第五十一話:選択の猶予
白い光に包まれた医療区画。
足音もない、静かすぎる空間。
機械音だけが、規則的に響く。
カイトは、ベッドに横たわって目を閉じている。
普通に眠っているように見える。
でもその存在は、減り続けている。
モニターの数値「91.6」
ゆっくりと、確実に下がっていく。
デイジーが画面を見つめる。
予測計算でタイプする手が、止まらない。
何度も、何度も繰り返す。
そして、急に手が止まる。
「……出た」
小さく言う。
レンが振り向く。
「何がだ」
デイジーが、ゆっくりと答える。
「限界時間」
沈黙。
部屋の空気が一瞬で変わる。
ファリンが聞く。
「どれくらい」
デイジーは一度目を閉じ、覚悟を決める。
そして。
「……18時間」
はっきりと言う。
誰も、すぐに反応できない。
短すぎるのだ。
レンが乾いた笑いをこぼす。
「は、短期決戦だな」
冗談のようで、冗談じゃない。
ユウリは、動かない。
ただカイトを見ている。
デイジーが続ける。
「これ以上は伸びない」
「むしろ誤差で短くなる可能性もある」
残酷な補足。
ファリンが整理するように冷静に言う。
「つまり、どうあがいても18時間以内に決まるってことね」
はっきりとした二択。
・固定して“止める”
・方法を見つけて“救う”
レンが舌打ちする。
「無茶言うなよ……」
カイトが、ゆっくりと目を開ける。
「……騒がしいな」
弱い声だが、いつもの調子。
全員が振り向く。
ユウリがすぐに近づく。
「カイト」
カイトは、少しだけ笑う。
「聞こえてた」
全部理解している。
レンがストレートに聞く。
「どうする」
カイトは少しだけ考える。
そして。
「固定でいい」
あっさりと決断する。
ユウリが即答する。
「ダメ」
カイトはユウリの目を見つめる。
迷いがない。
「現実、間に合わない」
「間に合わせる」
感情じゃない、ユウリの意志。
カイトがため息をつく。
「……無茶だ」
ユウリが言う。
「知ってる。でもやる。」
レンが笑う。
「いいね、そういうの嫌いじゃねえ」
エヴァが言う。
「成功率は?」
デイジーが答える。
「……不明」
つまり限りなく低い。
ファリンが目を閉じる。
数秒の思考。
「やるしかないわね」
全員が同じ方向を向く。
カイトだけが、少し遅れる。
その流れを見て、
小さく笑う。
「……多数決、負けか」
軽く言う。
だがその目は、どこか嬉しそうだ。
ユウリが言う。
「絶対に助ける」
真っ直ぐにカイトを見る。
カイトが一瞬だけ視線を逸らす。
そして。
「……18時間な」
受け入れる。
「無理だったら」
ユウリが遮る。
「無理じゃない」
カイトが苦笑する。
「……ほんと変わったな」
その時モニターが、わずかに揺れる。
「91.2」
減っている。
デイジーが言う。
「カウント、開始する」
「ここから先は、1分も無駄にできない」
時間はもう、動き始めている。




