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第34話:おばあちゃん、禁断の呪文を「お花見の場所取り」に転用する

1.桜の便りと「戦場」の噂

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。見てください、あちらの山がほんのり桃色に染まっていますよ。……いよいよ桜さんたちが、お目覚めの時期を迎えましたわね」

 

魔王城(隠居所)の物見櫓から、私は遠くの『聖なる桜嶺』を指差して目を細めました。


そこは、千年に一度だけ満開になるという伝説の巨木『世界樹・桜』が鎮座する場所。


この世界では、その下で花見をすれば「一年間のドロップ率が倍増する」という噂があり、血気盛んなギルドたちが場所取りのために血みどろの抗争を繰り広げる「春の最前線」として恐れられていました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかな女性として、美しい花を愛でるのは至高の喜び。……ですが、あちらの桜嶺は今、数万の軍勢が陣取り合戦を行っており、一歩足を踏み入れれば矢の雨が降るという、お花見どころではない修羅場となっておりますわ」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『偵察の小鳥』を飛ばして戦況を分析しています。

 

「……お花見、したい。……でも、戦うの、嫌い。……おばあちゃんと、静かに、お茶を飲みたい」

 

スノウさんは、無表情ながらも不安そうに私の割烹着の袖を引きました。


彼女の周りには、期待に胸を膨らませた小さな雪の精霊たちが、花びらの形をした氷を作って舞い踊っています。

 

「大丈夫ですよ、スノウさん。お花見はね、みんなで仲良く楽しむものです。……よし、皆さん。場所取りの『準備』をしましょうか。魔王さん、あの大きなブルーシート……いえ、『結界の敷布』を持ってきてちょうだい」

 

「うむ! 我が魔力で編み上げた、最強の場所取りマットだな! 四天王! 出撃だ! キヨ殿のために、特等席を確保するぞ!」

 

「ちょっと待って魔王、軍勢を率いて行ったら余計に戦争になるでしょ!」

 

リタさんのツッコミを背に、私たちは「お弁当」と「お茶」をポチの背中に積み込み、激戦区へと向かいました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(場所取り編)」

 

『聖なる桜嶺』に到着すると、そこは想像を絶する光景でした。

 

伝説の巨拳使いと、氷の魔導師が、一本の桜の木の下を巡って「ここは俺のギルドの場所だ!」「いや、我らが三日前から並んでいた!」と、今にも最終決戦アルマゲドンを始めようとしていました。

 

「あらあら、まあ。……皆さん、そんなに怖い顔をして。……せっかくの桜さんが、驚いて散ってしまいますよ」

 

私がトコトコと戦士たちの間に割って入ると、周囲の温度がピタリと一定になりました。


セシルさんが「おしとやかに」召喚した『静寂の女神』の加護により、あらゆる武器が「お箸」のような質感に変わってしまったのです。

 

「な……なんだ!? 剣が……剣が折れないどころか、しなって攻撃できない!?」

 

「皆さん、場所取りはね、力ではなく『丁寧なご挨拶』で決めるものですよ。……セシルさん、例の『禁断の呪文』をお願いします」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『広域洗脳魔術・絶対服従』の術式を、お花見の『マナー放送』へと転用いたしますわ」

 

セシルさんが呪文を唱えると、私の手元にあった「メガホン(実は伝説の聖遺物)」が黄金色に輝きました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(場所取り)が発動】

【禁断の呪文が『ご近所づきあいの極意』に上書きされました】

【効果:半径10km以内の全ユニットに『相席の精神』と『ゴミ持ち帰り義務』を強制付与する】

 

「はい、皆さん。右の方は少し詰めて。……左の方は、お隣さんに醤油を貸してあげて。……仲良く座れば、世界はこんなに広いんですよ」

 

私が巨大なブルーシートをパサリと広げると、殺気立っていた数万の戦士たちが、魔法にかかったように(物理的に魔法ですが)「おっと、失礼」「いえ、こちらこそ」と会釈をし合い、規律正しく正座を始めたのでした。

 

3.スノウちゃんの「冷やし団子」と宴

 

「……おばあちゃん、すごい。……みんな、ニコニコしてる。……私、お団子、冷やす。……最高に、美味しい温度」

 

スノウさんは、私の隣で嬉しそうに、三色団子を指先から出る「優しい冷気」で冷やし始めました。


彼女が冷やしたお団子は、桜の香りを一瞬で閉じ込め、口の中で春が弾ける絶品スイーツへと進化しました。


さらにセシルさんが、異界の『醸造の神』を呼び寄せ、アルコール度数0%なのに百年の孤独すら癒やす『聖なる甘酒』を世界中のプレイヤーに配り始めました。

 

「……旨い。戦うのが馬鹿らしくなってきたな」

 

「ああ……お隣のギルドの長、実はいい奴だったんだな。……さあ、このおはぎ(第26話の余り)を食べてくれ」

 

戦場だった桜嶺は、一瞬にして世界一巨大な「お花見会場」へと変貌しました。魔王様と四天王は、いつの間にか高レベルプレイヤーたちと「魔王城の漬物の漬け方」について談笑し、リタさんはスノウさんと一緒に、若い冒険者たちにお団子を配り歩いていました。

 

【ワールドイベント:『世界樹・桜の平和な宴』が完遂されました】

【バフ付与:『一期一会』。今後一週間、初対面のプレイヤー同士の取引価格が90%オフになります】

 

4.掲示板の伝説:花見場所取り編

 

その平和すぎる光景は、またもや運営とプレイヤーを震撼させました。

 

【オチャノマスレ 034】

 

500:名無しのアタッカー

全プレイヤーに告ぐ。現在、聖なる桜嶺で「大宴会」が開催中。

ギルド抗争? なにそれ、美味しいの?

 

501:名無しの大魔道士

見てる。……あの『広域洗脳』、凄まじすぎるだろ。

画面越しに見てる俺まで、なんだか隣の家に挨拶に行きたくなってきたぞ。

 

502:名無しの密偵

攻略組のトップが、スノウちゃんのお団子を食って「俺、勇者引退して実家の桜を守るわ」って言って、今その場で植樹を始めたぞ。

 

503:名無しのアタッカー

お花見(現在は世界最大の親睦会)

 

504:名無しの聖職者

キヨちゃんが「ゴミは持ち帰りましょうね」って一言言ったら、エリア内の全モンスターが自発的に清掃を開始した。

今、桜嶺にチリ一つ落ちてないどころか、空気まで洗浄されてマイナスイオンがカンストしてる。

 

505:運営の年始挨拶(再)

【最終告知】春の対人戦イベントは中止します。

運営スタッフも全員、おばあちゃんのシートに相席させてもらっています。

お団子が美味すぎて、キーボードが打てません。皆さん、春を楽しみましょう。

 

「ふぅ。皆さん、楽しそうで何よりですねぇ、セシルさん」

 

夜。満開の桜の下、私たちはライトアップされた巨木(実は魔王の炎魔法で優しく照らしている)を眺めていました。

 

ポチは桜吹雪の中で気持ちよさそうに昼寝をし、スノウさんは私の膝の上で、小さく「……幸せ」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『夜桜の精霊』を召喚して、世界中の空に『散らない桜』を投影いたしましょうか」

 

「……夜桜、綺麗。……私、光る氷、作る。……もっと、キラキラさせる」

 

スノウさんとセシルさんの新しい共同作業に、リタさんの「もう世界中がピンク色になっちゃうわよ!」というツッコミが、穏やかな春の夜に溶けていきました。

 

百歳の少女(魂)の「場所取り」は、世界の争いを、最高に美しく温かな「春の思い出」へと変えてしまったのでした。

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