第五十五話:移植
ユウリの手とカイトの手。
その間にある黒い光。
不安定に揺れている。
今にも崩れそう。
デイジーが叫ぶ。
「そのまま動かさないで!!」
必死の制御。
数値は、すでに限界。
「89.7」
減り続けている。
時間がない。
ユウリが言う。
「……いくよ」
カイトを見る。
確認。
カイトは、少しだけ笑う。
「選択権あるのか?」
軽く言う。
ユウリは首を振る。
「ある」
真剣に。
その一言で、空気が変わる。
レンが目を細める。
ファリンも、わずかに反応する。
カイトが言う。
「……どういう意味だ」
ユウリが答える。
「これ、ただの補填じゃない」
黒い光を見る。
「“グロキシニアの一部”」
つまり。
力だけじゃない。
感情も記憶も“重さ”も全部含まれている。
カイトが理解する。
「……混ざるのか」
ユウリが頷く。
「うん」
「カイトの中に入る」
「影響、出るかもしれない」
沈黙。
レンが小さく言う。
「やめとけって言いたいとこだな」
だが、止めない。
カイトの問題だから。
ファリンも何も言わない。
判断を委ねる。
カイトは、少しだけ目を閉じる。
考える。
ほんの数秒。
だが、十分。
そして。
目を開ける。
「……いい」
ユウリが聞く。
「ほんとに?」
最後の確認。
カイトが笑う。
「どうせ削れて消えるなら」
肩をすくめる。
「混ざった方がマシだろ」
軽く言う。
だがその奥に、覚悟がある。
「それに」
ユウリを見る。まっすぐに。
「お前が選んだもんだろ」
完全に信頼している。
ユウリの目が、揺れる。
だがすぐに、強くなる。
「……ありがとう」
小さく言う。
そして手を動かす。
黒い光をカイトへ押し込む。
その瞬間。
爆発。
白と黒の光が弾ける。
感情が、ぶつかる。
カイトの体が、大きく跳ねる。
「――っ!!」
声にならない声。
流れ込む感情。膨大な情報。孤独。恐怖。拒絶。
「消えたい」
その思いが、一気に押し寄せる。
カイトの意識が揺れる。
飲まれかける。
だが。歯を食いしばる。
「……舐めんな」
低く言う。
踏みとどまり、受け入れる。
拒絶しない。
押し返さない。
そのまま、“受け取る”。
ユウリが叫ぶ。
「今!!」
全員が動く。
レンが踏み込む。
「抑える!!」
力ではなく、感情で支える。
ファリンが目を閉じる。
「安定化、合わせる」
精密な制御。
エヴァが命じる。
「同期率、最大」
圧が跳ね上がる。
アルトが低く言う。
「流すな……繋げろ」
強制共鳴が発動する。
全員の感情が、一つに重なる。
カイトとユウリ二人の境界を支える。
デイジーが叫ぶ。
「今ならいける!!」
数値が、一瞬だけ安定する。
「89.9」
止まる。
減少が、止まる。
カイトの体が、発光する。
透けていた部分が、埋まっていく。
存在が、再構築される。
カイトの目が、開く。
その瞳にわずかに、黒が混ざる。
だが。
意識は、はっきりしている。
「……うるせえな」
いつもの声。
少しだけ、低くなっている。
レンが笑う。
「戻ってきやがったな」
ファリンが息を吐く。
「……成功」
エヴァが言う。
「まだ終わってない」
冷静に。
その通り。
ユウリが、その場に崩れる。
「っ……」
限界。
支えを失いかける。
だがカイトが手を伸ばす。
ユウリを支える。
今度は逆。
「……お前こそ、大丈夫か」
ユウリが、かすかに笑う。
「なんとか……」
息が荒い。
だが、壊れてはいない。
ギリギリ成立。
その瞬間。
共鳴フィールドが、静かに消える。
戦いが、終わる。




