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第36話:おばあちゃん、梅界の長雨を「巨大なてるてる坊主」で解決する

1.止まない雨と「生乾き」の悩み

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。空がずいぶんと長い間、シクシクと泣いていますねぇ。これではせっかく洗った魔王さんのエプロンも、いつまでも湿っぽいままで、お料理の時に元気がなくなってしまいますわ」

 

六月の中旬。魔王城(隠居所)の広大な洗濯場には、山のような洗濯物が吊るされていました。


しかし、外は連日の大雨。この世界では『梅雨』とは、水界の魔神が地上を支配する期間とされ、湿気で木材は腐り、金属は一晩で赤錆に覆われるという、物理的にも精神的にも過酷なデバフ(弱体化)期間でした。


「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、衣類から漂う『生乾きの臭い』は、淑女の尊厳に関わる重大な問題ですわ。……今、異界の『熱風の巨神』を召喚し、城内の湿度をマイナス100%にまで叩き落とそうとしておりますが……。どうやらこの雨、雲の向こうに住む『雨龍』が、重度の五月病で泣き止まないのが原因のようですわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔力で編み上げた「超強力除湿フィルター」を各部屋に配置していました。


彼女の召喚術は、今や「完璧なランドリーシステム」ですが、外に干せないもどかしさは解消されません。

 

「……雨、嫌い。……私の氷、溶けて、ベチャベチャになる。……おばあちゃん、太陽、見たい。……お空に、お洗濯もの、干したい」

 

スノウさんは、無表情ながらも少しだけ眉を下げて、湿ったシーツの端っこを掴んでいました。


彼女の放つ冷気でさえ、湿気を含んだ重い空気には勝てず、部屋の中はどんよりとした空気に包まれています。

 

「ちょっと! 城の地下が浸水し始めてるわよ! 魔王軍の残党たちが『もうカビが生えるのは嫌だ!』って言って、みんなでカエルのお面を被って踊り狂い始めてるわ! キヨ、なんとかして!」

 

リタさんが、湿気で少し縮んだ(?)聖剣を抱えながら叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(てるてる坊主編)」

 

「あらあら、まあ。……雨龍さんも、寂しいのね。……よし、それならね、皆さんに『笑顔』を届けてあげましょう。……セシルさん、倉庫にある『古びたシーツ』を持ってきてちょうだい」

 

私は、かつて第13話で浮遊島に干した「太陽の力を吸い込んだシーツ(実は最高級の聖遺物)」を取り出しました。

 

「はい、これをこうして……。中に丸めた古新聞を詰めて。……顔はね、一番大事ですよ。……スノウさん、この子の『お顔』を書いてあげてくださいな」

 

「……お顔。……私、絵、得意じゃない。……でも、おばあちゃんの、笑顔……真似する」

 

スノウさんは、指先にわずかな墨をつけ、シーツに「にっこり」と、どこかおばあちゃんに似た慈愛に満ちた表情を描きました。

 

「まあ、可愛い。……さて、仕上げです。……セシルさん、この子を少しだけ『高く』掲げてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『天空召喚・天照アマテラス』の術式を、このてるてる坊主の『核』として転用いたしますわ」

 

セシルさんが呪文を唱えると、私の作ったてるてる坊主が、まばゆい黄金の光を放ちながら、魔王城の屋上から空高くへと舞い上がりました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(てるてる坊主)が発動】

【てるてる坊主が『気象改変神獣・日照大童子ひでりおおどうじ』に進化しました】

【効果:半径500km以内の雨雲を『綿菓子』に変換し、地上に究極の『日光浴』をもたらす】

 

3.雲の向こうの「和解」と乾燥

 

てるてる坊主が空に到達した瞬間、どす黒く垂れ込めていた雨雲が、一瞬にして美味しそうな「真っ白な綿菓子」へと変わっていきました。


そして、雲の向こうで泣いていた雨龍が、てるてる坊主の「笑顔」を見た瞬間、毒気を抜かれたように「きゅーん」と鳴いて、大人しく私の足元へと降りてきました。

 

「あらあら、まあ。……大きな赤ちゃんねぇ。……よしよし、寂しかったのね。……はい、お茶とお菓子ですよ」

 

私が雨龍(体長50メートル)の鼻先をハタキでパシパシと撫でると、龍は嬉しそうに喉を鳴らし、雨を降らせる代わりに、魔王城の洗濯物を乾かすための「心地よい微風」を口から吐き出し始めました。

 

「……な、何これ!? 雨が止まったどころか、洗濯物が三秒で乾いていくわ! しかも、太陽の匂いがする!」

 

リタさんは、乾きたてのタオルに顔を埋めて感動の声を上げました。

 

「……空、青い。……お洗濯もの、フワフワ。……おばあちゃんの笑顔、世界、救った」

 

スノウさんも、青空を見上げて、少しだけ口角を上げました。


彼女が作った「氷のグラス」に、雨龍がお礼として差し出した「至高の雨水(聖水)」が注がれ、一行は豪華なティータイムを楽しみました。

 

4.掲示板の伝説:梅雨明け宣言編

 

その驚愕の光景は、またもや全プレイヤーの画面をジャックしました。

 

【オチャノマスレ 036】

 

700:名無しのアタッカー

全プレイヤーに報告。現在、マップ全域から「雨」が消滅。

代わりに、空から『綿菓子』が降ってきている。

 

701:名無しの大魔道士

見てる。……あの巨大な白い塊、てるてる坊主かよ!

鑑定したら『光属性:太陽のキヨ』って出たぞ。

 

702:名無しの密偵

攻略組のトップが、雨龍の背中で洗濯物を干しているおばあちゃんを発見。

龍が大人しく「お座り」して、キヨちゃんに頭を撫でられてるぞ。

 

703:名無しのアタッカー

てるてる坊主(現在は人工太陽として機能中)

 

704:名無しの聖職者

運営の緊急告知:『湿気による装備の劣化設定を、おばあちゃんのてるてる坊主が働いている間は無効化します。また、空から降る綿菓子を食べると、MPが全回復する仕様に変更しました』

 

705:運営の悲鳴(洗濯中)

【最終告知】サーバー室のカビが消えました。

おばあちゃんの笑顔が眩しすぎて、モニターが見えません。もう雨の日は「洗濯日和」という名のご褒美期間にします。

 

「ふぅ。お洗濯物も乾きましたし、雨龍さんもお友達になりましたねぇ」

 

夕暮れ時。私たちは、ピカピカに乾いた洗濯物を取り込みながら、澄み切った六月の夕焼けを眺めていました。

 

雨龍は魔王城の庭で丸くなり、ポチと一緒にスヤスヤと寝息を立てています。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『七夕の織女』を召喚して、世界中の人々の願いを物理的に叶える『特大の短冊』を用意いたしましょうか」

 

「……七夕、願い事。……私、お星様に、おばあちゃんの、長生き、お願いする」

 

スノウさんの真っ直ぐな願いに、リタさんの「もう十分長生きしてるわよ! ……でも、私も同じこと願っちゃうわね」という照れくさそうなツッコミが、穏やかな梅雨明けの夜風に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「てるてる坊主」は、世界の湿っぽさを、最高に清々しい「心の晴天」へと変えてしまったのでした。

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