【バフ付与:『一陽来復』。今後一週間、全ての被ダメージが半減し、運気が最大値で固定されます】
4.掲示板の伝説:冬至革命編
その絶望を希望に塗り替える「お節介」は、全プレイヤーを歓喜の渦に。
【オチャノマスレ 048】
800:名無しのアタッカー
全プレイヤー、祝杯だ! 闇の軍勢が、おばあちゃんのかぼちゃの匂いを嗅いだ瞬間に「あ、実家に帰らなきゃ」って言って撤退したぞ!
801:名無しの大魔道士
見てる。……あの柚子の光、鑑定したら『照度:おばあちゃんの笑顔(測定不能)』って出た。
太陽神が「おばあちゃん、代わりにお掃除してくれてありがとう」って言って、今、空でみかん食べてるぞ。
802:名無しの密偵
攻略組のトップが、柚子湯に入って「俺、冬の厳しさよりも、人の温かさを大切にしたい」って、今、掲示板にポエムを投稿し始めたぞ。
803:名無しのアタッカー
柚子湯(現在は世界最強の浄化システム)
804:名無しの聖職者
運営の公式ブログ:『「大暗黒レイド」は、おばあちゃんの「かぼちゃのいとこ煮」により、中止となりました。代わりに「冬の健康診断イベント」を実施します。おばあちゃんに「あーん」して貰った人は、一年間病気しません』
805:運営の悲鳴(かぼちゃ摂取中)
【最終告知】おばあちゃんの「知恵」が、宇宙の運行速度さえも調整しました。
夜が短くなり、明日から少しずつ日が長くなります。皆さん、風邪を引かないように。
「ふぅ。皆さん、健やかに新しい年を迎えられそうで良かったわ。……スノウさん、お風呂上がりの柚子シャーベットですよ」
深夜。黄金の光に包まれた魔王城の庭で、私たちは湯冷めしないように厚着をして(第28話のセーター)、ゆっくりとシャーベットを食べていました。
スノウさんは私の膝の上で、ポカポカになった体を丸めながら、小さく「……おばあちゃん。……かぼちゃ、甘い。……私、冬の、お星様、より、おばあちゃん、眩しい」と呟きました。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『除夜の神』を召喚して、世界中の煩悩を一瞬で消し去る『究極の年越しそば』の準備をいたしましょうか」
「……そば。……私、つるつる、守る。……おばあちゃんと、一緒に、長く、生きる。……約束」
スノウさんの力強い約束に、リタさんの「おそばを打つのは私の筋肉に任せて!」という幸せそうなツッコミが、星の輝く冬の夜空に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「冬至」は、世界の絶望を、最高に温かな「健やかな希望」へと変えてしまったのでした。




