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ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲


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第二十四話 古い姿見(ステファン視点)

※第二十三話『唯一の弱点』のステファン視点の話です。

 カエデの姿が見当たらない。

 セドリックからその報告を受けた瞬間、ステファンの中で何かが凍り付いた。

 普段は冷静さを崩すことのないセドリックが、今はその表情に隠し切れない自責の色を浮かべている。


「……どういうことだ?」


 ステファンは静かな声で聞き返した。

 けれど、側近達は一瞬で空気が変わったことを察する。

 最後にカエデの姿を見たと証言している侍女が、青ざめた顔で言った。


「カ、カエデ様は……陛下に呼ばれたと……」

「……私が?」


 ステファンの碧眼が鋭く細められる。


「そんな指示は出していない」


 その瞬間、周囲の空気が張り詰めた。

 嫌な予感が、胸の奥を冷たく締め付ける。

 カエデは警戒心が薄いわけではない。

 だが、自分の名前を出されれば疑わなかっただろう。

 それほど彼女は、自分を信じてくれている。


「……っ」


 ステファンは奥歯を噛み締めた。

 自分への信頼を利用された。


「王宮内外をくまなく捜索しろ」


 低い声が落ちる。


「門の通行記録も洗え。怪しい動きをした者がいれば、一人残らず拘束しろ」


 ステファンは冷静に指示を出したが、その言葉の内側には、焦りがわずかに滲んでいた。


「はっ!」


 騎士達は即座に動き出す。

 セドリックもまた、指示が飛ぶや否や即座に捜索の指揮へと回っていた。

 その動きはいつも通り、冷静で無駄がない。けれど、声の端にはわずかな焦りがにじんでいた。


 セドリックの焦りを感じとりながらも、ステファンは彼を責める気にはならなかった。

 彼は自らの失態を責めているが、今回の件は、決してセドリックが警戒を怠ったから起こった訳ではないとステファンは考えている。


 実際、カエデが毒を盛られて以降、彼女の周囲の警備は以前より遥かに厳重だった。

 にもかかわらず敵は、その警備体制を理解した上で、わずかな隙だけを正確に突いてきたのだ。

 確実に、王宮内部の者による犯行だ。


 やはり王宮内にも、未だ敵は多い。

 ステファンを明確に敵視し、外部と通じている者もいるのだろう。

 王宮内の人間関係は、もう一度徹底的に洗い直す必要がある。


 けれど、それも後回しだ。

 今はただ、カエデのことしか考えられなかった。


 カエデ。誰にも必要とされないと思っていた自分に、優しく手を差し伸べてくれた、何よりも大切な存在。


 ーーなんとかなるよ。


 優しく寄り添うような声で彼女が言った魔法の言葉。

 彼女の言葉に、会えない間も何度も救われてきた。

 そんな彼女が、手を伸ばせば触れられる距離にいて、名前を呼べば振り向いてくれる。

 この日々が、どれほど幸福なものかをステファンは知っていた。

 だから絶対に失いたくないと、強く思っている。


(頼む、カエデ。どうか無事で居てくれ……っ!)

 

 その時、脳裏に一つの光景が浮かびあがった。


「……鏡」


 唐突に脳裏に浮かんだそれは、幼い頃、自分とカエデを繋いでいた、あの姿見だった。

 ステファンは弾かれたように顔を上げる。


「陛下?」

「王宮の奥の部屋へ行く」


 問いかけてきたセドリックに短くそう告げる。

 ステファンはそのまま歩き出し、セドリックは静かにその後を追った。


 幼い頃を過ごした、人気のない部屋。孤独だった日々と、楓との思い出が残る場所。

 ステファンは迷うことなくその部屋へ向かった。



 部屋の奥には、古い姿見が今も静かに置かれている。

 鏡の前で足を止め、祈るような思いで鏡へそっと手を伸ばした。


「カエデ。……お願いだ……繋がってくれ」


 その瞬間、鏡が淡く光を帯びた。


「……!」


 隣に立つセドリックが息を呑む中、鏡の中にある景色が映し出された。

 その瞬間、ステファンの瞳が大きく見開かれる。


「カエデ……!」


 薄暗い石造りの一室、カエデとマリアの姿。

 二人とも生きている。

 その事実に、一瞬、全身の力が抜けそうになる。


 だがすぐに、鏡の中へ別の男達が映り込んだ。

 その姿には、見覚えがあった。


 第一王子妃派の残党だ。

 更に、その隣には、武力による勢力拡大を狙うガルディア王国の間者の姿もあった。

 あの国は強大な軍事力を背景に周辺国への干渉を繰り返しており、国内の統治も決して安定しているとは言えない。

 力による支配を是とする気風が強く、治安の悪化や貴族同士の争いも絶えないと聞く。

 以前から、ステファンも警戒を強めていた国だった。


 ステファンが目が鋭く細める。


『……だから、我々は奪うことにしたのだ。第三王子の唯一の弱点をな』


 鏡の向こうから聞こえる冷たい声に、ステファンの中で、怒りが静かに煮え滾った。


 やはり狙いは自分だった。

 カエデは、そのために利用されたのだ。


 溢れる怒りをなんとか抑え込み、鏡に映る光景に視線を巡らせる。

 格子のはまった小窓に、古びた石壁。

 この牢の造りには見覚えがあった。

 加えて、第一王子妃派の者達が密かに使える場所となれば、一つしかない。


「……北東の旧砦か」


 そう低く呟くと、ステファンは振り返った。

 

「セドリック、すぐ騎士を集めろ。今すぐにそこへ向かう」


 その瞳には、凍るような怒気が宿っていた。

 

「はっ!」


 セドリックの返答には、先程までの自責だけではない強い意志が滲んでいた。

 迷いなく踵を返すと、兵を集めるため駆け出した。


 その背を見送った後、ステファンはもう一度だけ鏡へ視線を向ける。

 先程までカエデ達を映していた鏡は、今は何事もなかったかのように静まり返っている。


「待っていてくれ」


 誰に聞かせるでもなく、低く呟く。

 握り締めた拳に力を込め、ステファンは部屋を後にした。



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