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俺の書いたキャラが現れた。そいつを消さないと世界が終わるらしい。―グロキシニアの凱旋  作者: ひろほね
第二章:均衡装置

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第十一話:流れない感情

静まり返っていた。


本部の一角。


普段は人の出入りが多い通路も、


今はやけに静かだ。


「……さっきの、どう思う」


カイトが呟く。


隣にはデイジー。


端末をいじりながら答える。


「エヴァの話?」


「それもあるけど」


少し間を置く。


「感情、消すってやつ」


デイジーの指が止まる。


ほんの一瞬だけ。


「……ああ」


小さく息を吐く。


「最適化思想だね」


カイトが眉をひそめる。


「最適化?」


「無駄をなくす、ブレを消す。感情は“誤差”だから排除する」


淡々と説明する。


「理屈としては分かるよ。でも――」


言葉を切る。


カイトが続きを待つ。


デイジーは画面を切り替える。


リアクターの波形。


揺れている。


常に。


「これが前提」


指でなぞる。


「揺れてるから、回る。止まったら終わり」


カイトの脳裏に浮かぶ。


“流れてない感情は、歪む”


「……じゃあさ」


カイトが言う。


「詰まってるのが問題なら、流せばいいんじゃねえの」


デイジーが少しだけ笑う。


「それができれば苦労しない」


即答。


「感情ってね」


少しだけ真面目な顔になる。


「勝手に流れないの。溜まる、偏る、歪む。」


一つずつ言う。


「だからリアクターで無理やり回してる」


カイトが腕を組む。


「でも今は回ってない」


「うん」


デイジーは頷く。


「どっかで止めてる」


沈黙。


カイトの中で、


点が繋がり始める。


「……意図的にか?」


デイジーは答えない。


ただ、視線を少し逸らす。


それが答えだった。


同時刻。


別の通路。


エヴァが一人で歩いている。


無音。


規則的な足音だけが響く。


その耳に、通信が入る。


『進行状況は』


低い声。


感情のない、冷たい響き。


エヴァは立ち止まらない。


「中枢ラインに異常集中」


「原因は未確定」


短く報告する。


数秒の沈黙。


『……遅いな』


エヴァの目がわずかに細くなる。


「排除優先で動いている」


『排除では足りない』


その言葉に、空気が変わる。


『最適化しろ』


エヴァは無言になる。


わずかに、間が空く。


『感情はノイズだ』


『流れを乱す原因だ』


『排除すれば、すべては安定する』


静かに。


だが、確信を持った声。


エヴァが小さく言う。


「……それでは回らない」


一瞬の沈黙。


『例外は不要だ』


冷たい返答。


『結果だけを見ろ』


通信が切れる。


静寂。


エヴァはその場に立ち尽くす。


ほんのわずかに、拳が握られている。


だが、すぐに力を抜く。


「……命令は命令か」


小さく呟く。


再び歩き出す。


本部。


カイトはノートを見ていた。


白いページ。


まだ、何も書いていない。


「……流す、か」


小さく呟く。


“止める”じゃない。


“流す”。


その時。


ユウリが入ってくる。


いつものように、静かに。


カイトが顔を上げる。


「大丈夫か」


ユウリは頷く。


だが。


腕のヒビは、確実に増えている。


隠しきれない。


カイトが目を逸らす。


「……なあ」


ユウリを見る。


「お前ってさ」


少し迷う。


でも、聞く。


「全部、流してんのか?」


ユウリは少しだけ考える。


そして、頷く。


「来たものは、全部」


カイトの表情が変わる。


「じゃあさ」


一歩近づく。


「流しきれなかったら?」


ユウリは答えない。


代わりに、腕を見る。


ヒビ。


それが答えだった。


カイトの中で、何かが固まる。


「……じゃあ」


ノートを開く。


ゆっくりと。


「分ければいい」


ユウリが顔を上げる。


「は?」


カイトはペンを持つ。


まだ書かない。


でも、はっきりと言う。


「全部お前が受ける必要ねえ。流れを分散する。」


「別の出口を作る。」


デイジーの言葉。


リアクター、循環、全部繋がる。


ユウリが小さく言う。


「そんなこと、できるの?」


カイトは少しだけ笑う。


「分かんねえ」


正直に言う。


「でも」


ノートを見る。


「できるように書く」


その言葉に、空気が変わる。


“止める力”から、“流す力”へ。


物語の使い方が、変わり始める。


遠くで、リアクターの脈動がわずかに乱れる。


まるで、何かを予感しているように。

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