第五十二話:突破口
黒を基調とした作戦室。
青いデジタル時計の表示。
「17:12:48」
減っている。
容赦なく時間が削られていく。
空気が重い。
誰も無駄な言葉を発さない。
ユウリは中央に立っている。
動かない。
だが、思考は高速で回っている。
「……何かあるはず」
小さく呟く。
カイトを見ない。
見たら、迷うから。
デイジーが端末を叩く。
ログ。戦闘データ。書き換え履歴。
全部を洗う。
「同化の時……」
再生。
ユウリと分離体の接触。
カイトの補填。
その瞬間波形が、跳ねている。
デイジーの目が止まる。
「……これ」
拡大。
異常な数値。
「何これ……」
レンが近づく。
「何か見つけたか」
デイジーが言う。
「カイトの存在値」
「一瞬だけ上がってる」
沈黙。
ありえない現象。
エヴァが言う。
「どういうことだ」
デイジーが首を振る。
「分からない、でも確実に起きてる」
カイトが小さく言う。
「……ユウリだな」
全員が見る。
カイトは続ける。
「同化の瞬間、俺の欠けた部分、あっちにあった」
分離体の中に。
「それが戻ったタイミングだ」
説明が繋がる。
ファリンが理解する。
「つまり」
「ユウリが取り込めば、戻る」
カイトの欠損も補填できる。
希望だが。
デイジーがすぐに言う。
「無理」
即否定。
空気が止まる。
「今の状態のユウリはすでに限界に近い」
「さっきの同化あれでギリギリ。もう一度やったら」
言葉を止める。
だが、全員理解する。
「……壊れる」
沈黙。
ユウリが目を閉じる。
深く、息を吐く。
「……じゃあ」
目を開ける。
「分ければいい」
全員が止まる。
意味を理解するまで、数秒。
カイトが言う。
「……何を」
ユウリが答える。
「わたしの中の“グロキシニア”」
ファリンがすぐに言う。
「正気?」
「今やっと統合したもの。それを、また分ける?」
ユウリは頷く。
「全部じゃない」
「一部だけ」
制御された切り出し。
カイトの欠損分だけ。
戻す。
デイジーが言う。
「理論上は……可能かもしれない」
だが、すぐに続ける。
「でもそれ」
顔を上げる。
「バランス崩れる」
核心。
今のユウリは、ギリギリの均衡で成り立っている。
それを崩せば再び、分離の危険。
ファリンが言う。
「最悪、また暴走する」
元に戻る可能性。
レンが笑う。
「またやりゃいいだろ」
軽いが、覚悟はある。
ユウリが言う。
「違う」
首を振る。
「今度はもっとひどい」
理解している。
今度崩れたら、戻れないかもしれない。
沈黙が重い。
カイトが言う。
「……却下だ」
はっきりとユウリを見る。
「お前が壊れる
ユウリが返す。
「カイトが消える」
同じ重さがぶつかる。
どちらも正しい。
どちらも間違っていない。
レンがため息をつく。
「どっちも助ける方法ねえのかよ」
ぼやく。
だがその言葉で、デイジーの手が止まる。
「……ある」
小さく言う。
全員が振り向く。
「ただし」
顔を上げる。
真剣な目。
「全員使う」
誰一人欠けても成立しない。
ファリンが言う。
「聞かせて」
デイジーが説明する。
「ユウリが切り出す」
第一段階。
「カイトに戻す」
第二段階。
「その瞬間の不安定状態を」
一拍置く。
「全員で固定する」
沈黙。
理解が追いつかない。
レンが言う。
「どうやって」
「レゾナンス」
全員が反応する。
それぞれの装備。それぞれの適性。全部を使う。
「感情を同期させて」
「ユウリのバランスを支える」
「疑似的な安定を創り出す」
一人じゃ無理だが。
“全員なら”
エヴァが呟く。
「……共鳴による外部安定化」
「理論としては成立する。だが成功率は低い。」
レンが笑う。
「面白え。やるしかねえだろ」
ユウリが頷く。
「やる」
迷いなし。
カイトは、少しだけ黙る。
全員の顔を見る。
全員本気の顔で、誰も引かない。
カイトがため息をつく。
「……ほんと」
小さく笑う。
「めんどくせえ連中だな」
だが。その声はどこか嬉しそうだ。
「……分かった」
受け入れる。
その瞬間モニターが鳴る。
「90.4」




