第二十三話:代償
光が、収束する。
リアクターの鼓動が、ゆっくりと落ち着いていく。
ドクン。
ドクン。
やがて――
静まる。
完全な、静寂。
歪みは、消えた。
空間の歪みも、黒い粒子も、何も残っていない。
成功。
誰もが、そう思った。
「……終わった?」
デイジーが、
恐る恐る呟く。
レンが周囲を見渡す。
「……ああ」
警戒を解かないまま、低く答える。
「反応、ゼロだ」
ファリンも、ゆっくりと息を吐く。
「完全に……消えた」
エヴァが短く告げる。
「任務、完了」
誰もが、張り詰めていたものを
ようやく手放す。
その時。「……ユウリ?」
カイトの声。
静寂に、小さく響く。
全員が、そちらを見る。
カイトは、隣を見ている。
いるはずの場所。
だが――
誰もいない。
「……あれ」
空気が、わずかにズレる。
レンが振り返る。
「……どうした」
カイトは動かない。
ただ、その場所を見ている。
「……さっきまで」
言葉が途切れる。
ファリンの表情が変わる。
「……ユウリは?」
沈黙。
誰も、答えられない。
デイジーが端末を操作する。
焦る指。
「待って、今……探す」
画面に、波形が流れる。
だが。
「……え」
止まる。
「反応……ない」
レンが顔をしかめる。
「どういうことだ」
デイジーが首を振る。
「ありえない……さっきまで――」
カイトが、ゆっくりとノートを見る。
落としたはずのそれが、足元にある。
拾う。
ページを開く。
自分が書いた一文。
そこにある。
「均衡装置ユウリは、感情の流れそのものとして存在し続ける」
その一文を、何度もなぞる。
「……存在し続ける」
嫌な、予感。
カイトの呼吸が浅くなる。
「……おい」
レンが声をかける。
だが、カイトは聞いていない。
リアクターを見る。
中心。
ゆっくりと、光が回っている。
「……いる」
小さく呟く。
誰にも聞こえないほどに。
「……中に」
デイジーが反応する。
「え?」
カイトが顔を上げる。
確信している目。
「リアクターの中だ」
空気が、凍る。
ファリンが一歩前に出る。
「……それは」
言葉が出ない。
カイトが続ける。
「形が変わっただけだ」
「消えたわけじゃない」
だが。
それはつまり、“戻れない”ということ。
レンが低く言う。
「……ふざけんな」
拳を握る。
「それが成功かよ」
カイトは何も言えない。
視線を落とす。自分の手。
震えている。
書いたのは、自分だ。
その時、視界が揺れる。
「……っ」
膝が崩れる。
ノートが、床に落ちる。
デイジーが叫ぶ。
「カイト!!」
支えようとするが、間に合わない。
床に倒れる。
呼吸が浅い。
意識が、遠のいていく。
最後に見えたのは。
リアクターの光。
その奥で、ほんの一瞬。
青い光が、揺れた気がした。
まるで、誰かがそこにいるように。




