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ひとりぼっちの女子高生は、異世界の地でかつて救った孤独な王に溺愛される  作者: 陽ノ下 咲
一章 ひとりぼっちの女子高生と孤独な王

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第十話 失いたくない大切な人

「……この後、どうするの?」

 

 落ち着きを取り戻した楓がそう尋ねると、ステファンは一瞬、言うべきか悩む素振りをみせた。

 けれど、意を決した様に楓を見ると、静かな声で言った。


「先程の者に、尋問をするよ。誰の指示で動いたのかを調べる必要があるからね」


 返ってきた重い答えに、楓は小さく息を呑んだ。

 するとステファンは、楓を怖がらせないようにするみたいに、そっと声音を和らげた。


「心配しなくていいよ。カエデに危害が及ぶようなことには絶対しないからね」


 その言葉に、楓の胸がちくりと痛んだ。


(こんな時にも、ステファンは守ろうとしてくれる。……なのに私は、この人に何も返せてない)


 そんな思いが胸に残った。



 その日の夜。

 楓は部屋で一人、本を開いたままぼんやりしていた。

 文字が全く頭に入ってこない。

 脳裏に浮かぶのは、ステファンの静かな横顔ばかりだった。

 コンコン、と控えめなノックの音が響く。


「カエデ様、失礼いたします」


 そう言って入ってきたのはマリアだった。

 けれど、その表情は普段と違って、どこか硬かった。


「どうしたの?」


 楓が尋ねると、マリアは少しだけ言いにくそうに視線を伏せた。


「……本日の件ですが」

「……うん」

「あの使用人の男、以前より第二王子派閥と繋がりがあったようです」


 マリアの口から出たその名前に、思わず息を呑む。

 第二王子は、既に亡くなっている人物のはずだ。


「派閥自体は崩壊しておりますが、未だに陛下を快く思わない者もおりますので……」


 マリアの静かな声に、楓は唇を噛み締める。


「……これから、ステファンはどうするの?」


 恐る恐る尋ねると、マリアは一瞬だけ迷うように目を伏せ、そして静かに答えた。


「……あの者を処刑なさいます」


 その瞬間、楓の身体が小さく強張った。


「っ……」

「王族暗殺未遂は、極刑に値します」


 当然のことを告げるような声音だった。

 けれど、楓にとって『処刑』という言葉はあまりにも縁遠かった。

 その事実が、楓の心に重く響いた。

 マリアはそんな楓を見つめ、静かに言った。


「……陛下は、とてもお優しい方です」


 楓が顔を上げる。


「本来なら、もっと苛烈な対応を取る貴族や王族も珍しくありません」


 マリアは続ける。


「ですが陛下は、必要以上の粛清を望まれません。処罰も、必ず理由と証拠を確認した上で決断なさいます。私は、そんな主を、誇らしく思います」


 優しい声で、そう締め括った。


 マリアが下がった後も、楓はしばらく動けなかった。

 楓の生きてきた世界では、処刑など、テレビの向こう側で起きている話で、正直楓には全く縁のないものだった。

 ここは、自分のいた世界とは違うのだと改めて実感する。

 綺麗なドレスも、豪華なお城も、その裏には常に、命のやり取りが存在している。

 ステファンは、そんな場所で生きてきたのだ。


 昼間の、毒の入った紅茶のことを思い返し、楓は痛む胸元をぎゅっと押さえた。


 もしも、ステファンが死んでしまったら。


 考えたくもない最悪の事態が脳裏を過り、苦しくて、怖くて、息が詰まりそうになる。


「……嫌」


 ぽつりと声が漏れる。


「そんなの、絶対に嫌……」


 彼を失いたくない。

 その感情が、胸の奥から強く溢れ出る。


 初めて会った時から、ステファンは特別だった。

 孤独だった楓に居場所をくれた人。

 泣きそうになりながら「会いたかった」と抱きしめてくれた人。 

 いつも守ってくれる、大切な人。

 そして今、彼を失うことを想像しただけで、こんなにも怖くなってしまう。


 その時、楓はようやく気が付いた。


「……私」


 口から、小さく震える声が漏れる。


「ステファンのこと……」


 好きなんだ。


 これまでずっと胸の奥に抱えていた想いが、はっきりと輪郭を持った。

 名前の分からなかったこの気持ちの正体を、楓はようやく理解した。

 優しくされるたびに嬉しくなったのも、触れられるたび苦しくなったのも、ずっと彼の側にいたいと願ってしまうのも。


 全部……全部、恋だった。


「……っ」


 その感情を理解した途端、顔が一気に熱くなった。


 異世界から来た自分なんかが、よりによってこの国の王を好きになってしまった。 

 けれど、それでも。


(……守りたい)


 その気持ちだけは、驚くほどはっきりしていた。


(もうこれ以上傷付いてほしくないし、苦しんでほしくもない。ずっと笑っていてほしい。……出来ることなら、私の隣で)

 

(私は……彼を失いたくない)


 そう強く願ってしまうほどに、楓はステファンのことを好きになっていた。




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