表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
一章 ひとりぼっちの女子高生と孤独な王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

第二十六話 起爆剤(ステファン視点)

※第二十五話『一夜が明けて』のステファン視点の話です。

 ステファンは騎士達を率い、夜の闇を駆け抜けていた。

 真っ直ぐに馬を走らせながら、先程、鏡から聞こえた言葉を思い返す。


 奴らはカエデのことを、第三王子の唯一の弱点と評していた。

 けれど、それはとんだ思い違いだ。

 彼女はステファンの弱点などではない。

 むしろその逆だ。

 彼女はステファンの原動力であり、前へ進む理由そのものだった。

 ゆえに、カエデに危害を加えることは、彼の怒りを呼び覚ます起爆剤にしかならない。


(カエデに手を出して、ただで済むと思うな)


 彼女を連れ去ったその相手を、許せるはずもなかった。


 夜通し馬を走らせ、翌朝、砦の近くまで辿り着いた。

 砦外周の見張り台で、敵の見張りを発見し、迷いなく剣を抜いた。

 鋭い一閃に、男が声を上げる間もなく崩れ落ちる。

 静かに奇襲を仕掛けながら、砦内部へ侵入する。

 敵兵がこちらに気付いた時には、既に遅かった。


「なっ……!?」

「侵入者だ!!」


 怒号が飛び交う中、ステファンは一切止まることなく進む。

 敵を薙ぎ倒しながら、一直線にカエデの居る牢へ向かった。

 そして牢の前に着いた時、扉の向こうから、男の怒鳴り声が聞こえた。


「待てっ!その女は人質だから殺しはするな!だが、緊急事態だ。手足は潰せ」


 その言葉に、脳裏がカッと焼けついた。

 一気に血が逆流するような怒りが全身を満たす。

 次の瞬間、ステファンは乱暴に扉を押し開け、部屋に踏み込んだ。


 視界に飛び込んできたのは、剣を振り上げる男だった。

 その先にいたカエデの姿に、考えるより先に身体が動いていた。

 男の背後へ回り込み、一撃で叩き伏せる。

 そして、カエデがこちらを見た。


「……ステファン」


 泣きそうな声だった。

 その声を聞いた瞬間、張り詰めていたものが一気に緩む。

 ステファンは駆け寄ると、強くカエデを抱き締めた。


(……温かい)


 彼女が無事だった。その事実に胸が強く締め付けられる。

 腕の中へ閉じ込めるように抱き締めながら、震える息と共に言葉が零れた。


「間に合った……」


 すると、カエデの腕がそっと背中へ回り、服をぎゅっと握った。

 その仕草に、胸が痛いほど満たされる。


「カエデ、もう大丈夫だよ」


 安心させるように耳元で囁く。


「……ステファン」


 か細い声で名前を呼ばれた直後、腕の中の身体からふっと力が抜けた。

 その瞬間、ステファンの心臓が嫌な音を立てた。


「カエデ?」


 慌てて顔を覗き込む。

 けれどその表情は穏やかで、ほっとした。

 きっと、長く張り詰めていた緊張から解放されて、安心したのだろう。

 規則正しい呼吸を確認して、小さく安堵の息を吐いた。

 少なくとも今は大事には至っていないようだ。

 そう思うだけで、張り詰めていた心が少しだけ軽くなった。


 ステファンは、腕の中の彼女をそっと横抱きに抱え直し、牢を出た。

 外では既に戦闘はほぼ片がついていた。

 抵抗していた者達も次々と拘束され、討伐は終結へ向かっている。

 駆け寄ってきたセドリックが、ステファンの傍で足を止める。


「第一王子妃の身柄を確保いたしました」


 その報告に、ステファンは小さく目を細めた。

 ずっと表には姿を見せていなかったが、彼女が裏で指示を出していることは掴んでいた。

 案の定、奥の部屋に身を潜めていたらしい。

 騒ぎに気付いた彼女は、もはや逃げ場などないと悟ったのか、その部屋に火を放ち、自らも炎の中へ身を投じようとしていたという。

 だが、それより先にセドリックに発見され、取り押さえられたのだという。


 ふと、騎士達に拘束された第一王子妃が顔を上げた。

 その視線がステファンとぶつかる。

 悔しさを滲ませた瞳が何かを訴えるように揺れる。

 だが結局、彼女は何も言わず、静かに顔を背けた。


 その姿を見つめながら、ステファンは僅かに目を伏せた。

 カエデを傷付けようとしたことは決して許せない。

 だが同時に、第一王子を失ったあの日から、深い嘆きと悲しみに囚われ続けてきた彼女の姿には、言葉にできないやるせなさもあった。


 もしどこかで違う道を選べていたなら。

 そんな考えが一瞬だけ脳裏を過ぎる。

 けれど、もう全ては終わったことだ。


「全員を王宮へ連行しろ。厳重に監視の上、投獄するように」


 騎士達へ命じる。


「はっ!」


 セドリックを先頭に、騎士達が動き始めた。

 ステファンもまた、腕の中のカエデを抱き直す。

 確かな温もりがそこにあった。

 その温もりを確かめるように抱き締めながら、ステファンは帰路につく。


 こうして、一連の誘拐事件は幕を下ろしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ