第五十三話:共鳴陣形
作戦室の時計。
「16:02:11」
削られていく時間。
だが、空気は変わっている。
重いだけじゃない。
“決まっている”。
やることは一つ。
デイジーが言う。
「配置、最終確認する」
ホログラムに、円形の陣形が展開される。
中心ユウリ。その周囲に、レン、ファリン、カイト。
外周制御に、エヴァ。
そして――
「もう一人必要」
デイジーが言う。
空席が一つ。
沈黙。
足りない。
共鳴を安定させるには、あと一人。
その時。
「……なら、俺がやる」
低い声。
全員が振り向く。
入口に立っている男。
アルト。
空気が、一瞬で変わる。
レンが即座に構える。
「テメェ……!」
敵。
ついさっきまで、確実に敵だった存在。
ファリンも警戒する。
「どういうつもり」
冷たい声。
アルトは動かない。
ただ、まっすぐ見る。
ユウリを。
「さっきの、見ていた」
短く言う。
ユウリと分離体のやり取り全部。
アルトの目が、わずかに揺れる。
「……思い出した」
小さく言う。
遠くを見るように。
「守れなかったもの」
その言葉で、空気が変わる。
レンが動きを止める。
アルトが続ける。
「俺も、同じだった」
低く押し殺した声。
「守るって言って」
「守れなかった」
妻。
子供。
名前は出さない。
だが、
重さは十分に伝わる。
「全部、消えた」
沈黙。
誰も軽く扱えない。
アルトが言う。
「だから俺は」
顔を上げる。
「“消す側”に回った」
歪んだ選択。
だが、理解できてしまう。
「残る方が苦しいから」
本音。
ユウリが、静かに見る。
何も言わない。
否定もしない。
ただ、聞く。
アルトが続ける。
「でもお前は違った」
ユウリを見ている。まっすぐに。
「残ることを選んだ」
「それでも進もうとした」
その姿。それが、深く刺さった。
アルトが言う。
「……貸す」
一言。
レンが眉をしかめる。
「何をだ」
アルトが答える。
「知識だ」
「共鳴制御の“もう一つの方法”」
デイジーが反応する。
「そんなの……!」
「知らない。データにない。」
アルトが言う。
「軍の禁則技術だ」
静かにいう。
「感情を強制的に同期させる」
危険な技術。
自由を奪う方法。
ファリンが言う。
「副作用は」
アルトが答える。
「強い感情が残る」
つまりトラウマ。後遺症。精神へのダメージ。
レンが吐き捨てる。
「クソみてえな技術だな」
アルトが頷く。
「だから禁じられた」
当然だが今は違う。
「だが今なら」
ユウリを見る。
「“支える側”として使える」
強制ではなく、補助として。
デイジーが思考を回す。
数秒。
そして。
「……いける」
顔を上げる。
「これなら安定率上がる」
希望。
確実に、成功率が上がる。
レンが舌打ちする。
「信用していいのか」
アルトを見る。
敵だった男。
アルトは答える。
「信用するな」
即答。
だが、続ける。
「利用しろ」
その言葉に嘘はない。
ファリンが小さく息を吐く。
「……合理的ね」
判断する。
感情ではなく、結果で。
「使う」
決断。
その時。
「配置、変更」
低い声。
エヴァ。
いつの間にか、そこに立っている。
バッジが、静かに光る。
空気が、一段階重くなる。
レンが呟く。
「……来たか」
エヴァが言う。
「私も入る」
当然のように。
ファリンが言う。
「外周は?」
エヴァが答える。
「不要」
一言。
「ここは、私が抑える」
その場の全員が、理解する。
この人がいるなら、成立する。
エヴァがユウリを見る。
「耐えられるか」
試すような視線。
ユウリは、迷わない。
「耐える」
即答。
エヴァが頷く。
「いい」
短く評価。
そして全員を見る。
「始める」
作戦開始。
共鳴陣形が、起動する。
光が、円を描く。
それぞれの意志が、繋がっていく。
ユウリが目を閉じる。
深く、息を吸う。
再び分ける。自分の中を。
恐怖も、孤独も、全部。
その覚悟を全員が、支える。




