第三十九話 惹かれていく心②(アルベルト視点)
その後、彼女と本当にすぐに再会することになり、アルベルトは驚いた。
しかも彼女の正体は、公爵令嬢であり、アストレア王の婚約者であり、その上、異世界からの来訪者だった。
さすがに情報量が多すぎだろと思ったが、彼女にもう一度会えたこと自体は、素直に嬉しかった。
けれど問題は、その後だった。
妹のロザリアは、ガルディア王国の発展のために、ステファン王に見初められることを望んでこの国に来ていた。
「婚約者がいらっしゃるといっても、妃はお一人とは限りませんもの。好きになっていただければ、何も問題ありませんわ」
当然のようにそう言ってのける姿に、強気な妹らしい発想だと思った。
だからアルベルトも、最初はそこまで深く考えていなかった。
けれど、妹がステファンに近づくたびに、カエデは目に見えて元気をなくしていった。
ロザリアとステファンが並んでいる姿を見るたび、どこか寂しそうに微笑む。
平気なふりをして笑うその笑顔が視界に入るたび、胸の奥が鈍く痛んだ。
気づけば、そんな彼女にばかり目が向いていた。
落ち込んでいる様子を見ると放っておけなくて、少しでも元気づけたくなる。
そうして、ようやく理解した。
(……あー、俺、これ……好きなのか)
思わず遠い目になる。
よりにもよって、外交先の、他国の王の婚約者に。
「面倒くせぇ……」
小さく呟き、額を押さえた。
しかも厄介なことに、ステファン王は思った以上にカエデのこととなると余裕がなかった。
彼女が少し自分と話しただけで、纏う空気が目に見えて悪くなる。
祭の同行を決めた時など、分かりやすすぎて笑いそうになった。
きっとロザリアは、祭で勝負をかけようと考えていたのだろう。
あの時も、ステファンに二人きりで回りたいと持ちかけていた。
本来ならあの場は、兄として妹を後押しするべきところだ。
けれど自分でも気づかないうちに、妹の望みを後押しするべきか、それとも、悲しそうな顔をするカエデを少しでも元気づけるべきかを天秤にかけていたのだと思う。
そして、ほんの少しだけ後者が勝ってしまった。
カエデが勇気を出した姿が嬉しくて、気付けば口を開いていた。
あの時、ロザリアは何か言いかけていた。
我が妹ながら、彼女は弁が立つ。
一度話し始めれば、カエデでは太刀打ちできなかっただろう。
だからあの行動に後悔はない。
けれど、自分も同行することを告げた時、ステファン王の機嫌は露骨に悪化していた。
その時の顔を思い出し、アルベルトは苦笑する。
(いや、しっかりしろよ王様)
常に冷静沈着で名君と評判の男が、カエデのことになると驚くほど視野が狭くなる。
まるで拗ねた子どものような顔をするくせに、本人は隠せているつもりらしい。
カエデは全く気づいていないようだが、あれだけ分かりやすく態度に出ていて、なぜ気づかないのか不思議なくらいだった。
だが、兄の立場から見れば笑い事ではない。
あの王は、本気でカエデしか見えていない。
正直、妹の妃入りはかなり厳しいだろう。
もっとも、アルベルト自身、ロザリアの将来については複雑な思いがあった。
ロザリアは幼い頃から政治に強い関心を持っている。その着眼点の鋭さに、感心することも多い。
アルベルトはそんな妹を、無理に他国へ嫁がせる必要はないと考えていた。
もし本人が望むなら、自分の隣に立ち、共にガルディアを支える未来があってもいいと思っている。
けれど、それを決めるのはロザリア自身だ。
本人がアストレアに嫁ぐことを諦めていない以上、兄として止めることもできない。
ただ見守るしかなかった。
それだけでも相当ややこしいのに、その上、自分までカエデを好きになってしまったのだから始末が悪い。
彼女が笑えば嬉しい。
落ち込んでいれば気になる。
悲しそうな顔を見れば、つい手を差し伸べたくなる。
そして関わるたびに、ステファン王の警戒心はどんどん強くなっていく。
「いやほんとに、どうすんだこれ……」
状況だけ見れば最悪だ。
しかも何より問題なのは、自分が案外この状況を悪くないと思ってしまっていることだ。
アルベルトは苦悩のあまり、思わず頭を抱えるのだった。




