第24話:おばあちゃん、灼熱の大地で「特製麦茶」の給水ポイントを作る
1.炎天下の「地獄めぐり」
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。この辺りは、まるでお餅を焼く網の上みたいに熱いですねぇ。地面から陽炎が立って、景色がゆらゆらと踊っていますわ」
私たちが今いるのは、世界で最も過酷な環境とされる『焼尽の砂漠・バルハラ』。
本来なら高レベルの耐熱装備がなければ一分と持たず体力が削れる「死のエリア」です。
しかし、私の周りだけは、セシルさんが「おしとやかに」召喚した異界の『氷晶の守護精霊』たちが、涼やかな風を送り続けてくれていました。
「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、日焼けと脱水症状は最大の敵ですわ。……見てください、あちらでトカゲの魔物さんが、お腹を出して干からびそうになっています。……これは早急な救済が必要ですわね」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、右手に「無限に湧き出る冷水」の魔方陣を構えています。
「ちょっと! セシル、それどころじゃないわよ! ほら、あっちを見て! 攻略組のプレイヤーたちが、熱中症で次々と倒れてるわ!」
リタさんが指差す先では、重厚な鎧を着た騎士たちが、砂の上にバタバタと倒れ伏していました。
彼らはこの砂漠の奥にある「炎の神殿」を目指していたようですが、あまりの猛暑(運営の気まぐれな天候設定)に、志半ばで力尽きようとしていたのです。
「まあまあ、それは大変。……よし、皆さん。あそこの岩陰に、ちょっとした『お休み処』を作りましょうか」
2.「おばあちゃんの知恵袋(魔法の麦茶編)」
私は、灼熱の砂の上に一枚の「ゴザ(実は第17話でフェンリルの毛を編んで作った魔法の敷物)」を広げました。
「さて、まずは飲み物ですね。……リタさん、この『乾燥した大麦(実は伝説の聖樹の種)』を煎ってちょうだい。……セシルさんは、その冷たいお水を大きなやかんに用意して」
私は、かつて邪神を封印したとされる『古の聖杯』を「やかんにちょうどいいわね」と取り出し、そこに煎りたての麦と、異界の氷をたっぷり放り込みました。
「はい、おまじないをして……『美味しくな〜れ、美味しくな〜れ』」
私が竹箒でやかんをひと回しすると、中から香ばしく、どこか懐かしい、そして理性を揺さぶるほど「涼しい」香りが漂い始めました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(水出し麦茶)が発動】
【聖杯の麦茶が『究極の経口補水液』に変換されました】
【効果:一口飲めば熱中症が完治し、スタミナが無限に回復する】
さらに、私は「お裾分け」として、砂漠のあちこちに魔法の『給水ポイント(自動販売機風の石碑)』を設置し始めました。
「あら、塩分も大事ですねぇ。……そうだ、あそこに落ちている『呪われた岩塩』を削って、塩飴も作りましょう」
3.砂漠の真ん中の「極楽浄土」
「おい……嘘だろ。死ぬかと思ったのに……なんだこの美味い飲み物は……っ!」
倒れていた重騎士が、私の差し出したキンキンに冷えた麦茶を飲み干した瞬間、その全身から蒸気が立ち上り、一瞬で体力が全快しました。
「これ、ただの麦茶じゃない……! 脳みそが凍るほど冷たいのに、お腹には優しい……。おばあちゃん、あんた神様か!?」
「あらあら、まあ。神様だなんて。……ただの隠居中のおばあちゃんですよ。……ほら、そこのトカゲさんも、お飲みなさい。塩飴もありますよ」
私が砂漠の魔物(火吹きトカゲ)に麦茶を差し出すと、魔物は嬉しそうに喉を鳴らし、お礼に砂漠のレア素材『火焔の鱗』をポロポロと置いていきました。
いつの間にか、地獄の砂漠は「キヨさんの給水所」を中心に、敵も味方も関係なく、みんなでゴザに座って麦茶を啜り、塩飴を舐めるという、シュールで平和な光景に包まれていました。
「……ねぇキヨ。あんた、ついに『死の砂漠』を『市民プール横の休憩所』に変えちゃったわね」
リタさんは、自分も麦茶をがぶ飲みしながら、幸せそうに溜息をつきました。
4.掲示板の伝説:麦茶ライブ編
その光景は、またもや世界中に拡散されました。
【オチャノマスレ 024】
500:名無しのアタッカー
緊急報告。バルハラ砂漠が「冷えてる」。
501:名無しの大魔道士
何言ってんだ……あそこは45度設定のはず……。待て、ライブカメラを見ろ!
502:名無しの密偵
キヨちゃんが砂漠に「麦茶サーバー」を設置した結果、エリア全体の気温が25度まで下がったらしいぞ。
今、全プレイヤーが砂漠に殺到して「麦茶オフ会」が始まってる。
503:名無しのアタッカー
麦茶(全回復エリクサーの上位互換)
504:名無しの聖職者
「地獄の業火」で焼かれてたボスモンスターが、キヨちゃんに麦茶を貰って「あぁ〜、生き返るわぁ……」って、戦うのをやめて、今は看板娘ならぬ「看板魔物」として客引きをやってるぞ。
505:運営の悲鳴
【お知らせ】砂漠の難易度が「ベリーハード」から「ピクニック」に変更されました。
運営チームも、あまりの暑さに耐えかねて、キヨさんの麦茶をサーバー室にデリバリーしてもらうことにしました。もうバランス調整なんて、どうでもいい。麦茶が美味い。
「ふぅ。皆さん、涼しそうで良かったわ。……セシルさん、リタさん。お片付けをしたら、今夜はスイカ割りでもしましょうか」
夕暮れ時。地平線に沈む太陽すらも、麦茶の冷気で少しだけ色が優しくなったような気がしました。
リタさんは、空になったやかんを抱え、苦笑いして呟きました。
「……ねぇキヨ。あんた、次は何を流すつもり? そうめんの次は麦茶……次はまさか、温泉?」
「あらリタさん。それは名案ね。お風呂に入れば、疲れももっと取れますもの」
「冗談よ! 本当にやりそうで怖いわ!」
賑やかな笑い声と共に、一行は涼しくなった砂漠をゆっくりと歩き出しました。
百歳の少女(魂)の「麦茶」は、世界の渇きを、最高に贅沢な「潤い」へと変えてしまったのでした。




