第五十六話:余波
静けさ。
共鳴フィールドが消えた後の、作戦室。
機械音も止まり、ただ、呼吸だけが残る。
誰もすぐには動かない。
終わった。
だが、終わっていない。
そんな空気。
レンが最初に動く。
「……はぁ」
大きく息を吐き肩の力を抜く。
「生きてんな、全員」
確認するように。
ファリンが小さく頷く。
「一応ね」
だが、完全ではない。
疲労、消耗そして――
変化。
ユウリは床に座り込んでいる。
まだ立てない。
呼吸が浅い。
だが、意識はある。
ゆっくりと目を開ける。
視界が、少しだけズレる。
「……あれ」
違和感。
何かが、少しだけ違う。
だが、言葉にできない。
その時。
「無理に動くな」
低い声。
エヴァ。
すぐそばに立っている。
いつの間にか。
圧が、少しだけ残っている。
ユウリが見る。
「……大丈夫です」
反射的に言う。
だがエヴァは首を振る。
「大丈夫じゃない」
はっきりと。
「自覚がないだけだ」
ユウリが少し黙る。
図星。
エヴァが続ける。
「後で来い」
命令。
「検査する」
拒否は許されない。
ユウリは、小さく頷く。
その横でカイトが座っている。
壁にもたれて目を閉じている。
だが、意識はある。
「……妙な感じだな」
小さく言う。
レンが笑う。
「死にかけてた奴のセリフか?」
軽口。
だがカイトは首を振る。
「違う」
目を開ける。
その瞳。
以前とは違う。
ほんのわずかに、黒が混ざる。
深さが増している。
「……静かすぎる」
内側の違和感。
ファリンが聞く。
「何が」
カイトが答える。
「ノイズがない」
書き換えの感覚。
いつもなら、どこかに引っかかりがある。
現実とのズレ。
だが今は。
「妙に、馴染んでる」
グロキシニアの影響。
完全ではない。
だが、確実に変わっている。
デイジーがデータを確認する。
「存在値……安定してる」
驚き。
「89.9で固定されてる」
減らない。
増えない。
完全な停止。
ファリンが呟く。
「……結果的に“固定”に近い状態ね」
皮肉。
望んでいなかった形。
だが、救われた。
カイトが苦笑する。
「動けるだけマシだろ」
軽く言う。
だがその奥に、少しだけ引っかかりがある。
その時。
アルトが静かに言う。
「……変わったな」
誰にともなく。
だが、全員に向けて。
レンが振り向く。
「お前もな」
アルトを見る。
今は、同じ場所にいる。
アルトは答えない。
ただ、目を伏せる。
その表情は少しだけ、軽くなっている。
だが完全ではない。
失ったものは、戻らない。
その現実は、変わらない。
ユウリが、ゆっくり立ち上がる。
まだふらつく。
「……カイト」
名前を呼ぶ。
カイトが見る。
言葉がいらない。
通じる。
ユウリが小さく笑う。
「戻ってきてくれて、よかった」
素直に。
カイトが答える。
「そっちこそ」
短くだが確かに。
その瞬間空気が、少しだけ軽くなる。
終わった実感。
だが。
エヴァが言う。
「まだだ」
一言で、現実に戻される。
全員が見る。
エヴァは静かに言う。
「今回の件で均衡は崩れた」
核心。
「グロキシニアは消えていない」
沈黙。
重い事実。
ユウリを見る。
そして、カイトも。
「分散しただけだ」
つまり。
終わっていない。
形を変えただけ。
レンが舌打ちする。
「マジかよ……」
だが。
どこか、予想していた。
ファリンが言う。
「じゃあ次は」
エヴァが答える。
「もっと厄介になる」
確定未来。
逃げられない。
その時カイトが小さく笑う。
「いいじゃねえか」
全員が見る。
カイトは言う。
「そのために、生き残ったんだろ」
軽くだが強く。
ユウリが頷く。
「うん」
その目は以前より、ずっと強い。




