第三十七話:共犯
機械音が一定のリズムで響くだけの、静かな部屋。
カイトは、ベッドの上にいた。
意識はある。
だが、体はまだ重く完全には動かない。
天井を見つめたまま、小さく呟く。
「……遅いんだよな」
誰に言うでもなく。
時間がない。
ユウリは、あの中で崩れ続けている。
「……クソ」
動かない拳を握り歯を食いしばる。
その時、扉が静かに開く。
迷いのない一直線の足音。
レン。
カイトは視線だけ動かす。
「……来たか」
レンは何も言わずにベッドの横まで来る。
少しの沈黙。
そして低く言う。
「……聞こえた」
カイトの目が変わる。
「……何が」
レンが答える。
「ユウリの声」
空気が一気に変わる。
カイトがゆっくりと起き上がろうとする。
「マジか」
レンが支える。
カイトが続ける。
「何て言ってた」
レンは少しだけ目を伏せる。
「……助けて、って」
カイトが聞いたものと完全に一致する。
カイトが小さく笑う。
「やっぱりな」
確信。
「いるんだよ」
レンは頷く。
「……ああ」
それだけで十分だった。
二人の中で答えが一致する。
「……どうする」
レンが聞く。
カイトは迷わない。
「助ける」
レンも、迷わない。
「だよな」
静かに言う。
その瞬間、“決まる”。
もう、引き返せない。
カイトが言う。
「でも、そのままじゃ無理だ」
「今のあいつは、リアクターと繋がってる」
「下手に触れば、全部壊れる」
レンが眉をしかめる。
「じゃあどうする」
カイトが少し考える。
そして、「固定する」
レンが首を傾ける。
「……は?」
カイトが続ける。
「物語を、一瞬だけ、止める」
レンが黙る。
理解できない。
だが、カイトは続ける。
「俺のノートで、“あの瞬間”を固定する」
「崩れる直前の状態で止める」
「その間に引き剥がす」
レンの目が細くなる。
「そんなことできんのか」
カイトが苦く笑う。
「できるかじゃねえ」
「やるしかない」
沈黙。
レンが息を吐く。
「……危ねえな」
カイトが頷く。
「めちゃくちゃ危ない」
「失敗したら――」
少しだけ間を置く。
「全部、世界ごと終わる」
レンが笑う。
「上等だろ」
軽く言うが目は真剣。
カイトも笑う。
「だな」
その時、扉の外に気配。
二人とも気づく。
空気が変わる。
扉が開くとエヴァが入ってくる。
無表情。
だが、目だけが鋭い。
「……何をしている」
低い声。
レンとカイトは、一瞬だけ目を合わせる。
答えは決まっている。
レンが前に出る。
「相談だよ」
軽く言う。
エヴァは動かない。
「内容は?」
レンは肩をすくめる。
「機密」
数秒の重い沈黙。
そして、エヴァが言う。
「排除作戦は再開される。準備しろ」
レンは、一瞬だけ迷うが、もう決めている。
「……断る」
静かに言う。
空気が凍る。
エヴァの目がわずかに細くなる。
「理由は」
レンは答える。
「助ける。それだけ。」
エヴァが一歩踏み出す。
「それは命令違反だ」
レンも動かない。
「知ってる。でもやる」
緊張が張り詰める。
今にも衝突しそうな空気。
その時、カイトが言う。
「巻き込む気はねえよ」
エヴァを見る。
「これは俺らの問題だ」
エヴァはカイトを見つめる。
何かを測るように。
そして、小さく言う。
「……愚かだ」
それ以上は言わずに、背を向ける。
「結果に責任を持て」
言い残して出ていく。
レンが息を吐く。
「……見逃したな」
カイトが小さく笑う。
「だな」
二人の間の空気が少しだけ緩む。
そして、カイトが言う。
「これで共犯だな」
レンが笑う。
「最初からそのつもりだ」
その言葉で全部決まる。
もう戻れない。
正しさの外側。
それでも、進む。




