第十三話:歪みの源
中枢ラインへ続く通路は、異様だった。
壁が、脈打っている。
まるで生き物のように。
「……近いな」
レンが低く言う。
ブレードを構えたまま、一歩ずつ進む。
エヴァは後方で銃を構えている。
カイトはノートを握る。
ユウリは、何も言わない。
ただ、腕のヒビを押さえている。
その時。
「――止まって」
声。
全員の動きが止まる。
通路の奥。
一人の女が立っていた。
長い金髪が揺れる。
黒の装備。
そこに走る赤いライン。
そして、左胸に輝く、金色のバッジ。
ただ立っているだけで、
空気が張り詰める。
「……ここから先は立入禁止」
静かに言う。
だが、その声には圧がある。
カイトは息を飲む。
“強い”
レンの表情が、固まる。
「……ファリン」
その名前が落ちた瞬間。
空気が変わる。
ユウリの目が見開かれる。
「……ファリン?」
小さく、信じられないように。
女――ファリンは、
ゆっくりと視線を向ける。
ユウリを見る。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけ、感情が揺れる。
だが、すぐに消える。
「……遅かったね」
冷たく言う。
その言葉に、ユウリが一歩前に出る。
「会いに来た」
まっすぐに。
「話がある」
ファリンは首を横に振る。
「ないよ」
即答。
「もう全部、終わってる」
レンが口を開く。
「ふざけんな」
低く、抑えた声。
「終わってねえだろ」
ファリンの視線が、レンに向く。
その瞬間、空気が凍る。
「……まだ言うの?」
静かに言う。
だが、その奥にあるものは重い。
「守れなかったくせに」
レンの目が揺れる。
カイトが息を飲む。
ユウリが小さく言う。
「……やめて」
だが、止まらない。
レンが一歩前に出る。
「違うだろ」
「俺たちは――」
ファリンが遮る。
「違わない」
はっきりと。
「結果が全て」
その言葉。
どこかで聞いた。
エヴァと同じ。
だが、もっと個人的な重さがある。
「ユウリは壊れた」
「均衡装置になった」
「それが全部」
レンが歯を食いしばる。
「……だからって」
ファリンは一歩踏み出す。
圧が増す。
「だから、止める」
短く言う。
「これ以上、壊させない」
ユウリが言う。
「私は――」
だが、ファリンは見ない。
視線を逸らす。
「見てられない」
小さく言う。
その一言に、本音が滲む。
カイトが口を開く。
「……あんた」
ファリンが見る。
鋭い視線。
「ユウリを止める気か?」
ファリンは迷わない。
「そう」
即答。
「それが最適だから」
またその言葉。
だが、カイトは違和感を感じる。
「……違うだろ」
小さく言う。
ファリンの眉がわずかに動く。
「最適とかじゃなくて、怖いんだろ」
沈黙。
空気が、張り詰める。
ユウリとレンが目を見開く。
ファリンは、何も言わない。
数秒。
そして。
「……そうだよ」
小さく言う。
「これ以上、壊れるのが怖い。見てるのが、怖い」
その言葉は、あまりにも人間的だった。
だが、すぐに顔を上げる。
「だから止める」
「ここで終わらせる」
完全な決意。
レンがブレードを構える。
「……それが答えかよ」
ファリンも構える。
武器は出さない。
だが、空気が変わる。
戦闘の気配。
エヴァが一歩前に出る。
「任務を優先する」
冷静に言う。
「障害は排除」
カイトが叫ぶ。
「待て!!」
全員の動きが止まる。
カイトは前に出る。
「戦うな。今それやってる場合じゃねえだろ」
ファリンが言う。
「あなたに決める権利はない」
カイトはノートを叩く。
「ある」
短く言う。
「これは俺の物語だ」
空気が変わる。
ファリンの目が細くなる。
「……創造主、か」
低く言う。
カイトは構わず続ける。
「終わらせねえ。どっちも」
ユウリを見る。
レンを見る。
ファリンを見る。
「ここで壊すな」
長い沈黙。
その時、奥から音がする。
ゴォン、と重い振動。
全員の視線が向く。
中枢。
歪みが、“脈打っている”。
巨大な存在が、そこにある。
デイジーの声。
『……見つけた』
『あれが、源』
空気が変わる。
戦っている場合じゃない。
全員が理解する。
ファリンが一瞬だけ目を閉じる。
そして、開く。
「……一時休戦」
短く言う。
レンが舌打ちする。
「最初からそうしろよ」
だが、武器は下げる。
ユウリは静かに頷く。
カイトはノートを握る。
強く。
ついに、核心に辿り着いた。




