第六話:固定される未来
空気が張り詰めていた。
外縁区画。
歪みの密度が、明らかに違う。
「……多いな」
レンが低く言う。
視界の奥、蠢く影。
数えきれない。
「増えすぎ」
ユウリが呟く。
腕を押さえる。
もう、見えないふりはできないレベルまで広がっている。
カイトの視線が止まる。
「……おい」
ユウリは答えずに、前を見る。
「来る」
次の瞬間、一斉に動いた。
歪みが、波のように押し寄せる。
速い。
数が異常。
レンが舌打ちする。
「チッ……捌ききれねえな」
ブレードを構える。
一体、二体と斬る。
だが、減らない。
増えている。
「……クソ」
ユウリの腕が光る。
ヒビが、さらに広がる。
「やめろ!」
カイトが叫ぶ。
ユウリが止まる。
一瞬だけ。
その隙に、歪みが迫る。
危ない。
間に合わない。
その時、カイトの中で、
何かが繋がる。
浮かぶ文章。
“敵は、三秒間、動きを止める”
ペンを握る手が震える。
でも、今しかない。
一行書く。
ノートに刻む。
その瞬間。
世界が、止まった。
歪み。すべて。
ピタリと、動かなくなる。
三秒の沈黙。
異様なほど長い。
レンが一瞬で理解する。
「……やったな」
加速。
レゾナンスブレードが閃く。
止まっている歪みを、一方的に斬り裂く。
一体。二体。十体。
確実に数が減る。
三秒。
終わる。
時間が、戻る。
残った歪みが動き出す。
だが、もう遅い。
レンが踏み込み最後の一体を、斬る。
静寂。
完全に消えた。
しばらく、誰も動かなかった。
カイトは、立ったまま固まっている。
ノートを見ている。
自分が書いた一文。
確かに、現実になった。
「……できた」
小さく呟く。
デイジーの声が震える。
『観測確認……完全固定』
『ありえない……』
レンが振り返る。
「やるじゃねえか」
軽く言う。
だが、ユウリが、その場で膝をついた。
「……っ」
カイトの顔色が変わる。
「おい!」
駆け寄る。
ユウリの腕、ヒビが、一気に広がっている。
さっきまでとは、比べ物にならない。
「なんで……!」
デイジーの声。
『負荷が跳ね上がってる!』
『固定の反動……!』
カイトの手が震える。
「俺のせいか……?」
ユウリは首を振る。
「違う」
弱く言う。
「必要だった」
またそれだ。
カイトが怒鳴る。
「それで壊れたら意味ねえだろ!!」
沈黙。
ユウリは何も言えない。
ただ、呼吸が浅い。
レンが低く言う。
「……代償デカすぎだな」
デイジーも続く。
『想定以上……』
『これは多用できない』
カイトはノートを見る。
たった一行。それだけで、これだけの負荷。
「……ふざけんな」
小さく呟く。
力を握る。
「こんなの……」
言葉が続かない。
ユウリが立ち上がろうとする。
ふらつき、カイトが支える。
その距離で、ヒビがよく見える。
壊れかけている。
確実に。
ユウリが小さく言う。
「でも」
カイトをまっすぐ見る。
「止められる。あんたなら。」
その言葉が、重く刺さる。
カイトは目を逸らす。
ノートを強く握る。
「……まだ分かんねえよ」
正直に言う。
「でも」
少しだけ、顔を上げる。
「このままは、嫌だ」
それだけ言う。
遠くで、また歪みが生まれる。
止まらない。
世界は、まだ壊れ続けている。




