第19話:おばあちゃん、禁断の禁術を「年末の宝くじ」感覚で引き当てる
1.聖域の「抽選会場」
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。今日は随分と人が集まっていますねぇ。皆さん、手に紙切れを持って、なんだかそわそわして。……まるでお正月のデパートの売り出しのようですわ」
黄金の巨犬ポチの背に揺られながら、私は街の広場を埋め尽くす群衆を眺めました。
そこは『星霜の聖域』。千年に一度、天から降り注ぐ星の破片を拾い上げた者に、神が「禁断の禁術」を授けるという、この世界で最も射幸心を煽る伝説の儀式が行われようとしていたのです。
「キヨ、あれはデパートの売り出しどころじゃないわよ。『星の宝くじ』って呼ばれる、全プレイヤーが人生を賭けた運試しなの。当選確率は一億分の一……当たれば一瞬で世界の覇者になれるっていう、禁断のスキルが手に入るんだから」
リタさんは、普段の凛々しさをどこかへ置き忘れ、手元の「抽選券(星の羊皮紙)」を握りしめてガタガタと震えています。
彼女もまた、冒険者として淡い夢を抱く一人なのでした。
「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかな女性として、ギャンブルに熱を上げるのはいかがなものかと思いますが。……ですが、あそこに漂う『星の意思』は、どうやら純粋な運だけではなく、その人の『行い』を見ているようですわ」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界から呼び寄せた「幸運の小妖精」たちを周囲に放ち、広場に渦巻く欲望のエネルギーを浄化しています。
「まあ、徳を積んだ人が報われるのは良いことですねぇ。……私も、正一に何かいいお土産が当たると嬉しいわ。……あら、ポチの足元に、綺麗な石ころが落ちていますよ」
私がひょいと拾い上げたのは、泥にまみれた、けれど中心に淡い銀色の光を宿した小さな石でした。それが、世界中の猛者が血眼になって探していた『星の種』であることに、私はまだ気づいていませんでした。
2.「おばあちゃんの知恵袋(当選祈願編)」
広場の中心に据えられた『天の回転木箱』。
そこに世界中のプレイヤーが数万文字にも及ぶ「当選への執念」を込めてチケットを投げ込んでいきます。
「さあ、皆さん! いよいよ当選発表です! 神の禁術を手にするのは、いったい誰か!?」
司祭の叫びと共に、空から巨大な光の柱が降り注ぎました。会場は静まり返り、誰もが自分のチケットが光るのを待ちわびています。
「あら、なんだか光って眩しいですね。……セシルさん、この石ころ、泥を落としてあげましょう。……はい、おまじないをして……『痛いの痛いの、飛んでけ〜』」
私がその石(星の種)を割烹着の裾でキュッキュと磨き、優しく息を吹きかけた、その瞬間。
ドォォォォォォォォォン!!
空から降り注いでいた光の柱が、私の手元に集束しました。
それだけではありません。宇宙の彼方から、数千、数万という「流れ星」が私の頭上に降り注ぎ、まるでお盆の提灯のように、広場全体を黄金色に照らし出したのです。
【ワールドシステム告知:『星の宝くじ』特等、一等、二等、三等……および前後賞、すべての当選者が決定しました】
【当選者:キヨ(職業:おばあちゃん)】
【獲得スキル:『創世の福音』『滅びの雷』『時空の操者』……合計99個の禁術を獲得】
「あらあら、まあ。……たくさん当たりましたねぇ。……リタさん、セシルさん。これ、私一人では使いきれませんから、皆さんにお裾分けしましょうか」
3.「禁術」のお裾分け
「……全当選!? キヨ、あんた何やってんのよ! 特等だけじゃなくて、全部ってどういうこと!? 確率が崩壊してシステムが泣いてるわよ!」
リタさんは、開いた口が塞がらない様子で、私の手から溢れ出す「禁断の魔導書」の山を眺めています。
一冊あれば世界を滅ぼせる本が、今や「お買い得商品の詰め合わせ」のように山積みになっています。
「はい、リタさん。あなたにはこの『聖剣の極意』という本を。……剣の錆び取りに役立ちそうですよ。……セシルさんには、この『無限の魔力』を。……これなら、お洗濯の時の脱水がもっと強力になりますわね」
「まあ、キヨ様……! おしとやかに、この魔力をすべて『汚れ落としの旋風』に変換させていただきますわ!」
セシルさんは歓喜し、その場で禁術を「家事スキル」に書き換えてしまいました。
さらに私は、広場にいたプレイヤーたちに向かって、余った魔導書を次々と配り始めました。
「はい、そこのお兄さん。この『雷撃の書』は、肩凝りに効く電気治療にちょうどいいですよ。……そっちの魔法使いさんは、この『永久氷結』を。……夏場の冷蔵庫代わりに使いなさいね」
【スキル:おばあちゃんの知恵袋(お裾分け)が発動】
【禁断の禁術が『生活に役立つ便利スキル』として再定義されました】
【世界中の『破壊魔法』が『生活魔法』にアップデートされました】
「うおおお! この火炎魔法、火力が安定しててチャーハンが最高に美味く作れるぞ!」
「時空魔法で、朝の通勤ラッシュを回避できるようになった! キヨ様は神だ!」
殺気立っていた「宝くじ会場」は、いつの間にか「便利な生活知恵の交換会」へと姿を変え、人々は禁術を手にした喜びで、互いに握手を交わし始めたのでした。
4.掲示板の伝説:禁術大放出編
【エタファン攻略スレ 018】
100:名無しのアタッカー
緊急速報。このゲームから「攻撃魔法」が消えた。
101:名無しの大魔道士
はぁ!? 何言ってんだよ、さっき俺、伝説の『滅びの爆炎』をキヨちゃんから貰ったぞ。
102:名無しのアタッカー
そのスキルの説明文をよく見てみろ。
103:名無しの大魔道士
……えーと。『滅びの爆炎:周囲の汚れを焼き尽くし、最高の天日干し効果を与える。※対人攻撃力は0です』……。
は?????
104:名無しの聖職者
禁術(全自動家事代行システム)
105:名無しの商人
今、全プレイヤーのインベントリが「便利グッズ」で埋まってる。
戦争をしようとした国が、キヨちゃんから貰った『大地粉砕』を耕作に使ったら、収穫量が100倍になって「戦ってる場合じゃねぇ、芋掘りだ!」って撤退したらしいぞ。
106:運営の遺言
【最終告知】ゲームのジャンルが『ダークファンタジー』から『全自動快適ライフ・シミュレーター』に変更されました。
禁術の修正を試みましたが、キヨさんの「徳」がサーバーの熱源を「お風呂の追い焚き」に利用しており、停止すると運営ビルの給湯が止まるため、手出しができません。
「ふぅ。皆さん、喜んでくださって良かったわ。……さて、セシルさん、リタさん。お土産も配り終えましたし、帰りにお団子でも買っていきましょうか」
夕暮れ時。黄金に輝く広場を後にしながら、私は満足そうに腰を伸ばしました。
リタさんは、貰った魔導書を大事そうに脇に抱えながら、苦笑いして呟きました。
「……ねぇキヨ。あんた、ついに『神の奇跡』まで『近所の福引き』レベルに落とし込んじゃったわね」
「あらリタさん。幸せは、みんなで分けるから『幸』と言うのですよ」
「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『お菓子作り神』を召喚して、世界中にずんだ餅の雨を降らせましょうか」
セシルさんの物騒な提案に、リタさんの「もういいわよ好きにしなさい!」という絶叫が、平和になった聖域に響き渡りました。
百歳の少女(魂)の「福引き」は、世界の欲望を、温かな「生活の喜び」へと変えてしまったのでした。




