第31話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「冬の雪かき」に転用する
1.白銀の世界と「雪の精」の遭難
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。今朝はお庭が、まるでお砂糖をこぼしたみたいに真っ白ですねぇ。これではポチの足跡がどこまでも続いて、迷子になってしまいますよ」
一月も半ば。魔王城(隠居所)の周囲は、一晩で数メートルもの雪が降り積もる、
未曾有の大雪に見舞われていました。窓の外は視界ゼロの銀世界。
かつてはこの「豪雪イベント」により、多くのプレイヤーが凍死し、街が機能停止に陥るという過酷なシーズンでした。
「はい、キヨ様。……おしとやかな女性として、玄関先が塞がっているのは、お客様をお迎えするにあたって非礼というもの。……今、異界の『熱砂の魔神』を呼び寄せ、城の周りの雪を一瞬で蒸発させようとしておりますが……。どうやら、この雪には強い『魔力』が込められていて、なかなか手強いですわ」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔法陣を維持していますが、今回の雪は普通の雪ではありません。
それは、北の果てにある『氷結の塔』に住む、孤独な雪の精霊の「寂しさ」が溢れ出したものでした。
「ちょっと! 掃除どころじゃないわよ! ほら、あそこの雪だるま……じゃなくて、雪の中に誰か埋まってるわ!」
リタさんが指差した先。雪の山から、青白い髪をした美しい少女の手が、力なく突き出ていました。
「まあ、大変。……早く助けてあげなくては。……ポチ、道を作ってくださいな」
「ハフッ!」
黄金の巨犬ポチが、ラッセル車のように雪を跳ね除けながら進みます。
雪の中から救い出されたのは、透き通るような肌と氷のドレスを纏った、おしとやか……というよりは、無表情で不器用そうな美少女でした。
2.「おばあちゃんの知恵袋(雪かき編)」
「あらあら、まあ。……なんて冷たい体。……リタさん、セシルさん。彼女を中へ。……まずは、温かいスープを作りましょう」
私たちは少女を居間に運び、囲炉裏の火を大きくしました。
少女の名はスノウ。雪の精霊の王女でありながら、あまりにも強力な冷気を放ちすぎて、誰にも触れることができず、自ら降らせた雪に埋もれてしまっていた、究極の「ぼっち精霊」でした。
「……こ、来ないで。……私に触れると、心まで凍りついてしまうわ。……私は、一人で消える運命なの……」
「まあ、そんな悲しいことを言わないで。……冷え性はね、お腹を温めれば治るものですよ。……セシルさん、例の『禁断の術』を用意してちょうだい」
「はい、キヨ様。……おしとやかに、古の『太陽神の裁き』の術式を、雪かき用の『魔法のスコップ』へと加工しておきましたわ」
セシルさんが召喚したのは、光り輝く黄金のスコップ。私はそれを手に、庭へと飛び出しました。
「さあ、スノウさん。あなたの寂しさ、私が全部『雪かき』で片付けてあげますからね。……えいっ!」
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(一斉雪かき)が発動】
【禁断の光熱魔法が『雪かき効率+9999%』に書き換えられました】
【効果:雪をどかすたびに、対象者の『心の氷』を溶かし、友情バフを付与する】
私がスコップを一振りするごとに、山のような雪が黄金の光となって消え去り、同時にスノウさんの全身を包んでいた「孤独の呪い(冷気デバフ)」が、優しい春の陽気へと書き換えられていきました。
3.不器用な「氷の看板娘」の誕生
「……あ、温かい。……私の周りの雪が、溶けていく。……おばあちゃん、あなたは、太陽なの?」
スノウさんは、初めて触れた「人の手の温もり」に、氷のような瞳から透き通った涙をこぼしました。
彼女の冷気は、おばあちゃんの徳によって「最高のアイスクリーム製造能力」へと完全に浄化されてしまったのです。
「ふふ、いいお顔になりましたね。……スノウさん、そんなに寂しいなら、ここで一緒に暮らしましょう。……ちょうど、夏場のアイス作りや、冬の冷蔵庫の整理に困っていたところなんです」
「……私、役に立てる? ……お掃除、得意じゃないけれど。……でも、あなたのお手伝い、したいです」
スノウさんは、少しぎこちなく、けれどおしとやかに(セシルの指導の成果)スカートの裾をつまんで一礼しました。
こうして、氷のように冷たく、けれど心は純粋な雪の精霊・スノウさんが仲間に加わりました。
彼女は「おばあちゃんのために最高の氷を作る」ことを生き甲斐とし、今や魔王城の「甘味担当」として、セシルさんやリタさんと並んで可愛がられる存在になったのです。
4.掲示板の伝説:雪かき革命編
その様子は、瞬く間にライブ配信で全世界へ。
【オチャノマスレ 031】
200:名無しのアタッカー
全プレイヤー、朗報だ。北部の『豪雪イベント』が強制終了した。
201:名無しの大魔道士
見てる。……キヨちゃんが黄金のスコップで雪をひと振りしたら、エリア全体の雪が消えて「菜の花」が咲いたんだが。
これ、一月だよな?
202:名無しの密偵
それより、新キャラの「氷の美少女」を見たか?
伝説の『災厄の氷姫』だったはずなのに、今はキヨちゃんの後ろで「かき氷」を作ってお裾分けしてるぞ。
203:名無しのアタッカー
スノウ(現在はキヨちゃん専属の冷蔵庫係)
204:名無しの商人
今、王都の冬物装備が暴落してる。
「おばあちゃんの雪かきスコップ」のレプリカが飛ぶように売れてて、みんなで雪かきをゲーム感覚で楽しんでるぞ。
運営の通知:『雪かきによる経験値ボーナスを10倍にします。キヨさん、新キャラの調整は丸投げしました。よろしくお願いします』
205:運営の悲鳴
【最終告知】雪の女王をラスボスとして温めておいたのに、おばあちゃんに「冷え性」扱いされて保護されました。
もう、冬の敵はいません。皆さん、スノウちゃんの作ったアイスを食べて、ほっこりしてください。
「ふぅ。お庭が綺麗になって、スノウさんも仲間になって、いい一日でしたねぇ、セシルさん」
夕暮れ時。私たちは、暖炉の前でスノウさんが作ってくれた「絶品のアイスクリーム」に温かいあんこを添えて、みんなで堪能していました。
「はい、キヨ様。……おしとやかな後輩ができて、私も鼻が高いですわ。……スノウさん、次は異界の『氷菓の神』を呼び寄せて、パフェの盛り付けの極意を伝授いたしましょうか」
「……はい、セシル先輩。……私、頑張ります。……パフェで、世界を、冷やします」
不器用ながらもやる気満々のスノウさんに、リタさんの「冷やすんじゃなくて、食べさせるのよ!」というツッコミが、温かな魔王城に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「雪かき」は、世界の冷たさを、最高に甘くて冷たい「幸せ」へと変えてしまったのでした。




