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俺の書いたキャラが現れた。そいつを消さないと世界が終わるらしい。―グロキシニアの凱旋  作者: ひろほね
ターミナル

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第十九話:感情の起点

静かだった。


リアクターの鼓動だけが、響いている。


ドクン……ドクン……


カイトは、ノートを見ていた。


白いページ。


だが、これから書くのは――


“誰かの過去”。


「……どうやるんだよ」


小さく呟く。


デイジーが言う。


「起点に触れるには、共鳴が必要」


ユウリを見る。


「そのヒビが、入口になる」


ユウリが少しだけ頷く。


「……来る?」


カイトは一瞬だけ迷う。


怖い。


当たり前だ。


でも「行く」


即答する。


ペンを握る手が震えている。


それでも、止めない。


「……繋げる」


ノートに書く。


“この感情の起点へ接続する”


発動。


視界が歪む。


音が消える。


落ちる。深く。


どこまでも。


気づくと。


そこは、夕方だった。


柔らかい光。


どこか、懐かしい空気。


「……ここは」


カイトが周囲を見る。


遊園地。


子供の笑い声。


風船。


音楽。


そして家族。


三人。


父、母、小さな女の子。


「……アルト?」


思わず呟く。


違う。


もっと若い。


表情も、少し柔らかい。


隣にいる女性。


笑っている。


その手を引く、小さな少女。


「パパ、はやくー!」


無邪気な声。


カイトの胸が、ざわつく。


「……これが」


理解する。


これが、“起点”。


場面が変わる。


夜。


帰り道。


車の中。


後部座席で、少女が眠っている。


母親が、優しく撫でる。


「楽しかったね」


父――アルトが、少しだけ笑う。


「ああ」


短く。


だが、確かにそこにある感情。


温かい。


その瞬間。


空間が歪む。


「……っ!?」


カイトが息を飲む。


道路が、ねじれる。


空が、裂ける。


歪み。


突然何の前触れもなく。


車が、引きずり込まれる。


「なに……これ……!」


母親の声。


少女が目を覚ます。


「パパ……?」


アルトの目が見開かれる。


理解できない。


対応できない。


車は引き裂かれ、地面に落下した。


気づくとアルトは地面に倒れていた。


体が動かない。


必死に起き上がる。


車へ駆け寄り、ドアをこじ開ける。


さっきまであった幸せはもうなかった。


さっきまで笑っていた手は、冷たかった。


膝から崩れ落ちた。


ただ、物事が起きている。


歪みが、すべてを飲み込む。


音が消える。


光が歪む。


そして――


静寂。


カイトは、立ち尽くしていた。


何もできない。


ただ、見ているだけ。


「……なんだよ、これ」


声が震える。


怒りか、悲しみか、分からない。


その時、後ろから声。


「……見たか?」


振り向く。


そこに、アルトがいた。


だが、今のアルトじゃない。


“その時のアルト”。


表情は、完全に壊れている。


「……全部、消えた」


小さく言う。


感情が、抜け落ちている。


「理由もなく」


「意味もなく」


拳が震えている。


「だから決めた」


顔を上げる。


その目には、もう別のものが宿っている。


「感情は、排除する」


カイトが叫ぶ。


「違うだろ!!」


アルトは動じない。


「感情があるから壊れる」


「なら、最初からなければいい」


冷たい結論。


だが、その奥には。


どうしようもない絶望がある。


カイトは一歩前に出る。


「それじゃ――」


言葉を選ぶ。


「全部、なかったことになるだろ」


アルトの目が揺れる。


ほんの、一瞬だけ。


カイトは続ける。


「楽しかっただろ」


「笑ってただろ」


「それも消すのかよ」


長い沈黙。


アルトは何も言わない。


だが目を逸らす。


それが、答えだった。


カイトはノートを見る。


ここだ。


この感情。


閉じている。


止まっている。


「……繋げる」


ペンを走らせる。


“この感情は、失われたものへの愛である”


空気が揺れる。


アルトの表情が、わずかに歪む。


“終われなかった想いは、ここで言葉になる”


少女の声が、響く。


「パパ……ありがとう」


幻のように。


だが、確かに。


アルトの目が見開かれる。


「……違う」


小さく言う。


だが、止まらない。


“別れは終わりではなく、繋がりとして残る”


光が、広がる。


閉じていた感情が動き出す。


流れる。


アルトの頬を、涙が伝う。


初めて。


「……ああ……」


声が震える。


「そうか……」


崩れる。


その場に。


カイトは立っている。


ただ、見ている。


干渉はした。


でも、押し付けてはいない。


“意味”を渡しただけ。


アルトが小さく言う。


「……遅いな」


苦笑。


だが、その表情は、少しだけ人間に戻っていた。


光が、弾ける。


世界が、戻る。


カイトは、現実に戻る。


膝をつく。


「……っは……!」


息が荒い。


ユウリが支える。


「大丈夫?」


カイトは顔を上げる。


ユウリの腕を見る。


ヒビ。


一つ、消えている。


確かに。


カイトが笑う。


「……いける」


小さく。


確信を持って。

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