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第32話:おばあちゃん、バレンタインのチョコ作りを「錬金術の極致」で行う

1.二月の風と「カカオ」の儀式

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。もうすぐ二月十四日ですねぇ。街の若い人たちが、綺麗なリボンを持ってなんだか楽しそう。……私たちも、日頃お世話になっている皆さんに、甘いものでも作りましょうか」

 

魔王城(隠居所)の台所。


私は、割烹着の袖をまくり上げながら、楽しそうに提案しました。

 

かつてバレンタインといえば、このゲームでは「特定のNPCの好感度を競い合い、時にはプレイヤー同士が愛の深さを物理的に(決闘で)証明する」という、血で血を洗う修羅場イベントでした。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、秘めたる想いを形にするバレンタインは、最も腕の見せ所ですわ。……今、異界の『カカオの聖霊』を召喚し、一粒で魂を蕩けさせる究極の実を収穫させておりますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔力で熟成された「漆黒の宝石」のようなカカオ豆を運び込んできました。

 

「……チョコ、作りたい。……私、冷やすのだけは、得意だから。……チョコのテンパリング、絶対零度で完璧にやる」

 

スノウさんは、無表情ながらも瞳に情熱を宿し、指先から正確無比な冷気(デバフ除去済み)を放ちながら、チョコを固める準備をしています。

 

「ちょっと! 二人ともやる気満々だけど、これ、普通のチョコじゃないでしょ! 鑑定したら『一口食べれば、全人類が兄弟のように愛し合える』って出てるわよ! それ、バレンタインの規模を超えてない!?」

 

リタさんが、驚愕でカカオの山を見上げながら叫びました。


彼女は最近、キヨさんの「お裾分け」が、世界平和という名のシステム改変を引き起こすことに戦々恐々としていました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(チョコ作り編)」

 

「あらリタさん。愛なんてね、お腹が温まって心が甘くなれば、自然と湧いてくるものですよ。……さあ、魔王さんも。火加減をお願いしますね」

 

「うむ。キヨ殿。我の魔力を練り込み、最高にビターで、それでいて優しい後味のチョコを炊き上げてみせよう」

 

魔王様は、エプロンの上に「義理人情」と書かれたハチマキを締め、真剣な眼差しで大鍋に向かいました。

 

私は、割烹着のポケットから「お砂糖(実は第19話で当てた特等の聖粉)」を取り出し、鍋にふりかけました。

 

「はい、おまじないをして……『仲良くな〜れ、仲良くな〜れ』」

 

私が竹箒で鍋をひと回しすると、城全体に、それはそれは甘美で、嗅ぐだけで過去の喧嘩をすべて許せてしまうような、至高の香りが漂い始めました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋バレンタインが発動】

【手作りチョコが『至高の和解カカオ』へと昇華されました】

【効果:食べると『敵対フラグ』が完全消滅し、全NPCが友好状態になる】

 

「ふぅ。次は形ですねぇ。……ポチの形と、クロの形。……あと、運営の皆さんにも『お疲れ様』の形を送りましょうね」

 

セシルさんの召喚した「千手のショコラティエ魔神」たちが、一分間に数万個のペースで、芸術的なチョコを仕上げていきました。

 

3.世界中へ届く「おばあちゃんの愛」

 

「さて、これを世界中の皆さんへ。……スノウさん、出番ですよ」

 

「……はい、キヨ様。……私の冷気で、チョコを新鮮なまま、世界中のポストに届けます。……北風の精霊、出発」

 

スノウさんがおしとやかに(セシルの教え)腕を振ると、キラキラと輝く雪の結晶に包まれたチョコが、大陸全土へと舞い散っていきました。

 

その日、世界中の戦場で、驚くべき光景が見られました。

 

剣を交えていたライバルたちが、空から降ってきたチョコを一口食べた瞬間、涙を流して抱き合ったのです。

 

「……俺は、なぜ君と戦っていたんだ……。こんなに甘い世界があるのに……」

 

「友よ……。このチョコの隠し味の『隠しきれない優しさ』に、俺の邪心は消え去ったよ……」

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんのバレンタイン』が完遂されました】

【バフ付与:『愛の惑星』。今後一ヶ月、ダメージ判定がハートマークに変換されます】

 

4.掲示板の伝説:バレンタイン革命編

 

その様子は、もちろんライブ配信で全プレイヤーを狂乱(幸福)の渦に巻き込みました。

 

【オチャノマスレ 032】

 

300:名無しのアタッカー

全プレイヤーに告ぐ。現在、物理攻撃が効かない。

相手を殴ると、ダメージの代わりに「大好き!」っていうエフェクトとチョコが出るんだが。

 

301:名無しの大魔道士

見てる。……キヨちゃん、ついに「暴力」というシステムを愛で塗りつぶしやがった。

運営の修正予告が出たぞ。『バグではありません。おばあちゃんのチョコが美味しすぎたので、システムが戦うのを拒否しています』だって。

 

302:名無しの密偵

攻略組の最前線から報告。魔王軍の残党が、今は「チョコのラッピング作業」の内職をやってる。

「おばあちゃんに褒められたい」っていう一心で、時速1000個のペースでリボンを巻いてるぞ。

 

303:名無しのアタッカー

バレンタインチョコ(現在は世界唯一の通貨兼兵器)

 

304:名無しの聖職者

スノウちゃん、新キャラなのにもう完全にキヨちゃんに染まってるな。

「冷気は、チョコを美味しくするためにある」って言いながら、運営ビルを丸ごと冷蔵庫にしてチョコの鮮度を守ってる。

 

305:運営の悲鳴(チョコ摂取済み)

【最終告知】バレンタイン期間を、おばあちゃんの要望により『全人類感謝月間』に延長します。

チョコが美味すぎて、もう修正する気が起きません。みんなで愛し合ってください。

 

「ふぅ。皆さん、仲良くチョコを食べてくださって嬉しいですねぇ、セシルさん」

 

夕暮れ時。魔王城の庭では、ポチ、クロ、魔王、そして三人の可愛い娘たちが、みんなでお茶を飲みながらチョコを試食していました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次はホワイトデーに向けて、異界の『マシュマロの神』を拉致……いえ、招待しておきましょうか」

 

「……ホワイトデー、楽しみ。……私、次は、フローズンマシュマロ、作る」

 

スノウさんの少しだけ緩んだ頬を見て、リタさんは「……もう、この家には『平和』しか残ってないわね」と笑いながらチョコを頬張りました。

 

百歳の少女(魂)の「チョコ作り」は、世界の憎しみを、最高に甘くて温かな「愛」へと変えてしまったのでした。

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