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ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
一章 ひとりぼっちの女子高生と孤独な王

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幕間 とても幸せな思い出の話


『黒い髪の女神とさみしい王子』


 むかしむかし、あるところに、金色の髪と、碧い瞳をした王子がいました。


 その王子は、とてもわがままで、人の気持ちを考えることができませんでした。

 自分の楽しいことばかりを望み、国の人たちを苦しめていたのです。

 どれだけまわりが「やめてください」と言っても、王子が聞くことはありませんでした。


 やがて国の人たちは、王子のもとを去っていき、王子のそばには、誰もいなくなってしまいました。

 暗い森の中で、王子はひとりきりで、うずくまって言いました。


「私は、なんてことをしてしまったんだろう」


 その時でした。

 ふわりと優しい光が差し込み、ひとりの女神が現れました。

 つややかな黒い髪に、優しい黒い瞳、そして、雪のように白い肌。それはそれは、美しい女神でした。

 その姿を見ただけで、王子は心の痛みを忘れてしまいそうになるほどでした。


 女神は、王子に優しくたずねます。


「もし、もう一度やり直せるとしたら、あなたはやり直したいと思いますか?」


 王子は、しばらく黙っていました。

 そして、小さな声で言いました。


「……出来ることなら、やり直したい」


 すると女神は、にっこりとほほえみました。


「それなら、あなたにもう一度やり直す機会をさずけましょう」


 女神は静かに王子を見つめます。


「では、あなたは何を求めますか?」


 その言葉に、王子は祈るように口をひらきました。


「だったら私は、優しい心がほしい。人を愛する心がほしい」


 すると女神は、小さく首を横に振り、優しい声で言いました。


「それは、あげることができません」


 王子は驚きました。


「どうして?」

「だって、あなたはもう、それを持っているからです」


 その言葉を聞いたとたん、王子の目から、ぽろぽろと涙がこぼれました。

 悲しかったからではありません。

 自分の中にも、まだ優しい心が残っていたことが、嬉しかったからです。


 王子は泣きながら、言いました。


「今度こそ、すばらしい国を作るよ」


 女神は、そっとうなずきました。


 やがて、女神が立ち去ろうとした時、王子は慌てて呼び止めました。


「待ってくれ!」


 女神が振り返ります。

 王子は、まっすぐ女神を見つめて言いました。


「もし、まだ、願いをひとつ叶えてくれるというのなら、私はあなたと一緒にいたい。あなたとともに、一からやり直したいんだ」


 女神はびっくりしたように目を丸くして、それから、優しく笑いました。そして、小さくうなずいたのです。


 それから王子と女神は、新しい場所で暮らしました。

 たくさん間違えて、たくさん学んで、たくさん人の声を聞きました。


 そして今度こそ、みんなが笑って暮らせる、幸せな国を作ったのでした。


 めでたし、めでたし。





 「“むかしむかし”で始まって、“めでたしめでたし”で終わるのね。とっても懐かしい書き方だわ」


 黒髪の女性が、柔らかな笑みを浮かべながら、読み終えた絵本をそっと撫でた。

 膝の上に置かれたその絵本には、『黒い髪の女神とさみしい王子』という題名が記されている。

 隣に座る金髪の男性は、先日、自分と正式に婚姻を結び、アストレア王国初代王妃となったその女性を、愛おしそうに見つめる。

 澄んだ碧い瞳を静かに細めて、幸せそうに微笑んだ。


「うん。私は、君の世界の言葉を、とても気に入っているからね。いや、ちょっと違うか。……君の世界の言葉が好きなんじゃなくて、君が使う言葉だから、とても尊いものに思えるんだ」


 恥ずかしげもなく伝えられたその言葉に、女性は少し照れたように肩をすくめる。

 初めて出会った頃は拙かったその言葉も、今では母国語のように自然に話している。


「だけどこの王子と女神様のモデルって私たちなんでしょう?だったらあなたのことを悪く書き過ぎじゃない?」


 男性は少しだけ目を丸くしたあと、ふっと嬉しそうな顔で笑った。


「後世に残すのは、それでいいんだよ。それに、民にとっては同じようなものだしね。……君さえ本当のことを知っていてくれたら、私はそれで充分だから」

「もう、そんなこと言われたら何も言えないじゃない。だけど逆に、私のことは美化し過ぎてるわよ」


 女性が少し困ったような顔でそう言うと、男性は今度は強く首を横に振った。


「ううん、それこそ絶対に無いよ。どれだけ必死に言葉を並べても、君の美しさを正しく表現することは出来ないもの」


 あまりにも真っ直ぐに言われて、女性は思わず吹き出した。


「もう、そういうこと平気で言う」

「本当のことだからね」


 嬉しそうに微笑む男性に、女性は呆れたように笑った。

 けれどその頬は、ほんのり赤く染まっていた。

 男性はそんな彼女の腕をそっと引き寄せる。

 そして後ろから優しく抱きしめると、その美しい黒髪に頬を寄せながら、どこか甘えたような声音で言った。


「この世界に残るって決めてくれたんだから、もう死ぬまで離さないからね」

「うん……」


 女性の返事に、男性は幸せそうに目を細める。

 けれどすぐ、辛そうに眉間に皺を寄せた。


「……死ぬまで、か」


 小さな声でそう呟くと、小さく息を吐いた。


「……私はこれまで、死ぬのを怖いと思ったことなんて、一度もなかったんだ。だけど今は、死ぬことが怖い」

「え……?」


 女性が振り返ろうとすると、男性は抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。


「いや、死ぬことが怖いんじゃない。……死んで君と離れ離れになってしまうことが怖いんだ」


 すがる様な声で男性が続ける。


「離れたくない。本当に大切で大切で、どうしたらいいのか分からない。いっそ君とひとつになれたらいいのに、なんて考えるんだ」


 あまりにも真剣なその声に、女性の胸がキュッと締め付けられた。


「……だけど、ひとつになっちゃったら、こうして触れ合えなくなっちゃうよ?」

「む、……それは嫌だな」


 女性の言葉に、男性は真面目な顔で悩み始める。

 そんな男性に、女性はふふっと笑みを零すと、お腹に回された手にそっと自分の指を重ねた。


「ねえ、この世界にも、生まれ変わりって考え方はあるの?」

「生まれ変わりって……?」


 不思議そうに問い返され、女性は穏やかに説明した。


「死んだ後、姿や名前は変わっても同じ魂のまま、もう一度この世に生まれてくるっていう考えよ」

「聞いたことが無いな。……不思議な考え方だね」

「まあ、本当にあるのかなんて分からない、昔からの言い伝えなんだけどね。でも異世界への転移があるくらいだから、きっと生まれ変わりも存在すると思うわ」


 その言葉に、男性は静かに目を伏せた。


「……うん、そうだね」


 どこか願うような声音だった。

 女性はそんな彼の表情を見て、優しく微笑む。


「私ね、もしもう一度生まれ変わっても、またあなたと一緒に生きたいわ」


 男性は一瞬、目を見開いた。

 そして彼は、縋るように女性を抱きしめる腕に再度力を込めた。


「……もしもまた異世界同士だったら?」

「だったらまた、会いに来るわよ」

「本当に?」


 不安そうに揺れる青い瞳に、女性はふわりと笑った。


「うん、大丈夫、なんとかなるわよ。……約束ね」

「なんとか、なる……、かあ。ふふ。うん、そんな気がしてきた。絶対に約束だよ」


 男性は、嬉しそうにそう呟いた。


「あ、じゃあ前に君が教えてくれた、ゆびきりをしようよ。こういった約束の時にするんだよね?」


 以前女性に教えてもらった約束の際の手遊びを思い出して楽しそうに言った男性に、女性もつられるように笑みを零した。


「うん、そうね。しようか」


 二人は向き合うように身体を寄せ合う。

 そして小指を絡め、声を揃えた。


「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った」」


 指を離したあと、男性は思わず吹き出した。


「やっぱりこれ、何度聞いても怖いよなぁ」

「言われてみると、確かに物騒よね」

「よくこんな罰を思いつくよね」

「……ねえ、何度も言うけど、本気で針を飲ませる訳じゃないからね?」

「うん、もうちゃんと理解したよ。……ああ、でも、君のためなら、私は飲んでもいいって思うよ」

「もう、そんなの駄目よ!……だから絶対、また出会ってね」

「ふふ。うん、絶対だよ」


 そう言って微笑んだ後、「……だけど」と呟く。

 そして男性は女性の耳元へ顔を寄せると、低く甘い声でそっと囁いた。


「やっぱり私は、今、目の前にいる君がいいな」

「うん、そうね。私もよ」


 そして二人は互いの温もりを確かめるようにそっと身を寄せると、どちらからともなく目を閉じた。



 それは、今からはるか昔、歴史の記録には残らなかった、初代国王とその王妃の、二人だけの秘密の記憶。

 そして、今を生きる二人の記憶の奥深く、本人たちも気づかないほど静かに、けれど確かに残っている、とても幸せな思い出の話。


 





見つけてくださり、お読みいただき、誠にありがとうございます。


一章はこれにて完結となります。

明日から、二章を開始します。

引き続きお読みいただけますと、嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。


陽ノ下 咲

 


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