第二十話:三人の罪
静かだった。
リアクターの鼓動は、安定している。
だが空気は、重い。
誰も、すぐに言葉を出せない。
カイトが、ゆっくりと立ち上がる。
「……一つ、分かった」
小さく言う。
全員が見る。
「ヒビは消せる」
ユウリの腕を見る。
確かに、一つだけ消えている。
「でも」
視線を上げる。
レンと、ファリンを見る。
「全部じゃない」
沈黙。
その意味を、全員が理解する。
「……残りは」
カイトが言う。
「お前らだろ」
空気が、張り詰める。
レンの眉が動く。
ファリンの視線がわずかに揺れる。
ユウリが小さく言う。
「……やめて」
だが、カイトは止まらない。
「逃げてるだけだろ」
強く言う。
「ずっと」
レンが睨む。
「……関係ねえだろ」
低く、押し殺した声。
カイトは即座に返す。
「ある」
「めちゃくちゃある」
ノートを叩く。
「これは全部、繋がってる」
リアクターを見る。
ユウリを見る。
「お前らの感情が、ユウリに残ってる」
ファリンが目を閉じる。
一瞬。
だが、逃げない。
「……そうだよ」
小さく言う。
「残ってる」
「全部」
レンが舌打ちする。
「……だったらどうすんだよ」
カイトが言う。
「向き合え」
一言。
重い。
「今ここで」
沈黙。
逃げ場はない。
ユウリが震える声で言う。
「……やめて」
「もういい」
「私が受けるから」
その言葉に、レンが反応する。
「ふざけんな」
即座に。
「それで終わる話じゃねえだろ」
ファリンも言う。
「……終わらせない」
小さく。
だが、はっきりと。
ユウリが目を見開く。
「……え?」
ファリンは一歩前に出る。
ユウリの前に。
「逃げてた」
静かに言う。
「ずっと」
レンも、ゆっくり前に出る。
「……俺もだ」
低く。
「見て見ぬふりしてた」
カイトは何も言わない。
ただ、見ている。
ファリンが続ける。
「事故の時」
空気が変わる。
「私は、判断した」
「ユウリを切り離すって」
カイトの目が変わる。
「……は?」
レンも顔を上げる。
「それ、どういう――」
ファリンは続ける。
「均衡装置にすることで、暴走を止める」
静かに。
冷酷な事実を。
「それが最適だった」
レンの拳が震える。
「……お前」
怒り。
抑えきれない。
「俺は反対した」
レンが言う。
「でも、止められなかった」
「力が足りなかった」
歯を食いしばる。
「だから、俺は――」
言葉が詰まる。
「……逃げた」
沈黙。
重い。
ユウリは、何も言えない。
ただ、二人を見ている。
ファリンが言う。
「全部、私のせい」
「私が決めた」
「私がやった」
レンが叫ぶ。
「違うだろ!!」
空気が震える。
「俺もいた!!」
「止められなかったのは俺だ!!」
「一人のせいにすんな!!」
感情がぶつかる。
初めて、ちゃんと。
ユウリの目に、涙が浮かぶ。
「……なんで」
小さく。
「なんで今言うの」
ファリンが答える。
「今じゃないと、もう言えないから」
レンも言う。
「……これ以上、背負わせたくねえ」
カイトが、静かにノートを開く。
今だ。
この瞬間。
逃げない感情。
ぶつかっている。
これなら、流れる。
ペンを走らせる。
“この感情は、選べなかった痛みである”
空気が震える。
ファリンの体が揺れる。
“守るために選んだ罪”
ファリンの目から、涙が落ちる。
“守れなかった後悔”
レンの拳がほどける。
“それでも、繋がっている想い”
ユウリのヒビが、光る。
強く。
三人の間に、光が流れる。
分断されていたものが、繋がる。
ユウリが、涙を流す。
「……バカ」
小さく笑う。
「最初から言えばよかったのに」
ファリンが崩れる。
その場にレンも、膝をつく。
カイトは、
最後に書く。
“この感情は、許され、次へと進む”
発動。
光が、三人を包む。
ユウリの腕。
ヒビが、消える。
大きく。
確かに。
完全ではない。
だが、半分以上が消える。
沈黙。
誰も動かない。
ただ、その変化を見ている。
カイトが息を吐く。
「……やっぱりな」
小さく言う。
「お前らの問題だった」
レンが苦笑する。
「……うるせえ」
ファリンも、小さく笑う。
ほんの少しだけ。
ユウリは、二人を見る。
「……ありがとう」
その一言で、すべてが報われる。
リアクターが、静かに回る。
今までで一番、自然に。
だが。
まだ、残っている。
ヒビ。
最後の、深いものが。
カイトの目が変わる。
「……あと一つ」
小さく言う。
物語は、
最終段階へ。




