第27話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「落ち葉の焚き火」に転用する
1.魔王城の「大掃除」と秋の庭
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。今朝は随分と、お庭の衣替えが進みましたねぇ。カエデやイチョウが、まるでお星様のように地面に散らばって。……これは、しっかりお掃除をしてあげなくてはいけませんわ」
魔王城(現在は『隠居所・魔王城店』)の広大な庭園は、今や見事な紅葉に包まれていました。
しかし、秋の美しさは「落ち葉」という名の大量の宿題を連れてきます。私は愛用の竹箒を手に、パシッ、パシッと割烹着を整えました。
「はい、キヨ様。……おしとやかな女性として、足元の乱れは心の乱れ。……今、異界の『暴風の王』を掃除機代わりに召喚し、落ち葉を一箇所に集めさせておりますわ」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、右手を優しく天に掲げました。
その瞬間、魔王城の周囲で「ゴォォォー!」という凄まじい風が吹き荒れましたが、不思議なことにキヨさんの箒が届く範囲だけは、そよ風のような心地よさでした。
風の王は、キヨさんの「あら、上手ねぇ」という褒め言葉に赤面し、かつてないほど丁寧に、落ち葉を一つの巨大な山へとまとめ上げました。
「ちょっとセシル! 掃除機にしては火力が……いえ、風力が強すぎるわよ! 魔王城の石壁が少し削れた気がするんだけど!」
リタさんが、お掃除のお手伝い(のフリをした筋トレ)をしながら叫びました。
彼女の聖剣は、今や「落ち葉を均等に混ぜるための巨大なヘラ」として活用されています。
「まあリタさん、そう怒らないの。……さて、これだけ立派な落ち葉の山ができましたから。……今日は久しぶりに『焚き火』をしましょうか」
2.「おばあちゃんの知恵袋(焼き芋編)」
「焚き火か……。キヨ殿、火のことなら我に任せてもらおう」
魔王様が、自分専用の「火の用心」エプロンを誇らしげに叩きながら現れました。
「あら、魔王さん。ありがとうございます。……でもね、ただの火ではありませんよ。……セシルさん、例の『禁断の召喚術』のスクロールを持ってきてくださる?」
「はい、キヨ様。……おしとやかに、古の『業火の審判』の術式を、焚き火の『火種』として転用する準備が整っておりますわ」
セシルさんが取り出したのは、かつて一つの大陸を灰に変えたという伝説の禁術書。
私はそれを「あら、よく燃えそうな紙ですね」と手に取り、小さく折りたたんで落ち葉の山の中心に差し込みました。
「はい、おまじないをして……『遠赤外線、たっぷりと〜』」
私が竹箒で落ち葉の山をポンポンと叩くと、禁術の魔力が「破壊」ではなく「極上の熱効率」へと書き換えられました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(落ち葉焚き)が発動】
【禁断の禁術が『究極の焼き芋器』へと変換されました】
【効果:煙がすべて『浄化の香木』に変わり、熱が素材の芯まで100%浸透する】
私は、新聞紙(古代の魔導書)で包んだサツマイモ(聖域の農園産)を、その黄金色に燃える焚き火の中に、そっと放り込みました。
3.煙の奇跡とお裾分け
焚き火から立ち上る煙は、本来なら目に染みるものですが、おばあちゃんの知恵が加わったそれは、まるで高級なアロマのような、甘く優しい香りの雲となって空へ広がっていきました。
「……あ、あれ? この煙を吸うだけで、なんだか力が湧いてくるわ……」
リタさんが驚愕しました。煙に触れた魔王城の住人たちのステータスが、見る間に「絶好調」へと書き換わっていきます。
「ヌオォォ……! この熱、この香り! 我が獄炎をもってしても、これほどまでに『慈愛』に満ちた熱源は生み出せなかった……! さあ、芋よ! 早く焼けろ!」
魔王様と四天王たちが、焚き火を囲んで、期待に満ちた目で「お座り」をして待っています。
そして一時間後。ホクホクと黄金色に輝く、最高の焼き芋が出来上がりました。
「さあ、皆さん。熱いうちに召し上がれ。……皮ごと食べると、お腹のお掃除にもいいですよ」
私が手渡した焼き芋を、魔王様が一口食べると、その巨体がワナワナと震えました。
「……旨い。……甘い。……おばあちゃん、我は……我は、今この瞬間のために魔王になったのかもしれぬ……。この芋のホクホク感、これこそが真理だ!」
4.掲示板の伝説:焚き火ライブ編
その頃、ゲーム内の公式掲示板は、空一面を覆った「甘い香りの雲」の正体を探る書き込みで溢れていました。
【オチャノマスレ 027】
800:名無しのアタッカー
全プレイヤーに報告。現在、空から「焼き芋の匂い」が降ってきている。
801:名無しの大魔道士
見てる。……いや、匂いだけじゃない。この煙に触れた瞬間、俺の『慢性的な肩こり(デバフ)』が完治したんだが。
802:名無しの密偵
ライブ配信が始まったぞ。……キヨちゃんが、かつての大陸破壊呪文で『焼き芋』を焼いてる……。
しかも、余った熱を利用して、魔王と四天王が「焼きみかん」まで始めてるぞ。
803:名無しのアタッカー
禁断の業火(現在は最高のキャンプファイヤー)
804:名無しの商人
今、全拠点のプレイヤーが「落ち葉拾い」を開始した。
「キヨさんの真似をすれば、レアアイテムが出るかもしれない」っていう噂が広まって、世界中の庭がピカピカに掃除されてる。
運営からの通知:『現在、清掃活動によるサーバー負荷が軽減されています。おばあちゃん、ありがとうございます』
805:運営の悲鳴
【最終告知】ゲームの主要目的が『魔王討伐』から『近所の清掃と焼き芋会』に変更されました。
伝説の防具『耐火の鎧』は、本日より『焼き芋を火の中から取り出すためのミトン』として再定義されます。
「ふぅ。皆さん、お腹いっぱいになって良かったですわ」
夕暮れ時。パチパチと爆ぜる焚き火の音を聞きながら、私たちは庭でゆっくりと過ごしました。
ポチは私の膝の上で丸くなり、クロは魔王様の肩で、焼き芋の端っこを幸せそうに食べています。
「……ねぇキヨ。あんた、ついに『お掃除』を『世界規模の癒やしイベント』にしちゃったわね」
リタさんは、口の周りを少し黒くしながら、幸せそうに笑いました。
「あらリタさん。お庭が綺麗になれば、心も綺麗になるものですよ」
「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『お片付けの神』を呼んで、世界中の不要なガラクタを集めて、『フリーマーケット』でも開催いたしましょうか」
セシルさんの頼もしい提案に、リタさんの「神様をフリマに呼ぶんじゃない!」というツッコミが、秋の夜空に心地よく響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「焚き火」は、世界の冷たさを、心まで温まる「秋の恵み」へと変えてしまったのでした。




