第3話:おばあちゃん、ギルドの看板娘(自称)と出会う
1.門前の騒動と、一人の剣士
ポチの背に揺られて数十分。ようやく見えてきた最初の街『アステリア』の巨大な門の前は、異様な熱気に包まれていました。
「な、なんだあの金色の化け物は!? 総員、構えろーっ!」
「待て! 背中に……子供が乗ってるぞ!?」
門兵たちが槍をガタガタと震わせる中、私はポチからひょいと飛び降りました。
「あら、お騒がせしてすみませんね。この子はポチ、とってもお行儀がいいんですよ。ほら、ポチ、ご挨拶は?」
ワンッ! とポチが短く吠えると、その風圧だけで門兵たちの兜が吹き飛びました。
そんな騒動の最中、人混みを割って一人の女性が飛び出してきました。
「ちょっと待ったぁ! そこ、止まりなさい!」
現れたのは、ポニーテールに結った燃えるような赤髪と、凛々しい瞳が特徴の美少女でした。
体にフィットした軽銀の鎧を纏い、腰には立派な細剣を下げています。見たところ十七、八歳といったところでしょうか。
「私はBランク冒険者のリタ! 街の前で魔獣を暴れさせるなんて、いくら子供でも見過ごせないわよ! さあ、そのモンスターを……」
リタさんは威勢よく叫びましたが、私と目が合った瞬間、ピタリと動きを止めました。
「……はぁ? 割烹着……? 箒……?」
「あら、元気のいいお嬢さん。お名前はリタさんっていうのね。こんにちは。私はキヨ。この子はポチ、私の家族ですよ」
私はにっこりと微笑み、ポチの頭を撫でました。
リタさんは、伝説のケルベロス(の浄化体)が、小さな少女に「もっと撫でて」と鼻を鳴らしている光景を見て、剣を構えたまま固まってしまいました。
2.おばあちゃんの「飴ちゃん」攻撃
「家族って……あんたねぇ、それはどう見ても災厄級の魔獣でしょうが! なんでそんな子がこんな街に……」
「まあまあ、そんなに怖い顔をしないで。お近づきの印に、これを差し上げましょう」
私はリタさんの手に、ポイっと小さな「塊」を乗せました。
「な、何よこれ。石……? 宝石?」
それは、私がログイン直後に「暇つぶしに」と、近くの魔力結晶が混ざった土をこねて作った『手作りべっこう飴(魔力超高圧縮版)』でした。
「飴ちゃんですよ。疲れた時には甘いものが一番です」
「飴? ……ふん、私はこれでも売れっ子の冒険者なのよ。子供の持ってるお菓子なんて……」
リタさんは疑わしげに、けれどその甘い香りに抗えず、飴を口に放り込みました。
その瞬間。
「…………っ!!???」
リタさんの全身から、パチパチと青白い火花が飛び散りました。
彼女が長年の修行で溜め込んでいた疲弊が一瞬で消滅し、魔力回路が限界突破して再構築されていく音が、周囲にまで聞こえるほどでした。
【アイテム:キヨの飴ちゃんを摂取】
【全ステータスが一時的に10倍に上昇しました】
【称号:『甘党の覚醒者』を獲得】
「な、ななな、何これぇ!? 体が軽い……っていうか、力が溢れすぎて、今なら魔王でも素手で倒せそうな気がするんだけど!?」
「ふふ、お口に合ったようで良かったわ。さあ、リタさん。この街の『ぎるど』というところへ連れて行ってくださるかしら?」
私はリタさんの手を優しく握りました。
その小さな、温かな手の感触に、リタさんの頬がポッと赤く染まりました。
「……あ、う、うん。……わかったわよ。危なっかしいし、私が案内してあげるわ! 勘違いしないでよね、あんたが迷子になったら寝覚めが悪いだけなんだから!」
典型的な「ツンデレ」な反応を見せるリタさんでしたが、その尻尾は嬉しそうに揺れていました。
3.ギルドの嵐予報
リタさんに引かれ、私はポチを連れて(ポチは街の外で待機させようとしましたが、リタさんが飴のパワーで門兵を黙らせて通してくれました)冒険者ギルドへと足を踏み入れました。
酒場を併設した広いホールには、屈強な男たちがたむろしていましたが、銀髪の美少女と黄金の巨犬、そして「異様な魔力を放ちながら顔を赤くしている看板冒険者のリタ」という組み合わせに、一瞬で静まり返りました。
「おーい、リタ! そのお嬢ちゃんは誰だ?」
「おい見ろよ、リタのステータス……何かの間違いか? 数値がバグって測定不能になってるぞ!」
「うるさいわね! この子はキヨ。私の……その、大切なお客さんよ!」
リタさんはそう言いながら、私の前に立って周囲を牽制するように胸を張りました。
私はその後ろから、ひょいと顔を出して言いました。
「皆さん、こんにちは。おばあちゃんのキヨですよ。あの、ここにお茶とお菓子はありますか?」
そのあまりにも「ほのぼの」とした言葉に、屈強な冒険者たちが一斉にずっこけました。
こうして、キヨさんと、彼女に胃袋を掴まれ始めた苦労人美少女リタの、おかしな冒険が幕を開けたのです。




