第43話:おばあちゃん、運動会のパン食い競走を「運命の糸引き」で応援する
1.秋晴れの校庭と「一等賞」への執念
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。見てください、お空が高いですねぇ。……今日は街の皆さんが楽しみにしていた『秋の大運動会』の日。……お弁当の準備は、万端ですか?」
魔王城(隠居所)の台所。私は、重箱いっぱいに詰めた特製のおいなりさんと、彩り豊かな卵焼きを眺めて微笑みました。
この世界において『運動会』とは、各ギルドが身体能力の限界を競い、時には物理的な衝突も辞さない、公式の「代理戦争」としての側面を持っていました。
特に「パン食い競走」は、風魔法で激しく揺れ動くパンをいかに早く捉えるかという、超高度な動体視力と空間把握能力を競う、冒険者たちの意地のぶつかり合いでした。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、声援を送る姿も美しくありたいものですわ。……ですが、あちらの会場、パンを吊るす糸が『呪いの鋼鉄線』にすり替えられていたり、スタートラインに落とし穴が掘られていたりと、少々お行儀の悪い勝負が横行しておりますの」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『審判の神』を呼び寄せ、不正を働く不届き者を「お掃除(強制退場)」させていました。
彼女の召喚術は、今や「完璧なフェアプレー監視システム」ですが、おばあちゃんには別の「知恵」がありました。
「……パン、ゆらゆらしてる。……みんな、お顔が、怖い。……おばあちゃん、私、冷たい、サイダー、作った。……走った後に、みんなに、あげる」
スノウさんは、無表情ながらも、指先からシュワシュワと弾ける「氷の泡(スタミナを瞬時に回復させる聖水)」を生み出し、水筒に詰めていました。彼女の冷気は、勝負に熱くなりすぎた者たちの頭を冷やす「清涼剤」として機能しています。
「ちょっと! 実況が絶叫してるわよ! 『キヨさんのパン食い競走が始まった瞬間、パンが自ら口の中に飛び込んできた!』って! これ、物理法則が家出してるわよ!」
リタさんが、紅白のハチマキをキリッと締めながら、会場の異常事態を知らせに来ました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(パン食い競走編)」
「あらあら、まあ。……お腹が空いているのに、食べ物が逃げていくなんて、かわいそうですもの。……よし、それならね、皆さんが仲良く一等賞になれるように、ちょっとした『糸引き』をしましょう」
私は、割烹着のポケットから「裁縫箱(実は第37話で星を繋いだ、運命の赤い糸が入った箱)」を取り出しました。
「はい、これをこうして……。パンを吊るす糸を、私の指先にちょんと繋いで。……セシルさん、この糸を『全員の幸せ』と結びつけてくださる?」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『幸運の連鎖』を術式に組み込み、パンが最も『食べてほしい人』の元へ向かうように調整いたしますわ」
セシルさんが指を鳴らすと、吊るされたアンパンたちが、まばゆい光を放ちながら、意志を持ったかのように優雅に舞い始めました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(運命の糸引き)が発動】
【パン食い競走の属性が『障害物競争』から『全自動給食』へと昇華されました】
【効果:走者が『誰かのために頑張りたい』と願った瞬間、パンが口元へ吸い寄せられる】
3.「全員一等賞」のゴールイン
私が竹箒を「位置について、よーい」の合図代わりに地面にトントンと突いた、その瞬間。
「……えっ!? パンが、僕の口を待ってたみたいに……っ!」
病気の母のためにメダルを狙っていた新米冒険者の口に、黄金のアンパンが優しく吸い込まれました。
それを見たライバルたちも、不思議と悔しがるどころか「よかったな!」と肩を叩き合い、次々と自らの運命のパンを口にして、全員が手を取り合ってゴールラインを駆け抜けました。
「ふぅ。皆さん、いいお顔で走っていらっしゃいますねぇ。……スノウさん、皆さんに冷たいサイダーとおしぼりをお願いしますね」
「……はい、キヨ様。……シュワシュワの、魔法。……みんな、お疲れ様。……パチパチ、拍手」
スノウさんは、氷の魔法でキンキンに冷やしたサイダーを配り歩き、セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番温かな「全員優勝」の表彰式が幕を開けました。
【ワールドイベント:『おばあちゃんの全員金メダル』が完遂されました】
【バフ付与:『スポーツマンシップ』。今後一週間、協力プレイの獲得経験値が10倍になります】
4.掲示板の伝説:運動会革命編
その平和すぎる競争は、もちろん全プレイヤーを爆笑と癒やしの渦に。
【オチャノマスレ 043】
300:名無しのアタッカー
全プレイヤー、報告! 現在、世界中の「敵対関係」が解消された。
理由は、パン食い競走で魔王軍と握手しちゃったからだ。
301:名無しの大魔道士
見てる。……あのパン、鑑定したら『栄養価:おばあちゃんの真心』って出たぞ。
食べた瞬間、俺の全デバフが消えて、なぜか実家に帰りたくなった。
302:名無しの密偵
攻略組のトップが、おばあちゃんから「よく頑張りましたね」って花丸のメダルを貰って、今、表彰台で赤ちゃんみたいに号泣してるぞ。
303:名無しのアタッカー
アンパン(現在は平和条約の調印アイテム)
304:名無しの聖職者
運営の公式ブログ:『「競う」という概念を、おばあちゃんが「讃え合う」に変えてしまいました。ランキング機能を一時停止し、代わりに「いい子にしてたねボタン」を設置します』
305:運営の悲鳴(応援中)
【最終告知】勝敗よりも大切なものを、おばあちゃんのパンに教わりました。
ギルド抗争は本年度、全て「合同芋煮会」に変更します。皆さん、怪我のないように楽しんでください。
「ふぅ。皆さん、元気に体を動かせて何よりですねぇ、セシルさん」
夕暮れ時。魔王城の庭では、ポチとクロも「尻尾振り競走」を終えて、仲良くお昼寝をしていました。
スノウさんは私の膝の上で、貰ったばかりの「ハナマル・クッキー」を大切そうに食べながら、小さく「……運動会、楽しい。……私、次は、雪合戦、やりたい」と呟きました。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『豊穣の神』を召喚して、世界中を秋の実りで満たす『特大の焼き芋大会』を開催いたしましょうか」
「……やきいも。……ホクホク。……私、お芋、冷やさない。……セシル先輩と、一緒に、守る」
スノウさんの少しずつ増えてきた言葉に、リタさんの「運動の後は食欲の秋ね!」という幸せそうなツッコミが、秋の爽やかな夜空に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「運動会」は、世界の競争を、最高に温かな「称賛の輪」へと変えてしまったのでした。




