第33話:おばあちゃん、春一番の突風を「巨大なはたき掛け」で鎮める
1.暴風の予感と「大掃除」の決意
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今朝の風は、なんだか窓ガラスを叩いて『中に入れて』とせっついているようですわね。……これは、春の嵐がご挨拶に来る予感ですわ」
魔王城(現在は『隠居所・魔王城店』)の広い回廊で、私は窓の外を見つめて微笑みました。
三月の初旬。この世界では『春一番』とは、北の魔域から吹き下ろす凶悪な暴風魔法の残滓とされ、街の屋根を吹き飛ばし、家畜を空へさらう恐怖の象徴でした。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、風の悪戯に髪を乱されるのは不作法というもの。……今、異界の『真空の魔神』を呼び寄せ、城の周囲に絶対静止の結界を張ろうとしておりますが……。どうやら今回の風は、龍族の吐息が混じっているようで、少々荒ぶっておりますわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔力で編み上げた「見えない防風ネット」を展開していました。
彼女の召喚術は、今や「完璧な防災システム」ですが、私には別の考えがありました。
「……風、強い。……私の雪、全部飛ばされる。……おばあちゃん、危ないから、中に入って」
スノウさんは、無表情ながらも心配そうに私の割烹着の裾を掴みました。彼女の放つ冷気でさえ、吹き荒れる熱風にすぐにかき消されてしまいます。
「いいえ、スノウさん。こんなに強い風が吹くのは、神様が『お掃除をしなさい』と仰っているのですよ。……ほら、棚の裏や天井の隅に溜まった冬の埃……。これを利用すれば、一気に綺麗にできますわ」
「ちょっと待って、キヨ! 風を利用ってお掃除に使う気!? あれ、最大風速40メートル超えてるわよ! お掃除どころか城ごと飛んでいくわよ!」
リタさんが、聖剣を杖にして踏ん張りながら叫びました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(巨大はたき編)」
私は、割烹着のポケットから、かつて第1話で龍を大人しくさせた「伝説の竹箒」と、第28話で編んだ「聖なる毛糸の余り」を取り出しました。
「はい、これをこうして……。箒の先に毛糸をたっぷり巻き付けて。……セシルさん、このハタキを少し『大きく』してくださる?」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、異界の『巨人の工匠』を召喚し、このハタキに『概念拡張』の付与を施しますわ」
セシルさんが呪文を唱えると、私の手元にあったハタキが、まばゆい光を放ちながら膨れ上がり、ついには魔王城の塔よりも巨大な、雲を突くような「超巨大ハタキ」へと変貌しました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(春の大掃除)が発動】
【巨大ハタキが『暴風調律・埃滅殺』に昇華されました】
【効果:風を叩くことで、そのエネルギーを『吸引力』と『浄化の光』に変換する】
「さあ、皆さん。窓を全部開けてくださいな。……春の風さん、お入りなさい!」
私が巨大ハタキを空に向かって一閃、バサリと振るった瞬間。
ドォォォォォォォォォン!!
魔王城を破壊しようと迫っていた春一番の突風が、ハタキに吸い込まれるようにして軌道を変えました。
風は城内を通り抜けながら、私のハタキ掛けによって「心地よいルンバのような掃除風」へと調律され、千年分の埃を一瞬で吸い取って、空の彼方へと消し去っていったのです。
3.空飛ぶ「埃の魔王」と解決
「……な、何これ!? 風が……風がお掃除してる! しかも、私の服の汚れまで全部落ちたんだけど!」
リタさんは、風に包まれてピカピカになった自分を見つめて目を丸くしました。
「……おばあちゃんのハタキ、すごい。……空の雲まで、綺麗になった。……星が、お昼なのに見える」
スノウさんも、澄み渡った空を見上げて、驚きのあまり少しだけ口を開けています。
しかし、風が吸い取った「世界中の埃」が空中で固まり、巨大な『埃のゴーレム』となって暴れ出そうとしました。
「あらあら、まあ。……お行儀の悪い。……スノウさん、少しだけ『霧吹き』をお願いできますか?」
「……はい。……アイス・ミスト」
スノウさんが放った微細な氷の粒が埃のゴーレムを湿らせ、そこに私が巨大ハタキで「ペシッ!」とお布団を叩くように一撃を加えました。
【スキル:おばあちゃんの知恵袋(埃叩き)】
【埃のゴーレムが『最高級の肥料』に分解されました】
【効果:世界中の農地の収穫量が200%上昇します】
空から降ってきたのは、真っ黒な埃ではなく、大地の栄養となる黄金の粉でした。
こうして、世界を恐怖に陥れるはずだった春一番は、おばあちゃんの「はたき掛け」によって、世界中の家を掃除し、畑を豊かにする「慈愛の風」へと姿を変えたのでした。
4.掲示板の伝説:春のクリーン作戦編
その光景は、もちろんライブ配信され、全世界のプレイヤーを仰天させました。
【オチャノマスレ 033】
400:名無しのアタッカー
緊急速報。さっきの暴風で死ぬかと思ったら、一瞬で部屋がピカピカになった。
401:名無しの大魔道士
見てる。……キヨちゃんが巨大なハタキで空を叩いてるぞ。
公式ログが出た。『春一番の属性が「自然災害」から「おばあちゃんの手伝い」に変更されました』だって。
402:名無しの密偵
それより、空から降ってきた「黄金の粉」を浴びた俺の装備、耐久値が全回復したんだが。
これ、埃じゃなくて『万能リペア粉末』だろ!
403:名無しのアタッカー
春一番(現在は世界一巨大なダイソン)
404:名無しの聖職者
新キャラのスノウちゃん、ハタキの後に霧吹き役やってて可愛すぎ。
「おばあちゃん、次は、窓拭き……やる」って言って、今、世界中の窓を氷の魔法で磨き上げてるぞ。
405:運営の悲鳴(掃除済み)
【最終告知】サーバー室の埃が、キヨさんのハタキ掛けで全消滅しました。
冷却効率が上がりすぎて、運営ビルがマイナス30度になっています。スノウちゃん、少し加減してください。
「ふぅ。お家も空もピカピカになって、気持ちが良いですねぇ、セシルさん」
夕暮れ時。魔王城の縁側で、私たちは澄み切った空を眺めながらお茶を啜っていました。
隣では、魔王様(広報部長)が「我の角も、風で磨かれてツヤが出たぞ」と嬉しそうに鏡を見ています。
「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『洗濯の女神』を召喚して、世界中の雲を全部丸洗いして、最高の『お花見日和』を作り上げましょうか」
「……お花見、楽しみ。……私、三色団子、冷やす」
スノウさんのやる気満々な言葉に、リタさんの「お団子を凍らせちゃダメよ!」というツッコミが、春の優しい風に乗って響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「はたき掛け」は、世界の嵐を、最高に清々しい「春の訪れ」へと変えてしまったのでした。




