第二十八話:排除
作戦室の重い空気。
モニターには、リアクターの内部構造。
その中心、観測不能領域。
青い反応は消えていない。
むしろ、増えている。
「……拡大している」
エヴァが冷静に言う。
デイジーが頷く。
「さっきより、濃い。数も……増えてるかも」
レンが舌打ちする。
「放っといた結果がこれかよ」
ファリンが腕を組む。
「だから言ったでしょう。早期排除が最適解」
その時、扉が静かに開く。
全員の視線が向く。
そこに立っている、アルト。
白衣で、無駄のない動き。
無表情。
だが、その目だけが冷たい。
「状況は把握した」
低く、淡々とした声。
エヴァが敬礼する。
「アルト博士」
アルトはモニターを見る。
数秒。
それだけで、結論を出す。
「排除対象だ」
迷いがない。
デイジーが一歩出る。
「でも――」
アルトが遮る。
「未処理の感情が沈殿し、異常個体化したもの」
「定義上、ノイズだ」
言葉が冷たい。
「ノイズは除去する」
それだけ。
レンが頷く。
「……話が早くて助かる」
だがデイジーは納得していない。
「待って」
珍しく強く声を上げる。
全員が驚く。
デイジーが続ける。
「“ノイズ”じゃないかもしれない」
アルトが初めて視線を向ける。
「根拠は?」冷たく言う。
デイジーは一瞬言葉に詰まる。
だが、絞り出す。
「……反応がある。ただの塊じゃない」
「言葉みたいなものも――」
アルトが即答する。
「模倣だ」
一切の間もなく。
「感情の残滓が、過去の情報を再現しているだけで意味はない」
完全な否定。
デイジーが言い返す。
「でも――」
アルトの声が重なる。
「意味があると仮定する理由がない」
沈黙。
論理としては、正しい。
反論できない。
アルトが続ける。
「むしろ放置するリスクの方が高い」
モニターを指す。
「リアクターへの干渉。増殖傾向。制御不能」
一つずつ並べる。
「排除以外の選択肢は非合理だ」
完全な理詰め。
ファリンが静かに頷く。
「同意する」
レンも肩をすくめる。
「だな」
デイジーだけが、動けない。
その時。
アルトが、小さく言う。
「……名前の件だが」
全員の視線が向く。
「“グロキシニア”」
一瞬の間。
「確かに花の名だ」
デイジーが顔を上げる。
アルトは続ける。
「だが、それは本質ではない」
「識別用ラベルに過ぎない」
「意味を見出す必要はない」
切り捨てる。
デイジーが、小さく握り拳を作る。
だが、何も言えない。
アルトが指示を出す。
「殲滅作戦を実行する」
エヴァが即座に応じる。
「了解」
レンが笑う。
「やっと本気か」
ファリンが冷静に言う。
「今度は確実に消す」
その言葉を誰も疑わない。
正しいから。
だがどこか、ズレている。
―――リアクター内部。
暗い空間に揺れる光。
グロキシニアがいる。
さっきより、少しだけ大きい。
形はまだ不安定。
崩れながら、保っている。
「……ア……」
微かな声。
意味を持てないまま。
それでも、何かを伝えようとする。
「……レ……」
途切れる。
形が揺れる。
痛むように。
苦しむように。
青いヒビが、強く光る。
ドクン。
ドクン。
鼓動。
そのたびに、黒が広がる。
だが同時に、崩れる。
不安定で存在が定まらない。
それでも、そこにいる。
消えずにただ、残っている。
再び作戦室。
エヴァが言う。
「配置完了」
レンがブレードを構える。
ファリンが静かに息を整える。
デイジーは動かず、モニターを見ている。
グロキシニアの反応。
ゆらゆらと、揺れている。
まるで迷っているみたいに。
小さく呟く。
「……違うよ」
誰にも聞こえない声。
「それ……敵じゃない」
だが作戦は、もう止まらない。




