第42話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「秋の夜長の読書」に転用する
1.沈黙の図書館と「目の疲れ」
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。秋の夜長は、虫さんの声がまるで子守唄のように優しく響きますねぇ。……こんな夜は、温かいお茶を片手に、静かに本をめくるのが一番の贅沢ですわ」
魔王城(隠居所)の図書室にて、私は老眼鏡(実は第30話で神様から貰った、真理を見通す『智慧のレンズ』)を鼻にかけ、古い頁をめくりました。
この世界において、秋の読書週間とは、知の集積地『叡智のバベル』が開門される時期。
そこには失われた禁呪や世界の真理が記された魔導書が眠っており、知を求める魔術師たちが、互いの思考を読み合い、静かながらも熾烈な「情報の奪い合い」を繰り広げる、精神的な戦場となっていました。
「はい、キヨ様。おしとやかに、静寂の中で古人の知恵に触れるのは、魂の洗濯ですわ。……ですが、あちらの『叡智のバベル』に集う方々、あまりの難解な呪文に知恵熱を出し、鼻血を流しながら禁書を貪り読んでおられますの。……おしとやかな女性として、根を詰めすぎるのは健康に良くありませんわ」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『しおりの精霊』を召喚し、読みかけの本に「安眠の栞」を挟んで回っていました。
彼女の召喚術は、今や「完璧な司書システム」ですが、魔術師たちの執念はそれを上回ります。
「……本、たくさん。……でも、文字、小さくて、目が痛そう。……私、氷のルーペ、作った。……文字、大きくして、優しく、見せる」
スノウさんは、無表情ながらも、指先から透明度の高い「拡大レンズ(ダイヤモンド級の硬度)」を次々と生み出し、机で項垂れる老魔術師たちに配っていました。
彼女の冷気は、熱くなった脳を適度に冷やし、思考の暴走を防ぐ「冷却装置」へと進化しています。
「ちょっと! 掲示板がまた騒がしいわよ! 『バベルの最深部にある【終焉の予言書】がおばあちゃんのせいで【美味しい煮魚の作り方】に書き換わった!』って、賢者たちが腰を抜かしてるわよ!」
リタさんが、山のような「おやつ」を持って走り込んできました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(読書編)」
「あらあら、まあ。……予言なんて、お腹が空いていれば悪いことしか思いつきませんよ。……よし、それならね、皆さんがリラックスして本を読めるように、ちょっとした『お掃除』をしましょう」
私は、割烹着のポケットから「はたき(実は世界樹の枝で作った、記憶の塵を払う聖具)」を取り出しました。
「はい、これをこうして……。本棚の隙間に溜まった『難解な概念(埃)』をサッサと払って。……セシルさん、このお部屋を『おばあちゃんの居間』にしてくださる?」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『時空固定・極楽浄土』の術式を、この図書館の『環境光』に封じ込めさせていただきますわ」
セシルさんが指を鳴らすと、冷たく厳かだった大図書館の空気が、一瞬にして「陽だまりの縁側」のような温かさに包まれました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(読書の秋)が発動】
【図書館の属性が『魔導の聖域』から『実家の読書室』へと昇華されました】
【効果:本を開くたびに、難解な数式が『絵本』のように分かりやすく翻訳される】
3.「予言書」と「美味しいレシピ」
私が最深部の「終焉の予言書」にハタキをかけた、その瞬間。
『我は世界の終わりを刻む……暗黒の……えっ? 隠し味は……生姜の薄切り、ですと!?』
予言書の精霊が、あまりの居心地の良さに毒気を抜かれ、絶望の言葉をすべて「おばあちゃんの秘伝の知恵」に書き換えてしまいました。
図書館にいた魔術師たちは、最初は困惑していましたが、一分後には「……なるほど、世界の滅亡を回避するより、今夜の夕飯を美味しくする方が急務だな」と、憑き物が落ちたような顔で料理本(元・禁書)を読み始めました。
「ふぅ。皆さん、いいお顔で読書をされていますねぇ。……スノウさん、皆さんに温かいミルクをお願いしますね」
「……はい、キヨ様。……お砂糖、たっぷり。……氷の、マドラーで、くるくる、回す。……美味しく、なった」
スノウさんは、氷の魔法で完璧に温度を保ったホットミルクを配り歩き、セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番静かで温かな「秋の夜会」が完成しました。
【ワールドイベント:『キヨさんの青空(室内)教室』が完遂されました】
【バフ付与:『知恵のひらめき』。今後一週間、全ての学習速度が500%上昇します】
4.掲示板の伝説:読書革命編
その平和すぎる知の探求は、もちろん全プレイヤーを爆笑と癒やしの渦に。
【オチャノマスレ 042】
200:名無しのアタッカー
緊急報告。現在、全魔法の『詠唱破棄』が可能になった。
なぜか? 呪文が全部「おばあちゃんの優しい言葉」に変わったからだ。
201:名無しの大魔道士
見てる。……あの『メテオ(隕石落下)』の術式が、『特大のおはぎを振る舞う儀式』に書き換わってるんだが。
おかげでMP消費がゼロになったぞ。
202:名無しの密偵
バベルの最深部に突入した勇者一行が、今、賢者たちと一緒に「肉じゃがの黄金比」について徹夜で議論してるぞ。
203:名無しのアタッカー
魔導書(現在はレシピ本兼、暮らしの知恵袋)
204:名無しの聖職者
運営の公式ブログ:『システムの難易度設定ファイルを、おばあちゃんが「難しくて若者がかわいそう」とハタキをかけた結果、全てのバグが癒やしのテキストに置換されました。もう修正は不要と判断します』
205:運営の悲鳴(読書中)
【最終告知】「知識」とは「愛」であると、おばあちゃんに教わりました。
図書館の閉館時間は撤廃します。皆さん、お布団を持ってきて心ゆくまで学んでください。
「ふぅ。皆さん、良い知恵を蓄えられたようで何よりですねぇ、セシルさん」
深夜。魔王城の庭では、ポチとクロも「猫のための暮らしの知恵」という本を読みながら(?)スヤスヤと寝息を立てていました。
スノウさんは私の膝の上で、栞を作りながら、小さく「……おばあちゃん。……次、私、雪の絵本、書きたい」と呟きました。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『芸術の女神』を召喚して、世界中をキャンバスにする『秋の写生大会』を開催いたしましょうか」
「……写生大会。……私、虹の絵の具、凍らせて、作る。……キラキラ、描く」
スノウさんのキラキラした提案に、リタさんの「お掃除が大変そうだけど、まあいいわよ!」という幸せそうなツッコミが、秋の夜長に心地よく響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「読書の秋」は、世界の難解さを、最高に温かな「物語のぬくもり」へと変えてしまったのでした。




