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ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
一章 ひとりぼっちの女子高生と孤独な王

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第十八話 舞踏会の日

 舞踏会当日の夕方。

 楓は自室で、落ち着かない気持ちのまま鏡の前に座っていた。


 今日は昼を過ぎた頃から女官達により入念に支度をされ、髪も丁寧に結い上げられている。

 ふわりと編み込まれた髪には小さな装飾が散りばめられ、淡い化粧まで施されていた。

 鏡に映る自分は、いつもの自分とはまるで違う。

 マリアを筆頭に、王宮女官達の見事な手際に改めて感心していると、コンコンと扉が叩かれた。


「カエデ様、お召し物をお持ちしました」


 入ってきた女官達の手には、大切そうに運ばれた箱があった。


「陛下からです」


 その言葉に、楓の胸が跳ねる。

 女官が箱を開くと、中に入っていたのは、息を呑むほど美しいドレスだった。


「……わぁ……」


 淡い桃色のドレス。

 柔らかな花びらを思わせる優しい色合いで、繊細な刺繍が裾へ流れるように施されている。

 光を受けるたびに細かな装飾がきらめき、夢のように綺麗だった。


「素敵……」


 自然と声が零れる。

 さらにもう一つ、小箱が差し出された。

 開けた瞬間、楓は思わず息を止めた。

 中に収められていたのは、碧色の大きな宝石がついたネックレスと耳飾りだった。


 美しく澄んだ碧。

 雲ひとつない空をそのまま映したようなその色は、あまりにも見覚えがあった。


(ステファンの瞳の色だ……)


 どくり、と胸が鳴る。

 女官達の手によって身につけられると、宝石は胸元と耳元で鮮やかに輝いた。


 鏡の中の自分を見つめる。

 淡い桃色のドレスに、胸元を彩る碧の宝石と、横顔に添うように揺れる耳飾り。

 柔らかく可愛らしい色合いのドレスを纏った自分は、まるで本当にどこかの国のお姫様のようだった。

 鏡の中の姿が自分だと思うと、なんとも不思議な気持ちになる。

 

「これが、私……?まるで別人みたい……」


 つい、ぼんやりと鏡の中を見つめてしまっていたその時、不意に後ろから声をかけられた。


「カエデ」


 はっとして振り返ると、そこに立っていたのは、正装に身を包んだステファンだった。

 黒を基調とした衣装は、彼の整った容姿を一層引き立てている。

 金糸の刺繍が灯りを受けて控えめに輝き、その姿は思わず息を呑むほど美しかった。

 その姿に、心臓がドキドキとうるさいほど高鳴ってしまった。

 そんな楓をじっと見つめ、ステファンはゆっくり目を細めた。


「カエデ、綺麗だ」


 どこか熱を帯びた声音で言う。


「……とても似合ってる」

「……っ」


 真っ直ぐ見つめられて、頬に一気に熱が集まる。

 胸が苦しい。

 けれど、ちゃんと伝えたかった。

 いつも優しい言葉をくれる彼に、自分もきちんと気持ちを返したい。

 だから楓は、恥ずかしさを堪えながら口を開いた。


「ありがとう、ステファン……」


 少しだけ呼吸を整えてから、続ける。


「あなたの格好も、とても素敵ね。その……かっこいいわ」


 思ったことを、そのまま伝える。 

 すると次の瞬間、ステファンが、ぱっと手の甲で口元を隠した。


「…………え」

 

 彼は耳まで赤くして、見たこともないほど顔を赤らめて、明らかに狼狽していた。

 いつも余裕があって、どんな時も穏やかな彼が、珍しく言葉を失っている。

 その姿がなんだか可愛く思えてしまって、楓は思わずくすっと笑ってしまった。


「ふふ……」

「……笑わないで」


 困ったように眉を下げながら、ステファンが小さく呻く。


「だって……そんな反応すると思わなくて」

「……カエデが悪いよ」

「えっ、私?」

「うん、そう」


 真顔で断言される。

 けれどその顔はまだ赤いままで、全然説得力がない。

 楓がまた笑うと、ステファンは観念したように深く息を吐いた。


「もう……」


 ぽつり、と小さな声が落ちる。


「一生カエデには敵わない気がする……」

「え?」


 聞き返すと、ステファンは「何でもない」と誤魔化すように微笑んだ。

 けれどその視線は、どこまでも優しい。

 少しの沈黙の後、ステファンは気を取り直すように姿勢を正した。


「それじゃあ、行こうか」


 そう言うと、楓に向かってそっと手を差し出した。

 差し出された手を見つめ、楓はそっとその手に自分の手を重ねた。

 するとステファンは、とても大切なものを扱うようにその手を取り、優しく自らの腕へ導いた。

 その温もりに、胸がじんわり熱くなる。


「……うん」


 小さく頷き、二人は並んで歩き出した。

 これから向かうのは、煌びやかな舞踏会。

 けれど楓の胸を満たしていたのは、緊張よりも、隣を歩くステファンと一緒にいられることへの、幸せな気持ちだった。




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