第30話:おばあちゃん、新年の初詣を「世界のバグ取り」感覚で行う
1.清々しい「新年の朝」と神殿の異変
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。明けましておめでとうございます。今朝の空気は、まるでお洗濯したてのシーツのように、パリッと白くて気持ちが良いですねぇ」
輝かしい新春の太陽が、魔王城の真っ白な障子を透かして、畳の上に黄金色の道を作っていました。
私は、新調したばかりの割烹着(第28話の聖なる毛糸を一部織り込んだ特製)の紐をきゅっと結び、清々しい笑顔で新年の挨拶を交わしました。
「はい、キヨ様。明けましておめでとうございますわ。……おしとやかな女性として、一年の計は元旦にあり。……今、異界の『暁の女神』を呼び寄せ、城内を初日の出の光で隈なく浄化させておりますわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の魔力で淹れた「金粉入りの大福茶」を運んできました。
そのお茶からは、飲むだけで全スキルのクールタイムが解消されるという、新春早々におめでたいバフが溢れ出しています。
「……明けましておめでとう、キヨ。……でも、新年早々、空が変な色になってるんだけど! ほら、あっちの『はじまりの神殿』の上! 空間がバグって、モザイクみたいになってるわよ!」
リタさんが、お節料理を頬張る手を止めて叫びました。彼女が指差した先――世界中のプレイヤーが初詣に集まるはずの『聖域・オリジン神殿』の上空に、どす黒いノイズの渦が発生していました。
どうやら、あまりのプレイヤーの殺到と、おばあちゃんの「徳」の蓄積により、世界のシステムに過負荷が生じ、空間の辻褄が合わなくなっていたのです。
「まあ、神様もお疲れのようですね。……新年のご挨拶ついでに、少し『お掃除』をして差し上げましょうか」
2.「おばあちゃんの知恵袋(初詣編)」
私たちは、ポチに乗って次元を飛び越え、数万人のプレイヤーが「神殿が消えかかっている!」と騒然としている聖域へと到着しました。
神殿の柱は歪み、神像はエラー音のような不気味な声を上げ、空間には「Error: Logic Overload」という半透明の文字が飛び交っています。
「あらあら、まあ。……なんて散らかった玄関先。これでは神様も、恥ずかしくて出てこられませんよ。……セシルさん、リタさん。お掃除道具の準備はいいですか?」
「はい、キヨ様。……おしとやかに、異界の『修復の精霊王』たちを数百万体召喚し、世界のバグを『埃』として具現化させましたわ」
セシルさんが指を鳴らすと、空間の歪みが真っ黒なススのような粉となって地面に落ちてきました。
「よーし、私の出番ね! 聖剣エクスカリバー……じゃなくて、『おばあちゃんの特製ハタキ』、行きますっ!」
リタさんが、バグの塊を豪快に叩き落としていきます。
私は、その中心にある「システムのバグの根源」――空間に空いた巨大な穴の前に立ちました。
「はい、おまじないをして……『元通りにな〜れ、元通りにな〜れ』」
私は、割烹着のポケットから「お正月の余ったお餅(第29話の特製品)」をひと欠片取り出し、空間の穴にペタッと貼り付けました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(バグ取り)が発動】
【世界のシステムエラーが『お餅の粘り』によって物理的に修復されました】
【空間属性:『崩壊』から『新春の慶び』に書き換えられました】
お餅が穴を塞いだ瞬間、神殿を包んでいたノイズは一掃され、代わりに百花繚乱の桜が咲き誇り、空からは黄金の獅子舞が舞い降りました。
3.「神様」の仕事始めとお年玉
修復された神殿の奥から、まばゆい光と共に『創世神エターナ』が現れました。
しかし、その神様は威厳あふれる姿ではなく、どこかバツの悪そうな顔をして、キヨさんの前に正座をしました。
『……あ、あの、キヨ殿。面目ない。……昨夜の餅つきのパワーがあまりに凄まじく、サーバーの処理が追いつかなくなってしまって……。助けていただき、感謝の言葉もございません』
「あらあら、まあ。神様だって、たまにはドジをしてしまうものです。……ほら、そんなに畏まらないで。……はい、これは私からのお年玉ですよ」
私は、神様の手に「ぽち袋」……ではなく、小さな「みかん」と「手編みの靴下(第28話の余り)」を握らせました。
『……靴下!? 神である我に、防寒具を……っ! ……おおお、温かい。……足元が温まると、なんだか新しい世界の設定(仕様)が、スラスラと浮かんできます! ありがとうございます、キヨ先生!』
【称号:『神の導き手』を獲得しました】
【お年玉のお返しとして、全プレイヤーに『今年一年、絶対に風邪を引かない』バフが付与されました】
神様が満足そうに靴下を履いて仕事に戻ると、神殿のバグは完全に消滅し、世界はかつてないほどの安定と平和に包まれました。
4.掲示板の伝説:バグ修正ライブ編
その様子を呆然と見守っていたプレイヤーたちの間で、驚愕のログが流れます。
【オチャノマスレ 030】
100:名無しのアタッカー
全プレイヤー、あけおめ! ……って、今、何が起きた!?
消えかかってた神殿が「お餅」でくっついたんだが。
101:名無しの大魔道士
見てる。……公式のデバッグログが出たぞ。『重大なバグ修正完了。原因:おばあちゃんの餅の粘り強さ。対策:なし(おばあちゃんが正解)』だってよ。
102:名無しの密偵
現地からの報告。キヨちゃんにお年玉を貰った神様が、今、神殿の裏で「こたつ」を出して運営とミーティングしてるぞ。
新年のクエストが全部『みんなで初笑い大会』に書き換わった!
103:名無しのアタッカー
お年玉(神すら動かす最強の供物)
104:名無しの聖職者
「おみくじ」を引いたら、全部の等級が『大吉』の上に『キヨ吉』っていう新しいのが追加されてた。
効果:【一年間、全ての食事が美味しくなり、おばあちゃんに褒められる】
105:運営の年始挨拶
【祝・新年】本ゲームは、キヨさんの手によってバグ一つない「完璧なお茶の間」として再起動しました。
今年はもう、世界を滅ぼす魔王も、絶望を運ぶ龍もいません。皆さん、神殿の裏で配られている『甘酒(キヨさん監修)』を飲んで、ゆっくりしていってください。
「ふぅ。神様も元気になって、いいお正月になりましたねぇ、セシルさん」
夕暮れ時。私たちは、ピカピカになった神殿の階段で、みんなで甘酒を啜りながら、新年初の夕焼けを眺めていました。
隣では、魔王様(広報部長)が神様と「今年の干し芋の出来」について熱く語り合っています。
「……ねぇキヨ。あんた、ついに『世界のバグ』まで『お掃除とお餅』で直しちゃったわね」
リタさんは、おみくじで引いた『キヨ吉』を大事そうに懐にしまいながら、幸せそうに微笑みました。
「あらリタさん。新しい年はね、真っさらな気持ちで迎えるのが一番なんですよ」
「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『初笑いの神』を召喚して、世界中の人々が三日三晩笑い続けられるような、最高の大喜利大会を開催いたしましょうか」
セシルさんの上品で物騒な提案に、リタさんの「笑いすぎて死ぬ人が出るからやめて!」というツッコミが、新年の清々しい風に乗って、どこまでも響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「初詣」は、世界の歪みを、最高に温かな「新年の笑顔」へと変えてしまったのでした。




