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ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
二章 異国からの来訪者

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第四十一話 王妃に必要な素質

 国をあげて行われた祭も無事に終わり、王都には少しずつ日常が戻り始めていた。

 そして同時に、ガルディア王国からの視察も、いよいよ最終日を迎えた。

 その日の午後のこと。


「最後に、四人でゆっくり腰を据えて話したいですわ」


 ロザリアから、そう申し出があった。

 特に断る理由もなく、王宮内の一室に急遽席が設けられることとなった。


 窓から柔らかな陽射しが差し込む静かな部屋に、丸いテーブルを囲むように椅子が並べられている。

 楓の隣にはステファン、向かいにはロザリア、その隣にアルベルトが座っていた。

 香りの良い紅茶が運ばれ、穏やかな空気の中で視察の礼などが交わされる。


「建国祭は本当に素晴らしかったですわ。街全体に活気があり民達の表情も明るく、とても良い国だと改めて感じましたわ」


 ロザリアの言葉に、アルベルトも続ける。


「それに、陛下があれほど自然に民に親しまれている国は、そう多くありません。陛下と民達との信頼関係が、見ていてよく伝わってきましたよ」

「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」


 ロザリアとアルベルトの賛辞の言葉に、ステファンが穏やかに応じる。

 その後も、祭についてや王都の印象について、しばらく和やかな会話が続いた。

 けれど不意に、ロザリアが紅茶のカップを静かに置くと、真っ直ぐに楓を見た。


「カエデ様」

「は、はい」

「一つ、お聞きしてもよろしいかしら?」


 穏やかだが、どこか真剣な声音が静かに響く。


「……何でしょう?」


 楓が姿勢を正すと、ロザリアは単刀直入に尋ねた。


「カエデ様は、王妃に必要な素質とは何だと思いますか?」

「……!」


 楓はその問いに、ひとつ瞬きをした。

 けれど焦ることは無かった。

 その答えは、既に自分の中にあったからだ。


 ロザリアだけでなく、三人分の視線を受けながら、楓は、ゆっくりと言葉を口にした。


「私は国を作るのは、国民だと思っています。そして王族は、国民を守るためにある存在です」


 楓がはっきりとした口調で話す言葉を、ロザリアは静かに聞いている。


「陛下は……ステファンは、全力で国民を守る王であろうとしている方です」


 祭りで見た景色が楓の脳裏に浮かぶ。

 ステファンを見て嬉しそうに笑う人々と、真摯に一人ひとりと向き合う彼の姿。


「だから私は、そんな彼を、私の全部をかけて支えていきたいです。そんな王妃でありたいと思っています。それが私にとって、王妃として必要な素質です」


 言い切った瞬間、隣に座るステファンの身体が、ぴくりと揺れたのが分かった。


「……」


 楓は少し緊張しながら視線をロザリアへ向ける。

 するとロザリアが、ぽつりと呟いた。


「あなた、本当に甘いですわね」

「えっ」


 思わず楓は目を丸くする。

 だがロザリアは、どこか呆れたように、くすりと笑った。


「理想論ばかり。普通なら、綺麗事だと言われて終わりですわ」


 そう言いながらも、その表情はどこか楽しそうだった。


「ですが」


 ロザリアはふっと息を吐き、そして、はっきりと言った。


「分かりました。……負けて差し上げますわ」

「……え?」


 何を言われたのか一瞬理解できず、楓はぽかんとしてしまった。

 そんな楓を見て、ロザリアが少し眉を寄せる。


「何をぼけっとなさってますの?」

「え、あの……」

「この私が、負けて差し上げると言っているのですよ?」


 どこか怒ったような口調だった。


「もっと堂々と胸を張ってはいかがかしら」

「……!」


 楓は目を瞬かせる。

 ロザリアは、真っ直ぐに楓を見据えていた。

 その瞳には、以前のような侮りはもうなく、むしろ楓を認めたような色が宿っていた。


「正直、最初は理解できませんでしたわ」


 ロザリアが静かに言う。


「ステファン様の婚約者と言いながら、政治も外交も、まだ未熟。王妃として必要な知識も経験も、全然足りていらっしゃらないんですもの」


 そう言われ、その通りだと思った。

 その指摘は、楓自身が誰よりも理解していることだったから。


「ですが」


 ロザリアは続ける。


「祭の日、民達とステファン様を見つめるあなたの顔を見て、少し考えが変わりましたの」

「……」

「あなたは、自分が王妃としてどう見られるかではなく、ステファン様が民に愛されていることを、本心から嬉しいと思っていらっしゃったわ」


 そこにあったのは、打算も計算もなく、ただ、大切な人が認められて嬉しい、そんな真っ直ぐな感情だった。


「王妃というのは、国の象徴でもあります」


 ロザリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「だからこそ、時には強さも必要ですわ。冷静さも、覚悟も、政治的判断も必要になります」


 その声音には重みがあった。

 王女として育ってきた彼女だからこそ分かる現実。


「ですが同時に」


 ロザリアはふっと笑う。


「王を支えたいと、あそこまで真っ直ぐ思えることも、また一つの才能なのかもしれませんわね」

「ロザリア様……」


 楓の胸がじんわりと熱くなる。

 そんな楓を見ながら、ロザリアは最後に言った。


「私に勝ったからには、ステファン様の隣を他の女に取られるなんて、絶対に許しませんことよ」

「……っ!」


 その言葉に、楓は思わず目を見開いた。


「はい!」


 胸の奥からじわじわと嬉しさが湧いてきて、楓は溢れんばかりの笑顔で頷いたのだった。



 

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