第37話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「七夕の笹飾り」に転用する
1.夜空への手紙と「笹」の選定
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。カレンダーを見れば、もう七月ですねぇ。お空の織姫さんと彦星さんが、一年に一度のデートを楽しめるように、私たちも応援してあげなくてはいけませんわ」
魔王城(隠居所)の広間にて、私は色とりどりの折り紙を広げながら微笑みました。
この世界において『七夕』とは、天界の門が開き、運が良ければ「神の啓示」が降りてくるという、非常にレアな星属性のイベント日。
しかし、近年では星々の力が弱まり、天の川は濁り、二人の神は再会すら危ういという「悲恋のバッドエンド」が予定されていました。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、遠距離恋愛を成就させる手助けをするのは、何よりロマンチックな務めですわ。……今、異界の『彗星の工匠』を召喚し、一振りで銀河を掃除するという『星屑のハサミ』で、最高に風流な短冊を切り出させておりますわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔力で発光する「流星の紙」を束ねていました。その紙に願いを書けば、物理的に「運命」というプログラムを上書きできるという、一歩間違えれば世界が崩壊するほどの禁忌のアイテムでした。
「……七夕。……お星様、冷たい? ……私、氷の星、作った。……キラキラ、飾りたい」
スノウさんは、無表情ながらもどこか楽しそうに、指先から極小の「雪の結晶(宝石級の価値)」を生み出し、それを笹の枝に結びつける糸として加工していました。
彼女の冷気は、今や「願いを永久に保存する」ための聖なる結界へと昇華されています。
「ちょっと! 二人とも、気合が入りすぎよ! ほら、外を見て! 魔王が持ってきたあの笹、あれ『世界樹の苗木』じゃない! あんな巨大なものを庭に立てたら、宇宙まで届いちゃうわよ!」
リタさんが、魔王城の屋根を突き抜けそうな巨大な笹(実は魔王が暗黒大陸から根こそぎ持ってきた聖遺物)を指差して絶叫しました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(短冊編)」
「あらリタさん。背が高い方が、お星様にも手が届きやすくていいじゃありませんか。……さて、皆さんの願い事を書きましょう。……魔王さん、筆をお願いしますね」
「うむ! 我の魔力を込め、全宇宙に響き渡る『達筆』で、世界平和(と、美味しいお漬物)の継続を祈願しようではないか!」
魔王様は、エプロンの上に「七夕奉行」と書かれたタスキを締め、巨大な筆を構えました。
私は、割烹着のポケットから「墨(実は第30話で神様から貰ったお年玉の墨)」を取り出し、硯で丁寧にすりました。
「はい、おまじないをして……『皆の願いが、お星様に届きますように』」
私が竹箒で笹の葉をサッサと撫でた、その瞬間。
シュォォォォォォォォン!!
巨大な笹に吊るされた数万枚の短冊が、まばゆい黄金の光を放ち、一本の「光の柱」となって天界の門を直撃しました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(七夕飾り)が発動】
【笹飾りが『銀河鉄道の道標』に進化しました】
【効果:天の川の濁りを一瞬で浄化し、織姫と彦星の間に『超高速特急便』を開通させる】
3.「天の川」の清掃と再会
「あらあら、まあ。……天の川さんが、ずいぶんと埃っぽくなっていますねぇ。これでは二人が会う時に足元が滑ってしまいますわ。……セシルさん、ハタキをお願いします」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、異界の『大気の掃除機』を召喚し、宇宙の塵を一掃させていただきますわ」
セシルさんが呪文を唱えると、魔王城から巨大な吸引力が発生し、夜空を覆っていた暗雲や宇宙ゴミが、一瞬にして吸い取られていきました。
空には、かつてないほど鮮やかな、宝石を散りばめたような「本物の天の川」が出現。
あまりの美しさに、地上にいた全プレイヤーやモンスターたちは武器を置き、ただ呆然と空を見上げました。
「……お星様、笑ってる。……織姫さん、彦星さん、会えた。……良かった」
スノウさんは、夜空に浮かぶ二つの大きな星が、光り輝きながら寄り添う様子を見て、少しだけ微笑みました。
その涙は小さな星屑となり、地上に「幸運の雨」となって降り注ぎました。
【ワールドイベント:『キヨさんの銀河清掃』が完遂されました】
【バフ付与:『星の加護』。今後一週間、全ての合成成功率が100%になります】
4.掲示板の伝説:スターライト・清掃編
その光景は、またもや全プレイヤーを感動と驚愕の渦に叩き落としました。
【オチャノマスレ 037】
800:名無しのアタッカー
全プレイヤー、空を見ろ。……涙が出てきた。こんなに綺麗な夜空、現実でも見たことない。
801:名無しの大魔道士
見てる。……天の川が「ルンバ」で掃除されたみたいにピカピカなんだが。
鑑定したら『空の透明度:無限(おばあちゃんの掃除による)』って出たぞ。
802:名無しの密偵
攻略組のトップが、笹飾りの頂上から天界へのハシゴを登って「俺、織姫さんの荷物持ちやってくるわ」って言って、今スカイダイビング並みの速度で星を渡ってるぞ。
803:名無しのアタッカー
七夕の笹(現在は宇宙エレベーターとして機能中)
804:名無しの聖職者
キヨちゃんが書いた短冊『皆さんが風邪を引かずに、美味しくご飯を食べられますように』のせいで、全モンスターのHPが全回復して、みんなでスイカ食べ始めたぞ。
805:運営の悲鳴(天体観測中)
【最終告知】天界のバッドエンド設定を削除しました。
おばあちゃんが天の川に「飛び石」を置いたせいで、織姫と彦星が毎日会える仕様になりました。七夕は今日から「毎日が記念日」に変更します。
「ふぅ。二人が仲良くできて、本当に良かったですねぇ、セシルさん」
深夜。魔王城の庭で、私たちは笹の下に集まり、冷えたスイカ(スノウさん製)を食べていました。
隣では、魔王様が「我の願い『角を磨くワックスが欲しい』も、星の力で叶ったぞ!」と、ピカピカの角を自慢しています。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『流星の神』を捕獲……いえ、招待して、世界中に『願いが叶う星の欠片』を定時配布させましょうか」
「……お星様、美味しい。……私、星の金平糖、作った。……おばあちゃん、食べて」
スノウさんの差し出した「光る金平糖」に、リタさんの「もう天界そのものが、おばあちゃんのお庭になっちゃったわね」という幸せそうな溜息が、満天の星空に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「七夕」は、世界の悲恋を、最高にキラキラした「永遠の再会」へと変えてしまったのでした。




