第三十五話:選択
鋭い警報が何度も鳴る。
「リアクター内部、異常増幅」
「グロキシニア反応、急上昇」
デイジーが叫ぶと作戦室の空気が一変する。
「来る……!」
モニターの青い光、観測不能領域。
メーターの波形が一気に膨れ上がる。
今までとは明らかに違う”限界”
エヴァが即座に命じる。
「全員配置」
レンがブレードを握る。
ファリンも細身で小ぶりのレゾナンスブレードと、
レゾナンスシューターの片手仕様を装備する。
いつも通り迷いのない動き。
――のはずだった。
レンだけが、一瞬遅れる。
拳が、わずかに震えている。
あの声。
「……こわい」
頭から離れない。
エヴァの声。
「迷うなら来るな」
ファリンの言葉。
「また守れなかったら?」
全部が重なる。
レンは目を閉じ、深く息を吸う。
そして、目を開ける。
「……行く」
小さく呟く。
―――走り出す。
リアクター内部。
空間が歪んで光が乱れる。
黒が溢れている。
その中心にグロキシニア。
今までより明らかに大きい。
不安定さも増している。
崩れながら膨張している。
「……ァ……」
苦しそうな声。
「……たす……」
まるで、壊れかけの存在。
エヴァが即座に指示を出す。
「全火力、集中」
レンが踏み込む。
ブレードが青く光る。
だが、一瞬だけ止まる。
「……っ」
ほんの一瞬の迷い。
その隙を、ファリンが埋める。
「レン、遅い!!」
先に斬り込み、追加で撃ち込む。
黒を裂き、貫く。
エヴァの貫通射撃が重なる。
完璧な連携。
だが、グロキシニアが、揺れる。
「……やめて」
はっきりと言う。
一瞬全員が止まる。
時間が凍る。
レンの目が、揺れる。
ファリンが叫ぶ。
「騙されるな!!」
エヴァが続ける。
「撃て」
レンはブレードを構えたまま、動かずに止まっている。
「……レン!!」
ファリンの声。
苛立ちと焦りから声が強くなる。
レンは、グロキシニアを見る。
その中心にある青いヒビ。
心臓のように脈打っている。
そして、確かに見える“誰か”。
揺れながら消えかける少女の輪郭。
ユウリだと確信する。
「……いるじゃねえか」
小さく呟く。
エヴァが低く言う。
「レン、命令を実行しろ」
冷たい声。
逆らえないはずの命令。
だが、レンは動かない。
震えている拳を握る。
怖い。
分かっている。
ここで迷えば、全員が危険になる。
それでも。
「……クソ」
小さく吐き捨てる。
そしてブレードを――
下げる。
時間が止まったような沈黙。
ファリンの目が見開かれる。
「……何やってるの」
信じられないという顔。
エヴァの声が低くなる。
「命令違反だ」
レンは、武器を下げたままゆっくりと前へ出る。
グロキシニアに近づく。
デイジーが叫ぶ。
「レン、危ない!!」
だが、止まらない。
一歩。
また一歩。
距離が縮まる。
グロキシニアが不安定に揺れる。
攻撃はしてこない。
ただレンを見ている。
手を伸ばす。
震えている。
怖い。
それでも、「……ユウリ」
小さく名前を呼ぶ。
その瞬間光が、強く揺れる。
「……レン」
はっきりとした返事が確実に聞こえる。
ファリンの呼吸が止まる。
エヴァの目が細くなる。
レンの手が、もう少しで触れる。
あと少し。その時。
警報が最大音で鳴る。
「警告:臨界接近」
「リアクター出力限界」
空間が歪み、黒が膨張する。
グロキシニアが、崩れる。
「……っ!」
レンが踏み込み手を伸ばす。
だが、届かない。
光が衝撃と共に弾ける。
全員が吹き飛ばされる。
視界が白くなる。
音が消える。
そして――
静寂。
煙の中、レンが目を開けゆっくりと起き上がる。
「……っ」
周囲を見るが誰もいない。
いや、離れた場所にファリン、エヴァ、デイジー。
全員無事。
だが。
中央のグロキシニアがいた場所。
そこには何もない。
「……消えた?」
デイジーの声が震えている。
レンは、何も言わない。
ただ、自分の手を見る。
触れられなかった。
あと少しだったのに。
拳を強く握る。
「……次は」
小さく呟き顔を上げる。
目が、変わっている。
「絶対に助ける」
もう、迷わない。




