第29話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「お正月の餅つき」に転用する
1.年の瀬の気配と「臼」の準備
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。カレンダーのめくりも、いよいよ最後の一枚になりましたねぇ。魔王城の煤払い(すすはらい)も終わりましたし、そろそろ『お餅』の準備を始めなくてはいけませんわ」
十二月の末。魔王城(隠居所)の庭は、キヨさんの手編みセーターを着た魔族たちが忙しなく動き回る、活気あふれる光景となっていました。
かつては血の池地獄だった場所も、今や「特設餅つき会場」として、清々しいしめ縄が飾られています。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、新年を真っ白で清らかなお餅で迎えるのは、何よりの誉れですわ。……今、異界の『月界の職人』たちを呼び寄せ、最高級の杵と臼を削り出させておりますわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、天空から降り注ぐ銀色の光を束ね、それを実体化させていきました。
現れたのは、月のクレーターから採取されたという伝説の鉱石『ムーン・メテオライト』製の臼。
一突きするごとに重力を制御し、麺の……いえ、餅の粘りを極限まで引き出すという、物理法則を無視した調理器具でした。
「ちょっと待って、その臼! 鑑定したら『惑星をも粉砕する衝撃を吸収する』って出てるんだけど! それを餅つきに使うの!? むしろ、突き手が壊れちゃうわよ!」
リタさんが、驚愕でマフラーを振り乱しながら叫びました。
彼女は最近、おばあちゃんの「年中行事」が宇宙規模のエネルギーを必要とすることを学習し、防護服(キヨさん特製のエプロン)をしっかりと着込んでいます。
「あらリタさん。壊れるなんて縁起の悪い。……お餅はね、皆さんの『絆』を固めるために突くのですよ。……魔王さん、四天王の皆さん、準備はいいですか?」
「うむ。キヨ殿、我らの魔力、すべてをこの『餅つき』に捧げよう。……四天王よ、気合を入れろ! 世界を救うよりも、この餅を粘らせることの方が重要だ!」
魔王様と四天王たちが、上半身裸(ただし「キヨさん印の腹巻き」は着用)で、巨大な杵を構えて整列しました。
2.「おばあちゃんの知恵袋(餅つき編)」
私は、一晩じゅう「聖なる湧き水」に浸しておいた最高級のもち米(農園産・特選)を、蒸し器(実は第15話で浄化した冥界の釜)から臼へと移しました。
「さあ、始めますよ。……よいしょー! はい、よいしょー!」
私が竹箒を拍子木代わりに打つと、セシルさんが「おしとやかに」伴奏を始めました。
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、異界の『衝撃の魔神』を召喚し、杵の重さを100倍に、餅の反発力をゼロに調整いたしますわ」
ドォォォォォォォォォン!!
魔王様が杵を振り下ろした瞬間、魔王城全体が地震のような衝撃に包まれました。
しかし、キヨさんが「はい、よいしょー!」と合いの手を入れるたびに、その破壊的なエネルギーはすべて「お餅のコシ」へと変換されていきます。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(餅つき)が発動】
【搗き立てのお餅が『銀河級粘性物質(究極の鏡餅)』へと昇華されました】
【効果:食べると『人間関係のトラブル』が解消され、運気がカンストする】
「ふぅ。白くて、つやつやで、まるで赤ちゃんのほっぺたみたいですねぇ。……リタさん、丸めるのを手伝ってくださいな。粉をたくさんつけて、優しく、優しくですよ」
「う、うん……。……わあ、このお餅、温かくて、生きてるみたい……。触ってるだけで、今年の嫌なことが全部消えていく気がする……」
リタさんがお餅を丸めると、彼女の周囲に「招福」のオーラが渦巻きました。
3.世界中を繋ぐ「お餅」のお裾分け
「さて、このお餅を、世界中の皆さんにもお裾分けしましょう。……セシルさん、例の『通信魔術』を最大出力でお願いします」
「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、世界全域の空を『のし板』に書き換え、お餅をテレポート配送いたしますわ」
おばあちゃんの号令と共に、魔王城から数百万個の「丸餅」が空へと打ち上げられました。
それは、セシルさんの魔法で流れ星のように世界各地へと降り注ぎ、プレイヤーや住民たちの目の前に、ちょうどいい温度でお皿に乗って現れたのです。
【ワールドイベント:『キヨさんの餅つき大会』が完遂されました】
【全プレイヤーに配布:『聖女の丸餅(安倍川・磯辺・あんこ選択可)』】
【バフ付与:『絆の結束』。今後一年間、ギルド内での喧嘩が不可能になります】
王都でも、戦場でも、極寒の洞窟でも。
人々は空から降ってきたホカホカのお餅を頬張り、「ああ、これでもう一年頑張れる」と涙を流しながら笑い合いました。
4.掲示板の伝説:お餅最強説・年末編
その様子は、もちろん全世界にライブ配信されました。
【オチャノマスレ 029】
100:名無しのアタッカー
緊急報告。俺のギルド、さっきまで解散の危機だったのに、お餅を食った瞬間に「みんな愛してるぜ!」って抱き合い始めた。
101:名無しの大魔道士
見てる。……あの『ムーン・メテオライト』の臼、どこで売ってるんだよ。
一突きするたびに、空の雲が吹き飛んで、不吉な予言が全部「大吉」に書き換わってるんだが。
102:名無しの密偵
現地からの報告。キヨちゃんが丸めたお餅を、魔王が大事そうに自分の角に飾ってる。
四天王たちが「きな粉にするか、大根おろしにするか」で、かつての軍議よりも真剣に議論してるぞ。
103:名無しのアタッカー
お餅(現在は世界最強の平和維持アイテム)
104:名無しの聖職者
運営の公式メッセージが出たぞ。「お餅の粘り強さがサーバーの耐久力を上回りました。今後一週間、システムダウンは物理的に不可能です。スタッフ全員でお雑煮を食べるため、本年の業務を終了します」だって。
105:運営の悲鳴(幸福版)
【最終告知】本ゲームは、キヨさんの『お餅』によって世界が一つに固定されました。
争いはもう起きません。皆さん、お餅を喉に詰めないように注意して、良いお年をお迎えください。
「ふぅ。皆さん、いいお顔でお餅を食べていらっしゃいますねぇ」
大晦日の夜。静まり返った魔王城の庭で、私たちは焚き火(第27話の余り)を囲んで、お汁粉を啜っていました。
隣では、ポチとクロが特大の「犬猫用お餅(消化にいい仕様)」を幸せそうに食べています。
「……ねぇキヨ。あんた、ついに『世界そのもの』を、お餅みたいに一つにまとめちゃったわね」
リタさんは、磯辺焼きを頬張りながら、幸せそうに夜空を見上げました。
「あらリタさん。粘り強く、温かく。……それが、お餅とおばあちゃんの生きる知恵ですよ」
「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『初日の出の神』を直接ここに連れてきて、世界で一番早い『あけましておめでとう』をプロデュースいたしましょうか」
セシルさんの物騒な「初日の出」計画に、リタさんの「太陽を無理やり引っ張ってくるんじゃない!」というツッコミが、除夜の鐘(実は魔王が鐘を叩いている)の音と共に、平和な新年の空へ響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「餅つき」は、世界の終わりを、最高に粘り強く、温かな「新年の希望」へと変えてしまったのでした。




