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第17話:おばあちゃん、最難関クエストのボスを「迷子の迷子の里親探し」で解決する

1.霧の向こうの「迷子」

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。この辺りは霧が深くて、まるでお風呂場のようですねぇ。これでは前を歩くポチの尻尾も見えなくなってしまいますよ」

 

私たちが現在足を踏み入れているのは、未踏の絶域と呼ばれる『深淵の迷い森』。


ここは、全プレイヤーに「攻略不可能」と突きつけられた公式最難関クエスト『絶望の咆哮を止めよ』の舞台です。

 

周囲を漂うのは、吸い込むだけで感覚を麻痺させるという『忘却の霧』。


しかし、私の鼻には、セシルさんが「おしとやかに」焚いてくれた「ラベンダーのお香(異界の魔除け成分100%)」の香りが心地よく届いていました。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、視界の悪い場所で迷うのは不作法というもの。……ですので、異界の『全方位監視魔眼』を数万個ほど空中に浮かべて、道を照らしておりますわ」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、空中に不気味に浮かぶ無数の巨大な目玉(魔術師が見れば発狂するレベルの禁呪)を、街灯代わりに使っています。

 

「セシル、その目玉が一番怖いんだけど……。……あ、キヨ! 止まって! 出たわよ、今回のターゲット。クエスト名『絶望の咆哮』の正体……終焉の魔獣フェンリルよ!」

 

リタさんが腰の聖剣を抜き、鋭い声を上げました。

 

霧の向こうから現れたのは、山のような巨体を誇る漆黒の狼。


その瞳は血のように赤く、口からは万物を腐食させる唾液が垂れ、ひとたび吠えれば一国の軍隊が恐怖で動けなくなるという、神話級のボスモンスターです。

 

「グルルルル……。我が眠りを妨げる、矮小なる人間よ。……その身を喰らい、永遠の絶望を与えて――」

 

「あらあら、まあ。……なんて大きなワンちゃん。でも、そんなに怖い顔をして。……よしよし、よしよし」

 

私はポチから降りると、怯えるリタさんをよそに、迷いなくフェンリルの足元まで歩み寄りました。


そして、その山のように巨大な前足に、そっと手を添えたのです。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(しつけ編)」

 

「ワンちゃん、あなた、足の裏に大きなトゲが刺さっていますよ。……痛かったわねぇ。これでは大きな声(咆哮)も出したくなります」

 

フェンリルの咆哮を、私はただの「痛みの泣き声」だと判断しました。

 

私は割烹着のポケットから「毛抜き(実は第14話で研ぎ直した暗黒剣の端材で作った道具)」を取り出しました。

 

「ちょっと、キヨ! 食べられちゃうわよ!」

 

「リタさん、大丈夫ですよ。……はい、ワンちゃん、ちょっと我慢してくださいね。チクッとしますよ。……えいっ」

 

私が気合と共にトゲを抜いた瞬間、フェンリルの巨体から、どす黒い『絶望のオーラ』が霧散していきました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(トゲ抜き)が発動】

【神話級ボス:フェンリルの『狂乱状態』が解除されました】

【クエスト『絶望の咆哮を止めよ』の真の目的『魔獣の治療』が達成されました】

 

「……あ、あれ? 痛くない。……僕、ずっとこれが痛くて、イライラしてたんだ……」

 

フェンリルの声が、恐ろしい魔王の響きから、少し甘えたような若い少年の声に変わりました。巨体だった彼の姿が光に包まれ、やがて一匹の、少し大きめの黒柴犬のような姿に縮んでいったのです。

 

「あら、可愛いわねぇ。……あなた、お名前は?」

 

「……フェンリル。でも、みんなには『終焉』とか呼ばれてた。……ずっと一人で、この暗い森にいたんだ」

 

「まあ、一人ぼっちだったのね。……迷子さんですね。セシルさん、リタさん。この子の『里親』を探してあげましょう」

 

3.「里親」はまさかの……

 

「里親って、キヨ……。こんな神話級の魔獣を飼える人なんて、この世界にいるわけ……」

 

「あらリタさん。灯台下暗し、ですよ。……セシルさん、例の『ビデオ通話』を繋いでくださる?」

 

「承知いたしました、キヨ様。おしとやかに、次元の壁をこじ開けますわ」

 

セシルさんが空中に魔法の鏡を出現させると、そこには魔王城の居間で、障子の張り替え(内職)に精を出している『魔王様』の姿が映し出されました。

 

「おや、魔王さん。お忙しいところごめんなさいね。……あのね、とってもお利口なワンちゃんを見つけたの。あなたの城、広いでしょう? 番犬として、この子を置いてあげてくれないかしら?」

 

『な……我に、あのフェンリルを飼えというのか!? 伝説では我を噛み殺すと予言された宿敵……』

 

「まあ、予言なんて昔の話ですよ。……ねぇ、フェンリルちゃん。魔王さんのお家には、美味しい干し芋と、暖かい縁側がありますよ。どうかしら?」

 

「……干し芋? 暖かいところ? ……行く! 僕、そこに行きたい!」

 

黒柴フェンリルは、画面の中の魔王に向かって、ちぎれんばかりに尻尾を振りました。


魔王も、その無邪気な瞳に絆されたのか、ふっと表情を和らげました。

 

『……よかろう。我も最近、火の用心だけでは退屈していたのだ。キヨ殿の紹介ならば、無碍にはできぬ。……フェンリルよ、来い。共に炬燵こたつに入ろうではないか』

 

【称号:『伝説のブリーダー』を獲得しました】

【魔王軍の戦力が『もふもふ属性』に書き換えられました】

 

4.掲示板の伝説:里親探し編

 

【エタファン攻略スレ 016】

 

600:名無しのアタッカー

全プレイヤーに悲報。最難関クエスト『絶望の咆哮を止めよ』が消滅した。

 

601:名無しの大魔道士

なんでだよ! あと少しで攻略組がボスの部屋にたどり着くところだったのに!

 

602:名無しの密偵

ライブ配信を見た。キヨちゃんがフェンリルのトゲを抜いて、そのまま魔王に「お裾分け」してたぞ。

今、魔王城のライブ映像に切り替わったけど……。

 

603:名無しのアタッカー

フェンリル(魔王の膝の上で腹を見せて寝てる)

 

604:名無しの聖職者

「絶望の咆哮」が「喜びのワンワン」に変わったのか……。

運営が公式HPを更新したぞ。『今後、フェンリルは魔王城のペットとして実装されます。攻撃はできません。撫でることは可能です』だってよ。

 

605:名無しの大魔道士

運営の敗北、通算17回目。

 

606:名無しの商人

今、街のペットショップから柴犬用の首輪が全部売り切れた。

「フェンリルとお揃いの首輪をさせれば、魔物から襲われない」っていうおばあちゃんの迷信(真実)が広まってる。

 

「ふぅ。いい飼い主さんが見つかって、本当に良かったわ」

 

夕暮れ時。私たちは、魔王城へと転送されていくフェンリルを、笑顔で見送りました。

 

リタさんは、完全にやる気を失った様子で、聖剣を杖にして地面に絵を描いています。

 

「……ねぇキヨ。あんた、ついに神話の予言まで『迷子の里親探し』で解決しちゃったわね」

 

「あらリタさん。予言なんて、みんなが仲良くすれば外れるようにできているものですよ」

 

「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『ドッグフード神』を召喚して、魔王城に定期便を届ける契約をしておきましょうか」

 

セシルさんの過剰なアフターサービスに、リタさんの「もういいわよ勝手にしなさい!」という絶叫が、静かになった『迷い森』に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「トゲ抜き」は、世界の絶望を、もふもふとした「幸福」へと変えてしまったのでした。

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