表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
一章 ひとりぼっちの女子高生と孤独な王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/35

二十八話 言えなかった本当の思い

 食事を終えた後、二人は改めてソファに腰掛けた。


 つい先程まで穏やかに食事をしていたはずなのに、楓の胸はどこか落ち着かなかった。

 そんな、明らかに緊張している楓を見つめ、ステファンは少し申し訳なさそうに笑みを浮かべた。


「……さっきは急に話し出してごめんね」


 楓は慌てて首を振った。


「ううん、大丈夫」


 そう答えると、ステファンはほっとしたように目を細める。


「ありがとう」


 柔らかな声だった。

 けれどその後、彼は静かに表情を引き締めた。


「まず、今回何が起きていたのか、ちゃんと説明するね」


 楓も姿勢を正し、小さく頷く。

 ステファンは真っ直ぐ楓を見つめたまま、ゆっくりと言葉を続けた。


「今回の一件の首謀者は、第一王子妃派の残党とガルディア王国だ」

「……ガルディア王国」


 楓が呟くと、ステファンは静かに頷いた。


「うん。あの国は以前から警戒していたんだ」


 そう言った彼の瞳が、わずかに険しくなる。


「軍事力を盾に周辺国へ圧力をかけることも少なくないし、国内も決して安定しているとは言えない。力を持つ者が正しいという考え方が根強く残っている国なんだ」


 一度言葉を切り、ステファンは続けた。


「そのガルディア王国が、今回第一王子妃派の残党と接触して、こちらの混乱を狙って動いていたんだ」


 楓は思わず両手を握り締める。

 牢で見た、あの聞き慣れない言語を話していた男性。彼がガルディア王国の人間だったのだろう。

 自分が巻き込まれた出来事が、想像以上に大きな陰謀の一部だったことに、今更ながら背筋が冷えた。

 そんな楓の様子に気付いたステファンが、安心させるように、少しだけ声音を和らげた。


「けれど、こちらも事前に動きを把握していたんだ」

「え……?」

「昔、君と出会った鏡があるだろう?ふと、あの鏡が頭に浮かんで、そこに向かったんだ。そして鏡に向かって願ったら、君の様子が映ったんだよ」


 その言葉に、楓は驚いて小さく息を呑んだ。


「そこに映った第一王子妃派の残党とガルディアの間者を見て、今回の首謀者が判明した」


 ステファンが静かに続ける。


「だから、彼らが動くよりも早く、こちらから奇襲を仕掛けることが出来たんだ」


 あの時、絶望しかけた瞬間にステファン達が現れた理由が、ようやく全て繋がった。


「……そうだったのね」

「ああ」


 ステファンは小さく頷く。


「今回の件で、ガルディア側もかなり痛手を負った。こちらに手を出せばどうなるか、十分理解したはずだ」


 そして、一度言葉を区切った。


「それから、ガルディア王国との間には新たな取り決めを結ぶことになったよ」

「取り決め?」

「互いに軍事的侵略を行わないという契約だ」


 楓は目を瞬かせる。


「元々私が望んでいた条件を飲んでもらう形で締結できたんだ。向こうとしても、これ以上事を荒立てたくはなかったんだろうね」


 危険な事件だった。

 けれど同時に、アストレア王国にとって有利に働いた面もあったのだと分かり、楓は少しほっとした気持ちになった。


「第一王子妃派についても、関係者は捕縛し、投獄した。……ただ、第一王子妃については別だ。王宮に戻ってすぐ、父上が温情を与えてほしいと願い出てきたんだ」

「前王陛下が……?」

「うん」


 ステファンがひとつ頷いて続ける。


「これまで表立って動かなかった父上が、第一王子妃の為に、自ら私の前に来たんだよ。次に同じようなことがあれば、自分の首を差し出すとまで言われた」


 その時を思い出しているのだろう。

 ステファンは遠くを見るように目を細めた。


「……その時の父上の目を見て、私は、きっともう大丈夫だと確信した。だから第一王子妃の処遇は、父上に任せることにしたんだ」

「……第一王子妃様は?」

「今回のことを泣いて詫びていた。そして父上に従って去っていったよ」


 ステファンが、穏やかな声でそう言った。

 長く続いた因縁が、ようやく終わろうとしているのだと、そう感じて、楓は涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。


 静寂が落ちる。

 その空気の中で、ステファンはゆっくりと息を吐いた。

 そして真っ直ぐ楓を見つめた。


「……さっき、最後まで言えなかったことなんだけど」


 その真剣な声音に、楓は思わず背筋を伸ばした。


「カエデ、今回のことで私は確信したんだ」


 楓は黙ったまま、彼の次の言葉を待つ。

 ステファンは苦しそうに眉を寄せて、続けた。


「私はもう、君が居ないと生きていけないんだってことを」


 その言葉に、楓の呼吸が一瞬、止まった。


「君が君の世界に帰らなければならないことは分かってる。私と一緒にいれば、また今回みたいに危険な目に遭わせるかもしれない。それでも……、」


 そこで言葉が震える。

 いつも冷静な彼が、こんなにも不安そうな顔をするなんて。


「帰らないでほしい」


 それは、とても切実な声だった。


「ずっと私のそばに居てほしい。……私を、選んでほしい」


 懇願するようなその声に、楓の頬を涙が伝った。

 胸がいっぱいになって、上手く息が出来ない。

 けれど、伝えなければと思った。


「……私、ここに居てもいいの?」


 震える声で問いかける。

 楓をじっと見つめるステファンの瞳が、かすかに揺れる。


「私も、あなたのそばに居たいとずっと思ってた」


 涙が零れる。


「でも、それはあなたに迷惑がかかると思っていたから……言えなかったの」


 王族である彼の隣に、自分がいていいはずがない。

 危険を招くだけなのではないかと、何度もそう思ってきた。

 けれど、本当は離れたくなかった。

 そう告げると、ステファンは目を見開いた。


「……本当に?」


 信じられないものを見るような顔だった。

 楓は涙を拭いながら、小さく笑う。


「うん、本当よ」


 その瞬間、ステファンが堪えきれないように楓の頬を両手で包み込んだ。

 大切なものに触れるような、優しい手だった。

 そして、そっと唇が重なる。

 楓は静かに目を閉じた。


「カエデ、愛してるよ」


 額を寄せたまま、ステファンが囁く。

 その言葉に、楓はまた涙を零した。


「私も愛しているわ、ステファン。これから先、ずっと一緒に居させてね」


 今度は楓の方から、そっと彼に口付ける。

 ステファンは驚いたように目を見開き、それから幸せそうに微笑むと、もう一度、その柔らかい唇に、自分のそれを重ねた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
危ないけど、帰らないで、側にいてってハッキリ言えて良かったです……!! 選んでほしい、っていう言い回しが、自分の希望を強要しない、相手を尊重する優しさがあって好きです(*´꒳`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ