表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/71

第47話:おばあちゃん、真冬の温泉掘りを「お節介の熱量」で行う

1.冷え切った街と「お節介」の火種

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今朝は空気の角が一段と尖って、鼻の頭をツンと突ついてきますねぇ。……王都の皆さんも、肩をすぼめて、まるで凍えた小鳥のように歩いていらっしゃいますわ」

 

十二月の下旬。魔王城(隠居所)の物見窓。私は、窓に張り付いた氷の紋様を指でなぞりながら、静かに息を吐きました。

 

この世界において、真冬の『極寒期』は、単なる寒さを超えた死の季節。特に貧しい民や新米冒険者たちは、高価な魔石燃料を買えず、冷えた寝床で体を寄せ合って耐えるしかありませんでした。


運営の設定では、この過酷な環境がプレイヤーに「暖を求めて過酷なダンジョンへ潜る」という動機付けを与えるはずでしたが、おばあちゃんにとっては、それは「放っておけないお困りごと」でしかありませんでした。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、冷えによる体調不良は見過ごせませんわ。……ですが、あちらの王都郊外、地下のマグマラインが完全に凍結しており、どれだけ深く穴を掘っても、出てくるのは氷の粒ばかりだそうですの。……大地そのものが、冬の眠りに深く落ちておりますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『地熱の精霊』と交信していましたが、精霊たちも「寒すぎて布団から出たくない」とボイコット中。


彼女の召喚術を以てしても、惑星規模の寒波を覆すのは容易ではありません。

 

「……寒い。……私、氷の娘。……でも、おばあちゃんが、震えてるのは、嫌。……おばあちゃんの手、温めるために、私、もっと、冷たくなって、熱を、浮き上がらせる……? ……ううん、できない。……ごめんなさい」

 

スノウさんは、無表情ながらも自分の冷気がおばあちゃんを冷やしてしまうのではないかと、少し距離を置いて申し訳なさそうに佇んでいました。


彼女の純粋な優しさが、その冷気さえも「温もりを求める切なさ」に変えていたのです。

 

「ちょっと! ギルドから悲鳴が上がってるわよ! 『寒さで指が動かなくて、ポーションの蓋が開けられない!』って。……このままじゃ、街全体が冬眠しちゃうわ! キヨ、温泉でも出れば一発解決なんだけど、この土地には温泉なんて一滴も出ないって、地質学者が匙を投げてるのよ!」

 

リタさんが、何枚もの毛布を纏い、もこもこの熊のような姿で叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(温泉掘り編)」

 

「あらあら、まあ。……出ないなら、お招きすればいいのですよ。……大地さんもね、きっと寒くて、お湯の出し方を忘れちゃっただけなんです。……よし、それならね、私がちょっと『肩叩き』をしてあげましょう」

 

私は、割烹着のポケットから「肩叩き棒(実は第1話で龍の背中を解した、大地を震わせる聖杖)」と、第45話で使った「夜回りの拍子木」を取り出しました。

 

「はい、これをこうして……。地面に耳を当てて、一番凝っている場所を探して。……セシルさん、この地下のマグマさんに『お目覚めの合図』を送ってくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『深層振動・地脈覚醒』の術式を、おばあちゃんの肩叩きの衝撃に乗せて、地下三千マイルまで届けさせていただきますわ」

 

セシルさんが指を鳴らすと、私が地面に置いた肩叩き棒が、深い琥珀色の光を放ち始めました。私はその上から、拍子木を優しく、リズムよく打ち鳴らしました。

 

『コン、コン。……コン、コン。……火の用心、ならぬ、冷えの用心ですよ。……大地さん、起きてちょうだい』

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(大地の肩叩き)が発動】

【地下の凍結地脈が『お節介の熱量』によって一瞬で融解しました】

【効果:半径100km以内の全水源が、美肌効果抜群の『究極の薬湯』に変換されます】

 

3.黄金の湯煙と「心の洗濯」

 

私が最後の一打ちを加えた、その瞬間。

 

ドォォォォォォォォォン!!

 

魔王城の中庭、そして王都の噴水、さらには凍りついていた川のあちこちから、天を突くような黄金の湯柱が噴き上がりました。

 

辺りは一瞬にして真っ白な、そしてどこか花の香りがする湯煙に包まれ、刺すような寒風が、春の陽だまりのような温風へと変わっていきました。

 

「……な、何これ!? 庭からお湯が出た! しかもこれ、浸かった瞬間に攻撃力が倍増する……いや、それより、肌がツルツルになるわよ!」

 

リタさんは、噴き出したばかりの露天風呂(おばあちゃんが瞬時に石を並べて整えたもの)に足を浸し、そのあまりの心地よさに蕩けそうな声を上げました。

 

「……温かい。……氷の、私でも、溶けない。……おばあちゃんのお湯、優しい。……私、このお湯の中に、氷の、浮き玉、作る。……キラキラ、浮かべて、もっと、綺麗にする」

 

スノウさんは、初めて「熱いもの」に触れても傷つかない、おばあちゃんの魔法(知恵)による奇跡に触れ、湯船の縁で嬉しそうに冷気の珠を浮かべていました。セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界最大の「大雪山露天風呂」が、月明かりの下で幻想的に輝きました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの地球まるごと温泉化』が完遂されました】

【バフ付与:『湯治の極意』。今後一週間、全プレイヤーの自然回復量が1000%上昇し、美肌ランクが最大になります】

 

4.掲示板の伝説:温泉革命編

 

その地球規模の「お節介」は、全プレイヤーの価値観を根底から覆しました。

 

【オチャノマスレ 047】

 

700:名無しのアタッカー

全プレイヤー、今すぐ装備を脱げ! 近くの川に行け! 最高のお湯が湧いてるぞ!

 

701:名無しの大魔道士

見てる。……あの湯煙、鑑定したら『成分:おばあちゃんの慈愛(全病治癒)』って出た。

試しに毒状態の敵を放り込んでみたら、毒が消えたどころか、敵が「俺、田舎に帰って親孝行するわ」って言って、今一緒に入浴してるぞ。

 

702:名無しの密偵

攻略組のトップが、温泉の入り口で「いい湯だな」を合唱してて、今、ラスボス攻略が「銭湯の掃除」に変更されたぞ。

 

703:名無しのアタッカー

温泉(現在は世界唯一の紛争解決手段)

 

704:名無しの聖職者

運営の公式ブログ:『「極寒サバイバル」というゲームコンセプトが、おばあちゃんの「お節介」により「冬の温泉旅行」に上書きされました。もう寒さで死ぬ人はいないので、本日は運営も湯治に行ってきます』

 

105:運営の悲鳴(入浴中)

【最終告知】おばあちゃんの肩叩き棒が地球のコアを優しく解してしまいました。

地球が「あぁ〜、そこそこ……」って言ってるのがサーバーのログに残っています。皆さん、肩までしっかり浸かってください。

 

「ふぅ。皆さん、体の芯から温まって良かったですわ。……スノウさん、お風呂上がりの牛乳を用意しましたよ」

 

深夜。湯気で見えなくなった魔王城の庭で、私たちは真っ白なバスタオル(第28話の手編み)を纏い、腰に手を当てて冷たい牛乳(実は聖獣の乳)を飲んでいました。

 

スノウさんは私の膝の上で、ポカポカになった頬を赤く染めながら、小さく「……おばあちゃん。……温泉、天国。……私、もう、ずっと、ここに、いたい」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『湯船の女神』を召喚して、世界中に『キヨ印の入浴剤』を定時配布させましょうか」 

 

「……入浴剤。……私、ゆずの香り、氷に、閉じ込める。……ぷかぷか、させる」

 

スノウさんの夢心地な提案に、リタさんの「のぼせないように注意しなさいよ!」という幸せそうなツッコミが、湯煙の向こうに心地よく響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「温泉掘り」は、世界の冷たさを、心まで蕩ける「最高のぬくもり」へと変えてしまったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ