第二十九話:衝突
作戦開始。
無機質な声が響く。
「殲滅作戦、開始」
同時に、動く。
レンが床を蹴り、最前線へ。
一瞬で距離を詰める。
「今度こそ終わりだ」
低く吐き捨てる。
レゾナンスブレードが、強く発光する。
後方でエヴァが構える。
レゾナンスシューター。
複数の照準が、一点に集中する。
ファリンも配置につく。
左右から挟み込む形。
完璧な陣形。
逃げ場はない。
中央。
グロキシニアが、そこで揺れている。
形が安定しない。
まるで、“存在し続けること自体が負担”のように。
青いヒビが、脈打つ。
ドクン。
ドクン。
レンが踏み込む。
「――行くぞ!!」
一閃。
ブレードが、黒を切り裂く。
同時にエヴァの射撃。
バシュッ!!
連続ヒット。
ファリンの攻撃が重なる。
三方向からの、集中攻撃。
今度こそ。そう思った。
だがグロキシニアは崩れながら、消えない。
むしろ揺れが、激しくなる。
「……っ!?」
レンが顔をしかめる。
手応えがおかしい。
“壊している”感触ではない。
“何かを削っている”感触。
違和感。
その瞬間。
「……やめて」
はっきりと。
全員が止まる。
一瞬時間が止まる。
レンの目が見開かれる。
「……誰だ」
グロキシニアが、こちらを見ている。
いや、違う。
レンを見ている。
そしてもう一度。
「……やめて」
今度は、確かに言葉だった。
デイジーが叫ぶ。
「待って!!」
全員の動きが止まる。
「今の聞いたでしょ!?」
レンが舌打ちする。
「……錯覚だ」
言い聞かせるように。
だが心が、揺れている。
ファリンが強く言う。
「違う!!感情の残滓が、記憶を再生してるだけ!」
「意味なんてない!!」
繰り返す。
自分に言い聞かせるように。
エヴァが冷静に判断する。
「作戦継続、惑わされるな」
その一言で空気が戻る。
レンが歯を食いしばる。
「……チッ」
再び踏み込む。
迷いを振り払うようにブレードを振るう。
だがその瞬間、グロキシニアが一歩だけ、後ろに下がる。
避けた。
「……は?」
レンの動きが止まる。
その行動は、明らかに“意思”だ。
そして「……こわい」
震えた小さな声。
空気が凍る。
デイジーが呟く。
「……違う」
確信。
「これ……」
一歩前に出る。
「ただの敵じゃない」
その瞬間グロキシニアが、大きく揺れる。
青いヒビが、強く光る。
ドクン!!!
リアクター全体が、激しく震える。
警報が鳴る。
「警告:出力異常」
「干渉レベル上昇」
デイジーが叫ぶ。
「やめて!!」
「これ以上攻撃したら――」
言い切る前に。
爆発。
黒が、一気に膨張する。
衝撃波で全員が吹き飛ばされる。
レンが床に叩きつけられる。
「ぐっ……!!」
エヴァが体勢を立て直す。
ファリンもすぐに起き上がる。
だが、グロキシニアは暴走している。
制御できていない。
感情が、溢れている。
「……ァァァ……」
何か悲鳴のような叫び。
リアクターが悲鳴を上げる。
空間が歪む。
「まずい!!」
デイジーが叫ぶ。
「リアクターが持たない!!」
エヴァが即断する。
「撤退。これ以上は全体崩壊のリスク」
レンが歯を食いしばる。
「でも――」
エヴァが遮る。
「命令だ」
冷たい声。
逆らえない。
レンは拳を握る。
全員が撤退する。
その場に、グロキシニアだけが残る。
揺れている。崩れながら。苦しみながら。
「……なんで」
小さな声。
誰もいない空間に。
「……いたい」
青いヒビが、さらに広がる。
ピキッ――
崩壊が、進む。
だが消えない。
消えられない。
―――ただ、そこにある。
静まり返る通路。
デイジーが立ち止まる。
呼吸が荒い。
「……間違ってる」
小さく言う。
レンが振り返る。
「……何がだ」
デイジーが顔を上げる。
涙が浮かんでいる。
「これ」
震える声。
「倒しちゃダメなやつだ」
沈黙。
誰も、すぐには否定できなかった。




