第二十二話:創造主の選択
静寂。
誰も、動かない。
リアクターの鼓動だけが、響いている。
ドクン……ドクン……
カイトは、ノートを見ていた。
白いページ。
ここに書けば、すべてが決まる。
ユウリが消えるか。
世界が壊れるか。
その、どちらか。
「……選べってか」
小さく呟く。
手が、震えている。
怖い。
当たり前だ。
世界の運命を、決める。
そんなこと普通の人間が背負えるわけがない。
でも。
「……俺が書いたんだろ」
小さく言う。
この世界。
この物語。
全部。
途中まででも、自分が作った。
だったら。
最後まで、書く責任がある。
顔を上げる。
ユウリを見る。
ヒビ。
最後の一つ。
それが、全ての答え。
「……なあ」
カイトが言う。
「お前、消えるの怖いんだよな」
ユウリは少しだけ驚く。
でも、頷く。
「うん」
小さく。
正直に。
「怖い」
その一言で、十分だった。
カイトは笑う。
「じゃあ、消えないようにする」
全員が息を呑む。
レンが言う。
「……簡単に言うな」
カイトは肩をすくめる。
「簡単じゃねえよ」
ノートを叩く。
「だから書くんだろ」
ファリンが言う。
「世界は?」
静かに問いかける。
カイトは答える。
「壊さない」
即答。
矛盾。
だが、迷いはない。
エヴァが言う。
「両立は不可能だ」
カイトは首を振る。
「今のままならな」
ペンを握る。
強く。
「だから変える」
静寂。
空気が張り詰める。
「均衡装置の定義を変える」
デイジーが息を飲む。
「……本気で言ってる?」
カイトは頷く。
「役目が終わったら消える」
「それが今のルール」
ノートを見る。
白いページ。
「だったら」
「役目を終わらせなければいい」
レンが眉をひそめる。
「……どういうことだ」
カイトは言う。
「終わらない役目にする」
沈黙。
理解が追いつかない。
ファリンが言う。
「それは……」
「永遠に続く均衡?」
カイトは頷く。
「そうだ」
「ユウリを、“装置”じゃなくて」
一瞬、言葉を選ぶ。
「“流れそのもの”にする」
空気が、変わる。
デイジーが震える声で言う。
「……それって」
「存在の書き換えだよ」
カイトは笑う。
「だからやるんだろ」
ユウリが言う。
「……ダメ」
強く。
初めて。
「それ、壊れる」
カイトを見る。
「カイトが」
その言葉に、一瞬だけ空気が揺れる。
だがカイトは止まらない。
「いいよ」
あっさりと。
ユウリの目が見開かれる。
「良くねえよ」
レンが言う。
「お前まで消えたら意味ねえだろ」
カイトは少しだけ笑う。
「消えねえよ」
軽く言う。
「たぶん」
「たぶん!?」とデイジー。
だが、その軽さの奥には覚悟がある。
カイトはノートを開く。
深く息を吸う。
そして、書く。
“均衡装置ユウリは、感情の流れそのものとして存在し続ける”
空間が、震える。
リアクターが、強く脈打つ。
ドクン!!
「まだだ」
カイトは止まらない。
“その存在は消えることなく、世界と共に循環する”
光が、溢れる。
ターミナルが全て開く。
暴走寸前。
デイジーが叫ぶ。
『負荷が!!』
エヴァが構える。
「来るぞ」
巨大な歪みが、最後に生まれる。
今までで最大。
世界そのものの歪み。
レンが叫ぶ。
「時間稼ぐ!!」
飛び込む。
ファリンも続く。
エヴァが援護。
カイトは、書き続ける。
止まらない。
止めない。
“感情は流れ、意味を持ち、世界を循環し続ける”
ユウリの体が、光る。
ヒビが、
砕ける。
最後の一つ。
音を立てて、消える。
完全に。
ユウリが、崩れ落ちる。
「……っ」
カイトが支える。
「ユウリ!」
光が、強くなる。
消えるのか。
残るのか。
誰にも分からない。
だが光が収まる。
静寂。
力が入らない。
視界が歪む。
デイジーの声。
『反動が!!』
『意識レベル低下!!』
カイトは、かすかに笑う。
「……大丈夫」
嘘だ。
でも、言う。
リアクターを見る。
完全に、安定している。
世界は、回っている。
正しく。




