表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/71

第16話:おばあちゃん、禁断の召喚術を「孫へのビデオ通話」に改造する

1.機械音痴とお節介

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。この『ぶいあーる』という機械、なんだか最近、正一の声が遠くなったような気がしますの。これでは、今日のご飯が何だったか、あの子に教えてあげられませんわ」

 

魔王城の庭に置かれた、世界樹の椅子に腰掛けながら、私は眉を下げました。

 

私の魂をこの世界に運んでくれた、孫の正一がくれた贈り物。けれど、この仮想世界での生活が楽しくなりすぎて、現実の正一とゆっくりお話しする機会が減ってしまっていたのです。

 

「キヨ様。おしとやかな女性として、大切な方との語らいが途切れるのは、何よりの損失ですわ。……その機械、少し拝見してもよろしいかしら?」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界から呼び寄せた「解析の小悪魔」を顕微鏡代わりに使い、私の意識を繋いでいるシステムログを読み解き始めました。

 

「ちょっと待ってセシル! ログイン中のシステムに干渉するのは、普通なら『禁忌』を超えた『運営へのサイバー攻撃』よ! 垢バン(追放)されたらどうするのよ!」

 

リタさんが、食べかけのたい焼きを喉に詰まらせながら叫びました。


彼女は最近、キヨさんのためなら宇宙の法則すら書き換えるセシルさんの「過激な忠誠心」を一番恐れていました。

 

「大丈夫ですわ、リタ様。……おばあちゃまの寂しさを癒やすためなら、異界の神を回線代わりに使うなど、朝飯前ですもの」

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(テレビ電話編)」

 

「あら、セシルさん。なんだかその画面、私が昔使っていた『黒電話』とは少し違いますねぇ。もっと、こう……お顔が見えるようになりませんかしら?」

 

私が、空中に浮かぶ半透明のステータス画面を、お料理の灰汁あくをすくうように竹箒でサッサとなでました。

 

「かしこまりました。……それなら、異界の『全知の鏡』を召喚し、現実世界の座標とリンクさせましょう。……えいっ!」

 

セシルさんが呪文を唱えると、私の目の前の空間が「水面」のように波打ち、巨大な魔法の鏡が出現しました。


そこには、現実世界でヘッドセットをつけ、ポカンと口を開けてモニターを見つめている孫の正一の姿が映し出されました。

 

「……えっ!? ば、ばあちゃん!? なんで、ゲームの中からビデオ通話が……っていうか、その背景にあるの、魔王城!? 浮遊島!? 何が起きてるの!?」

 

「あら、正一。こんにちは。……元気そうですね。ちゃんと野菜を食べていますか?」

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(ご近所通話)が発動】

【禁断の召喚魔術が『双方向リアルタイム通信』に上書きされました】

【通信速度:無限。画質:実物より綺麗。セキュリティ:魔神が守護】

 

「正一、見てくださいな。こちらはお友達のリタさんとセシルさん。とってもいい子たちですよ」

 

「は、初めまして……。キヨ様には、いつもお世話になっておりますわ」

 

セシルさんは、現実世界の正一に向かって、画面越しに完璧なカーテシーを披露しました。

 

「……ちょっとキヨ! 孫くんに魔王城の中を見せちゃダメだってば! 運営に見つかったら、これ国家機密レベルのバグなんだから!」

 

リタさんは画面の外で必死に隠れようとしましたが、広角レンズのような魔法のせいで、背後で大人しく「火の用心」のタスキをかけて掃除をしている魔王の姿まで、バッチリ映り込んでしまいました。

 

3.世界中が「お茶の間」に

 

「ばあちゃん、すごいよ……。今、掲示板がとんでもないことになってる。全プレイヤーの画面に、ばあちゃんの『お茶の間』がライブ配信されてるんだ!」

 

正一が震える声で教えてくれました。

 

どうやら、セシルさんの召喚術と私の知恵が混ざり合った結果、個人の通話枠を超えて、世界全域に「おばあちゃんの癒やしライブ」が強制配信されてしまったようです。

 

【ワールドイベント:『キヨさんのお茶の間ライブ』が開始されました】

【全プレイヤーにバフ付与:『実家に帰りたい欲求』『ストレス消失』】

 

「あらあら、まあ。皆さんに見られているのなら、恥ずかしいところは見せられませんね。……皆さん、今日のおやつは、私が今朝作った『ずんだ餅』ですよ。画面の向こうの方々も、どうぞ」

 

私が、魔法の鏡の中にずいっと「ずんだ餅」を差し出すと、どういうわけか、世界中のプレイヤーの持ちアイテムボックスの中に、出来立てホカホカの『聖女のずんだ餅』が次々とドロップされ始めました。

 

「う、美味い……。なんだこれ、画面越しなのに香りが……いや、本当に鞄の中に入ってる!!」

 

「俺、もう魔王討伐とかやめるわ。このライブ見ながらずんだ餅食ってるのが一番幸せだわ」

 

4.掲示板の伝説:通信革命編

 

【エタファン攻略スレ 015】

 

500:名無しのアタッカー

全プレイヤー、今すぐメニュー画面を開け。ライブ配信が始まってる。

 

501:名無しの大魔道士

見てる。……銀髪ロリのキヨちゃんが、現実の孫と会話してるんだが。

これ、VRの歴史が変わる瞬間じゃないか?

 

502:名無しの密偵

それより、キヨちゃんが「お裾分け」って言った瞬間に、俺のインベントリに伝説級の回復アイテム(ずんだ餅)が10個届いた。

効果:【全ステータス永続+1、および心が洗われる】

 

503:名無しのアタッカー

ずんだ餅(全知全能の和菓子)

 

504:名無しの聖職者

運営が「配信を停止しようとしたら、召喚された魔神に『おばあちゃんを邪魔するな』ってビンタされた」って泣きながらツイートしてるぞ。

 

505:運営の遺言

【最終告知】本ゲームは本日をもちまして『仮想世界お茶の間シミュレーター』へと名称変更を検討します。キヨ氏の回線は神域にあるため、誰も遮断できません。

 

「ふぅ。正一の顔が見られて、安心しましたねぇ、セシルさん」

 

夕暮れ時。魔法の鏡を「テレビ」代わりにしながら、私たちはみんなでお茶を啜りました。

 

鏡の向こうでは、正一が「ばあちゃん、もう無理はしないでね……でも、その餅、一個送ってくれない?」と苦笑いしています。

 

「……ねぇキヨ。あんた、ついに現実とこっちの壁まで壊しちゃったわね」

 

リタさんは、届いたばかりのずんだ餅を頬張りながら、幸せそうに溜息をつきました。

 

「あらリタさん。離れていてもお互いの顔が見えるのは、いい時代になった証拠ですよ」

 

「左様ですわね、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『宅配魔神』を呼んで、現実世界の正一様にお餅を直接お届けいたしましょうか?」

 

セシルさんの物騒な提案に、リタさんの「もういいわよ好きにしなさい!」という絶叫が、魔王城の茶の間に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「ビデオ通話」は、仮想世界という壁さえも、温かな「家族の絆」で溶かしてしまったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ