第十五話:選択
鼓動が、加速する。
ドクン、ドクン、ドクン――
リアクター中枢。
巨大な歪みが、形を成していく。
人でも、獣でもない。
ただ、“感情の塊”。
怒り。
悲しみ。
恐怖。
全部が、混ざっている。
「……来るぞ!」
レンが叫ぶと同時に踏み込む。
レゾナンスブレードが閃く。
だが、弾かれる。
「チッ……硬え!」
エヴァが即座に射撃。
レゾナンスシューター。
連続射撃。
だが、効きが浅い。
『密度が高すぎる!』
デイジーの声。
『このままじゃ削りきれない!』
ファリンが前に出る。
圧が変わる。
「なら、核を狙う」
短く言う。
だが歪みは変形する。
攻撃を読んでいる。
カイトは、動けない。
ノートを開いたまま、固まっている。
選択。
壊すのか。
止めるのか。
流すのか。
その時。
「……カイト」
デイジーの声。
「まだ手がある」
カイトが振り向く。
「……何だよ」
デイジーが指を指す。
中枢の周囲。
ドーナッツのようなリング状の装置。
淡く光っている。
「ターミナル」
短く言う。
カイトが眉をひそめる。
「……何だそれ」
デイジーが早口で説明する。
「正式名称、コア・シンクロニクス・ターミナル」
「感情を流すための“出口”」
カイトの目が変わる。
「出口……?」
「そう」
デイジーは続ける。
「リアクターは“貯める”装置。でもそれだけじゃ回らない」
「本来は――」
指を立てる。
「ターミナルで外に流して、世界と同期させる」
空間を指す。
「感情を循環させる仕組み」
カイトの中で、全てが繋がる。
「……じゃあ今は?」
デイジーは歯を食いしばる。
「止められてる、ほぼ全部」
リアクターを見る。
溜まり続ける感情。
出口がない。
だから歪む。
「……ふざけてる」
カイトが呟く。
アルトの声が入る。
『非効率な流出は制限している』
冷静に。
『管理下に置いた方が安定する』
カイトが叫ぶ。
「詰まってんだろうが!!」
アルトは淡々と返す。
『問題は発生していない』
その言葉に、ユウリが震える。
「……嘘」
小さく言う。
腕のヒビが、強く光る。
「全部、来てる。流れてない」
その声は、限界だった。
カイトが決める。
「……開ける」
全員が見る。
「ターミナルを開ける」
デイジーが即座に反応する。
「できる」
「でも――」
一瞬の間。
「一気に流れる」
「制御しないと、暴発する」
レンが叫ぶ。
「だったらどうすんだ!」
カイトはノートを見る。
白いページ。
まだ、何も決まっていない。
「……書く」
小さく言う。
「流れを指定する」
デイジーの目が見開く。
「……できるの?」
カイトは少しだけ笑う。
「やるしかねえだろ」
ペンを握る。
震えは、もうない。
エヴァが言う。
「作戦を整理する」
全員が意識を向ける。
「ターミナルを開放。同時に、流れを制御」
「前衛は時間を稼ぐ」
レンが頷く。
「任せろ」
ファリンも静かに構える。
「外さない」
ユウリがカイトを見る。
不安と、信頼。
混ざっている。
「……いける?」
カイトは一瞬だけ黙る。
そして、言う。
「分かんねえ」
正直に。
「でも」
ノートを開く。
「これしかねえ」
その時、歪みが動く。
巨大な腕が振り下ろされる。
レンが受ける。
「ぐっ……!」
押される。
「早くしろ!!」
叫び。
カイトは書く。
“ターミナルは開放され、感情は均等に分散し流れる”
発動。
空間が、震える。
ターミナルが、一斉に光る。
ドォン!!
音が響く。
リアクターから、光が溢れる。
流れる。
溜まっていた感情が、一気に。
歪みが、崩れる。
形を保てない。
レンが踏み込む。
「今だ!」
ファリンも動く。
完璧な連携。
核を捉える。
エヴァが撃つ。
正確に内部を貫く。
崩壊。
消滅。
静寂。
だがカイトが崩れる。
「……っ」
視界が、歪む。
世界が遠い。
デイジーの声。
『負荷限界!!』
『ズレが深刻!!』
ユウリが支える。
「カイト!」
カイトはかすかに笑う。
「……流れたな」
小さく言う。
リアクターを見る。
さっきまでの重さが、消えている。
確かに、回っている。
だが。
ユウリの腕。
ヒビは止まっていない。
むしろ、さらに広がっている。
カイトの目が見開く。
「……なんでだよ」
デイジーが呟く。
「……分散しただけじゃ、足りない」
重い事実。
エヴァが言う。
「根本が残っている」
アルトの声が再び響く。
『無駄な足掻きだ』
『いずれ崩壊する』
カイトはノートを強く握る。
「……まだ終わってねえ」
小さく言う。
だが、確信はある。
これは、正解の一部だ。
でも、まだ足りない。




