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第46話:おばあちゃん、冬の朝の「霜柱」を宝石に変えてしまう

1.凍てつく夜明けと「土の宝石」

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今朝はお庭が、まるでお星様を砕いて振りまいたみたいにキラキラと輝いていますねぇ。……土の中から、元気な霜柱さんたちが背伸びをしてご挨拶をしていますわ」

 

十二月の早朝。魔王城(隠居所)の庭。私は、吐く息を真っ白に染めながら、サクサクと心地よい音を立てて土の上を歩きました。

 

この世界において、厳冬期の『霜柱』とは、大地の魔力が凍結して発生する「マナ・スパイク」と呼ばれるトラップの一種。鋭い氷の棘は不用意に踏めばブーツを貫き、さらには大地のエネルギーを吸い取って農地を枯らす「冬の害」として、農民たちに忌み嫌われていました。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、冬の訪れを五感で楽しむのは豊かな心の証ですわ。……ですが、あちらの王都郊外の街道、この霜柱が巨大な氷の槍へと変貌し、馬車の車輪を粉砕し、商人さんたちの行く手を阻んでおりますの。……おしとやかな解決が必要な状況ですわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『熱伝導の精霊』を召喚し、城の周囲の地熱を調整しようとしていました。


彼女の召喚術は、今や「完璧なインフラ管理システム」ですが、おばあちゃんの目は霜柱の「美しさ」に向けられていました。

 

「……霜柱。……土の、中から、生えてくる、氷。……冷たい。……でも、すぐ、溶けちゃう。……儚い、宝石。……おばあちゃん、私、これ、大好き。……守って、あげたい」

 

スノウさんは、無表情ながらも瞳を輝かせ、霜柱の横に屈み込んでいました。彼女の指先から漏れる純粋な冷気が、霜柱の結晶構造をより精緻に、より強固なものへと変えていきます。


彼女にとって、この小さな氷の柱たちは、自分と同じ「冬の子供たち」に見えていたのです。

 

「ちょっと! 街道の通行止めで物流がストップして、王都の物価が跳ね上がってるわよ! 冒険者ギルドには『氷の棘を全部砕け!』って依頼が出てるけど、霜柱の再生速度が速すぎて追いつかないんですって! キヨ、どうするの!?」

 

リタさんが、防寒具を幾重にも着込み、雪だるまのような格好で走り込んできました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(霜柱の宝石編)」

 

「あらあら、まあ。……せっかく綺麗に育ったものを、砕いてしまうなんて勿体ない。……よし、それならね、霜柱さんたちが『お役に立てる宝石』になれるように、ちょっとしたお化粧をしてあげましょう」

 

私は、割烹着のポケットから「古びた茶缶(実は第30話で神様から貰った、概念を定着させる『智慧の粉』が入った缶)」を取り出しました。

 

「はい、これをこうして……。霜柱の一つ一つに、優しく粉を振りかけて。……スノウさん、この子たちに『溶けない光』を分けてあげてくださる?」

 

「……はい、キヨ様。……私の、一番、綺麗な、冷気。……ダイヤモンド・ダスト。……固まれ。……宝石に、なれ」

 

スノウさんがおしとやかに両手を広げると、庭中に舞い散る氷の粒が霜柱に吸い込まれ、泥にまみれていた氷の棘が、まばゆい光を放つ「虹色のクリスタル」へと変貌しました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(冬の化粧)が発動】

【厄介な霜柱が『大地のアロマ・クリスタル』へと昇華されました】

【効果:踏んでも砕けず、心地よい音と共に『疲労回復』と『精神安定』の香りを放つ】

 

3.サクサクと響く「癒やしの街道」

 

「さあ、皆さん。街道の霜柱さんも、宝石に変えてあげましょうか。……セシルさん、この『魔法の粉』を風に乗せて、世界中の道に広げてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、異界の『そよ風の女神』を召喚し、世界の足元を宝石の絨毯に書き換えさせていただきますわ」

 

セシルさんが指を鳴らすと、王都へと続く街道を埋め尽くしていた鋭い氷の槍が、一瞬にして淡いブルーに輝く「クリスタルのタイル」へと変わりました。

 

立ち往生していた商人たちが、恐る恐るその上を歩くと――。

 

『サクッ、シャリ……。……サクサク……』

 

足裏から伝わるのは、不快な衝撃ではなく、極上のマッサージのような心地よさと、森の深呼吸を思わせる爽やかな香り。車輪がその上を通るたびに、馬たちは活力を得て、商人たちの顔からは旅の疲れが消えていきました。

 

「……な、何これ!? 氷の棘が、最高の舗装道路になってる! しかも、踏むたびにMPが回復していくわよ!」

 

リタさんは、クリスタルの上をスキップしながら、その効果に目を丸くしました。

 

「……おばあちゃん。……霜柱、喜んでる。……みんなに、踏んでもらって、幸せ、言ってる。……私、嬉しい」

 

スノウさんは、初めて「自分の氷」が誰かを傷つけるトラップではなく、誰かを癒やす宝石になったことを、心から喜んでいました。


セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番贅沢で心地よい「冬の通学路」が、朝日に照らされて虹色に輝きました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんのサクサク宝石道』が完遂されました】

【バフ付与:『大地の息吹』。今後一週間、徒歩による移動のスタミナ消費がゼロになります】

 

4.掲示板の伝説:霜柱革命編

 

その魔法のような景観の変化は、またもや全プレイヤーを驚愕させました。

 

【オチャノマスレ 046】

 

600:名無しのアタッカー

全プレイヤー、速報。現在、世界中の「未舗装路」が宝石に変わった。

 

601:名無しの大魔道士

見てる。……あのクリスタル、鑑定したら『硬度:おばあちゃんの信念(破壊不能)』って出たぞ。

試しに大魔法を撃ってみたが、吸収されて「花の匂い」に変換された。

 

602:名無しの密偵

攻略組のトップが、霜柱の上をサクサク歩いて「この音、ASMRとして最高すぎる……」って言って、今その場で録音を始めたぞ。

 

603:名無しのアタッカー

霜柱(現在は世界最高のバフ付きロード)

 

604:名無しの聖職者

運営の公式ブログ:『冬の移動デバフ設定を、おばあちゃんが「サクサクして楽しいわね」と宝石に変えてしまったため、削除します。これからは「散歩推奨期間」とします』

 

605:運営の悲鳴(散歩中)

【最終告知】おばあちゃんの「もったいない」が、インフラ整備の予算をゼロにしました。

どこまで歩いても疲れない世界。皆さん、冬の朝の景色を楽しんでください。

 

「ふぅ。皆さん、軽やかな足取りで街へ向かわれて、良かったですねぇ、セシルさん」

 

朝陽が昇りきった頃。私たちは、虹色に輝く庭を眺めながら、温かいほうじ茶を啜っていました。

 

スノウさんは私の膝の上で、一番大きな霜柱のクリスタルを大切そうに抱えながら、小さく「……おばあちゃん。……私、冬、もっと、好きに、なった」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『凍結の魔神』を説得……いえ、ご招待して、世界中の池を『究極のスケーティングリンク』に変える準備をいたしましょうか」

 

「……スケート。……私、氷の、靴、作る。……みんなで、踊る。……くるくる、回る」

 

スノウさんの夢いっぱいの提案に、リタさんの「転んでお尻を打たないようにしなきゃ!」という幸せそうなツッコミが、清々しい冬の朝の空に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「霜柱」は、世界の厄介者を、最高にキラキラした「冬の宝物」へと変えてしまったのでした。

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