第41話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「お月見の泥棒」に転用する
1.満月の夜と「泥棒」の掟
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今夜のお月様は、まるでお盆の上に載せた大きな卵の黄身のように、ツヤツヤと輝いていますねぇ。……いよいよ『十五夜』の始まりですわ」
魔王城(隠居所)の広々とした縁側に、私はススキを活け、山盛りの月見団子を供えて微笑みました。
この世界において『十五夜』とは、月界の魔力が最大になる夜。古くから「お月見泥棒」という、子供たちがこっそりお供え物を盗んでも良いとされる風習がありましたが、現在では「高レベルの盗賊ギルドが、各地の祭壇から秘宝を掠め取る」という物騒な国家級の防衛イベントに変貌していました。
「はい、キヨ様。おしとやかに、月を愛でる風情を楽しむのは淑女のたしなみ。……ですが、あちらの王都の広場では、特大の月見団子(実は国宝級のバフアイテム)を巡って、暗殺者たちが影に潜み、一触即発の空気が漂っておりますわ」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『月光の処刑人』をガードマン代わりに召喚し、魔王城の敷地を「お掃除」させていました。
彼女の召喚術は、今や「完璧なセキュリティシステム」ですが、おばあちゃんの考えは少し違いました。
「……泥棒さん、怖い。……でも、お団子、みんなで食べたほうが、美味しい。……おばあちゃん、私、お月様の色のアイス、作った。……一緒に、並べる」
スノウさんは、無表情ながらも少しだけ尻尾(のような冷気)を振って、黄金色のシャーベットを供え物の横に並べました。彼女の冷気は、お月見の静寂をより深く、心地よいものへと変えていきます。
「ちょっと待って! 掲示板が大炎上してるわよ! 『今年の月見泥棒は、魔王城のキヨさんの団子を狙え!』って、世界中の全盗賊プレイヤーがここに向かってるわよ! 防衛しなきゃ!」
リタさんが、聖剣(兼・特大お玉)を構えて叫びました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(お月見泥棒編)」
「あらあら、まあ。……わざわざ遠くからお越しくださるなら、手ぶらで帰しては失礼ですねぇ。……よし、それならね、皆さんが『本物の泥棒さん』になれるように、ちょっとした仕掛けをしましょう」
私は、割烹着のポケットから、第30話で神様から貰った「お年玉の余り(聖なる金糸)」を取り出しました。
「はい、これをこうして……。お団子の一つ一つに、見えない糸をつけて。……セシルさん、この糸を『宇宙の果て』まで繋いでくださる?」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『因果の糸車』を召喚し、このお団子を盗んだ者に『幸せの強制返報』が発生するように、術式を編み込みましたわ」
セシルさんが指を鳴らすと、お供えのお団子が、まばゆい月の光を吸い込んで黄金色に輝き始めました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(お月見泥棒)が発動】
【お供え物が『幸運のデコイ(幸せの罠)』へと昇華されました】
【効果:このお団子を盗んだ者は、強制的に『世界中のゴミを拾う』か『迷子を助ける』まで、お団子の味がしなくなる】
「さあ、皆さん。私は奥でお茶を淹れてきますから、どうぞご自由に持っていってくださいな」
私はわざと背を向け、台所へと引っ込みました。
3.「泥棒」たちの改心とパレード
「今だ! 世界一の団子を盗んで、伝説の盗賊になってやるぜ!」
闇に紛れて魔王城の庭に侵入した数千人の盗賊たちが、一斉にお供えの団子を鷲掴みにしました。しかし、一口食べた瞬間、彼らの体に異変が起こりました。
「……う、旨い! でも、なんだか……背中がムズムズする! なんだこの『良いことがしたい』という猛烈な欲求は!?」
お団子に含まれたおばあちゃんの「徳」が、盗賊たちの『悪属性』を強制的に『善属性』へと反転させたのです。
お団子を手にした泥棒たちは、あろうことか、逃げるどころか魔王城の周辺の草むしりを始め、さらには「おばあちゃん、お礼にこれを置いていきます!」と、今まで盗んできた財宝を次々と庭に並べ始めました。
「あらあら、まあ。……なんて律儀な泥棒さんたち。……お礼に、この温かいけんちん汁も飲んでいってくださいな」
「……お、おばあちゃん……! 俺、もう泥棒なんてやめる! 明日からボランティア団体を立ち上げるよ!」
魔王城の庭は、いつの間にか「財宝の返却会場」兼「大宴会場」へと変貌しました。
スノウさんが作った黄金のアイスを、元・盗賊たちが涙を流しながら分け合い、セシルさんが「おしとやかに」演出した月光のライトアップが、その平和な光景を照らし出しました。
【ワールドイベント:『キヨさんの徳のお裾分け』が完遂されました】
【バフ付与:『正直者は得をする』。今後一週間、誠実な行動をとるたびにレアアイテムがドロップします】
4.掲示板の伝説:泥棒改心編
その衝撃の光景は、またもや全プレイヤーを震撼させました。
【オチャノマスレ 041】
100:名無しのアタッカー
全プレイヤー、速報! 世界中の『ブラックリスト』から名前が消えてる!
101:名無しの大魔道士
見てる。……あの『伝説の義賊』たちが、魔王城の庭で割烹着を着てお皿洗いしてるんだが。
102:名無しの密偵
攻略組のトップ(盗賊)が、キヨちゃんにお団子を貰って「俺、前世で盗んだ時間を返してくる」って言って、今初心者のレベル上げを手伝いに行ってるぞ。
103:名無しのアタッカー
お月見団子(現在は最強の厚生プログラムとして機能中)
104:名無しの聖職者
運営の公式ブログ:『今年の十五夜イベントは、おばあちゃんの介入により「世界一正直な村づくりイベント」に変更されました。悪事を働こうとすると、お団子の匂いがして戦意を喪失するバグ(仕様)が発生中です』
105:運営の悲鳴(改心済み)
【最終告知】おばあちゃんの「お裾分け」のせいで、ゲーム内の犯罪率が0%になりました。
刑務所エリアが「温泉施設」に改装されました。皆さん、お月様を見て、清らかな心で過ごしましょう。
「ふぅ。皆さん、素直になって良かったですねぇ、セシルさん」
深夜。月が一番高く昇った頃。魔王城の庭は、返却された財宝(という名の、おばあちゃんへの贈り物)の山と、ぐっすり眠る元・泥棒たちでいっぱいでした。
スノウさんは私の膝の上で、月の光で光る金平糖を食べながら、小さく「……泥棒さん、もう、いない。……みんな、おばあちゃんの、お友達」と呟きました。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『紅葉の精霊』を召喚して、世界中を燃えるような秋の色に染め上げる『特大の焚き火大会』の準備をいたしましょうか」
「……焚き火。……お芋、焼く。……私、お芋、冷やさない。……ホクホク、守る」
スノウさんの少しだけ成長した言葉に、リタさんの「お芋は熱いのが一番よ!」という幸せそうなツッコミが、秋の満月の夜に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「お月見」は、世界の悪意を、最高に温かな「真心の交流」へと変えてしまったのでした。




