表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/22

追放されてもう遅い!を叫びたい冒険者の場合

家に居てもつまんないし、学校も怠いんで何の気無しにギルドに足を向けてみた。

だからといって面白い依頼がそうある訳でなし、掲示板の畑を荒らすゴブリン駆除や大量発生した

魔宵蛾の駆除焼却、魔女ギルドから常時依頼の薬草採集位しか残っていない。

まぁ冒険者達が出払ってる午後だからこんなモンだろう、別に仕事する気分でも無いので

掲示板をスルーしカウンターの奥にある喫茶スペースに向かうと、サービスで置かれている

お茶コーナーで昼頃に煮立てられた薬茶を備え付けの木のカップに注いで端の席に。

カウンターに面白いヤツでも来ないかなぁなんて眺めていれば、入り口から揉めてるような一団。


「パーティは解散だ、アンタ以外は納得してる」


「そうしましょ、申し訳無いけど私も貴方とはやっていけない」


「俺も解散には賛成だ」


ヒョロッと細長い中年男性を囲むようにしてパーティメンバーが口々にパーティ解散を説得してる感じ。

解散を反対してるのがヒョロ男だけ、というかヒョロ男が原因なのかヒョロ男さえいなければって

言葉を柔らかくしてはいるが結構な言われようだぞw


「どうしてだよ!?俺が居たからパーティランクもC +だっただろ!

俺を利用して美味しい依頼ばかり受けれたのを忘れたのか?俺は『神装爆炎』スキル持ちだ

スキル持ちは稀少だし、俺がいればどんな強敵も『爆龍波』で一撃じゃないか!」


「いえ、そういう事では無くて元々このパーティは…」


宥めながら説明に回ろうとした回復役らしきマトラ神教の信徒らしき法衣を着た姉ちゃんが

ヒョロ男に突き飛ばされ、盾役の大男に受け止められ庇われた。


「そういう事か!わかったよ、大人しく出てってやる!」


リーダーらしき双剣を腰にした兄ちゃんに肩パン一発、パーティの装備品を詰めたらしき

マジックバックを奪い取り、中から入り用の物を漁ってからバックをリーダーの顔目掛けて投げると

ヒョロ男は振り向く事無くパーティ用カウンターに向かって行くと、襟に付けていた

パーティメンバーを証明するバッヂを外してカウンターの受付嬢に投げ付け

肩を怒らせギルドを出て行ったんだけど何だったんだアレ?


「脱退処理は如何しましょう」


受付嬢のリーアさんも困り顔で残ったメンバーに声を掛けている。

盾役の大男が謝罪するように頭を下げてから、パーティメンバー全員がさっきのヒョロ男と同じく

襟に付けていたバッヂを外すと男とは違い、カウンターに丁寧に置いてパーティ解散を申請した。


「解散、ですか」


さっきの高ランクメンバーの離脱でパーティ崩壊か!と慌てるリーアさんに

盾役の大男は首を横に振り、そうでは無く元々パーティは解散する予定だったのだと言った。


「元々『スナネコの尻尾』は期間限定のパーティだっただけです。

私がリーダーを引き受けたのもここからずっと東の小さな村、サフリカ村のギルドマスター就任に向けた

修行のようなものでしたし、メンバーもそれぞれ理由があって解散する事には賛成していました」


全員が頷く、盾役の大男サシカは大楯を左腕一本で構え保持し敵の攻撃を受け止めるスタイルの

戦闘方を取っていたそうで、長い冒険者生活の間に何度も回復再生魔法とポーションの使い過ぎで

左腕だけ老化し、骨も脆くなり細い老人の枯れ木のような腕になってしまって

これ以上の盾役は無理と引退を決意、これからは奥さんと防具屋を始めるとかで顧客開拓と

コネクション作りの為に最後だからと期間限定パーティに参加。


マトラ神教のシスターのハリは幼い頃から教会で修行していて、その修行の一環として冒険者として

一定期間、世間を学びながら法力を磨く目的の為に参加、今後は俗世と縁を切って教会に籠る予定だ。


弓役の長いマントを纏った小柄な女の子ラナンは、結婚資金が貯まったので結婚の約束をした

村長の一人息子と式を挙げる為に帰りたいとの事、本当なら2年前に一緒になっていた筈だが

村から大きな街に続く一本しかない街道が土砂崩落、その復旧に村長家も村長に貯えを貸した村人も

貯えを全て吐き出してしまい、リーアの家も結婚式どころでは無くなっていたのだが

将来の村と夫の為と、リーアは冒険者として出稼ぎに来ていただけで

其々が納得した上で最長で2年と期限を切ってのパーティ結成だったのだ。


パーティ統率経験値や所属していた履歴作り、コネ作りに貯蓄といった現実を見たパーティは

安全策第一、確実に稼げる地味な依頼を堅実に熟していたのでそれなりにギルドから信頼されて

ランクを上げつつあった、それこそ実力者揃いの筋骨隆々としたマッチョメンの群れが

パワー重視の大剣やらハンマーでパワーゴリ押しで魔獣や亜龍を血祭りヒャッハー☆してる

イケイケなパーティより、よっぽどギルド貢献ポイントを獲得してる。

田舎から出て来たばかりの、都合の良い夢と希望と野心溢れた新人冒険者特有の

それこそマッチョメンヒャッハー☆パーティの討伐無敵モテモテ♡ハーレム生活なんて夢のまた夢。

そもそもそんなに討伐依頼は多くない、異世界でも生物多様性が尊重される時代なのである。


「では結成当初から短期パーティとしての契約だったと…そうですね、付帯記載がありました」


端末を操りパーティ『スナネコの尻尾』の結成届けを確認するリーアは安心してようだ。


「条件がラナンさんが金250万シルトを貯めるまで、又は

最長2年間の期間限定パーティとありました。ラナンさんおめでとうございます」


どうやらラナンって娘の貯蓄目標金額達成で円満解散のようだけど、何であのヒョロはごねてたんだ?

見るともなしに覗いちゃうwと、あのヒョロ…クズじゃねぇか(爆笑)

限定パーティとは知らずヒョロ…ゼナン君は、シスターなんて回復の本職がいて後衛としては理想的な

弓役がいるけど盾役は引退間近のポンコツだし前衛が結構なオッサン、しかもシスターと弓役は美人!

こりゃあ若い男メンバーが必要だろうと思い込んで、付き纏い拝み倒してパーティ加入したんだけど

その際に『スナネコの尻尾』は期間限定パーティだと散々説明したけど聞いちゃいない。

しかし何だろね?難聴系ヒロインといい熱血主人公といい、何で他人の話を聞かないんだろ?

妄想混じりの思い込み通りに物事が進めばメデタシメデタシで終わるけど

思い込みと現実は大分乖離してね?絶対アテが外れて悲惨な目に遭わね?ちゃんと他人の話を聞こ?

通知表に担任からもっと人の話を聞け的な事や協調性を養おって書かれるタイプだな、ありゃ。


美人とポンコツとジジィしか居ないパーティで『神装爆炎』とかいう勝手に名付けた

厨二臭い爆破一点突破スキル持ちの若い男って事で活躍出来ると思っただろうし、美人2人に

自分を取り合うヒロインの座を巡っての諍いというハーレムイベントで困ったナァ〜僕チャンも

下の聖剣(エクスカリバー)wも一つだけだぜ☆なお約束のバカ展開を狙ってたんだろね〜

でも美人ちゃんの一人は予約済み、もう一人は現役聖職者。

ポンコツとジジィも経験豊富なベテランで戦闘だけで無く、旅の心得や野営のコツ

採集や魔獣対策やギルドでの暗黙の了解なんて冒険者の嗜み的なものは全てマスターしてて

バカの一つ覚えで爆破ばっかしてるお上りさんの出る幕は無し。

寧ろその自慢の『爆龍波』とやらで依頼の品を台無しにしたり、害獣討伐は出来てもそれ以上に

田畑に被害を出したりと賠償やら何やらでマイナスでしか無かったお荷物だったようだけど。


「じゃあ解散という事で手続きさせて頂きますね」


リーアさんが端末を操作し書類を用意してリーダーに差し出すが、そこに待ったを掛けさせて貰うぜ。

だってwあのヒョロ、俺が何かしなくても勝手に自滅してくんだもんwww


「ちょっと待ってくれ、その前にあの男の脱退処理をしてからにした方が安全じゃないか」


「何だアンタ」


無関係な俺の口出しにリーダーが眉を顰めて俺に向き直る。


「初めまして、直接アンタ達には関わりが無い冒険者の端くれだがアンタ達が

あの『スナネコの尻尾』なら少なくない恩があるんでね、一応これでも俺は学園からの

実習組なもんで、ダンジョン探索や魔獣学の素体提供で世話になってるから

これで解散とはいえ、あんなのと最後までパーティだったなんて後々障りがあるんじゃないかって

心配なのともう一つ、これで最後なら一件、依頼を頼みたいんだ」


リーダーが俺が世話になったってこじつけてまであのヒョロのやらかしに後々自分達の評判を

心配してるからとの助言と、依頼を頼みたいとの台詞に話を聞く気になったらしい。


「俺達に依頼だと?」


「あぁ、そこの弓役の姉さんに祝いとしてクイーンアラクネの生地を届けて欲しい。

運搬と護衛で彼女の故郷まで、申し訳ないけど俺はまだ学生なもんで依頼料は一人こん位で」


指2本を立ててギルドカードをリーアさんに示して、ギルドの貸倉庫に死蔵してた

アラクネ布を出して貰うようお願い、ギルドではドロップ品等の買取の他に保管もしてくれてて

月極めで貸ロッカー業もしているので値上がりするまで寝かせとく冒険者も多い。


「お、おい…いいのか?」


「詳しい経緯は知らんけど、あのヤローが彼女に乱暴してパーティの財産を掠め盗って逃げんじゃん」


「お預かりしていたクイーンアラクネ生地の受け出しと『スナネコの尻尾』に対しての指名依頼に

一人20万シルト、合計で100万シルトでよろしいですか?」


リーアさんが俺のした依頼がご祝儀依頼と解ってニッコリと俺のギルドカードを端末に読み込ませて

依頼内容を確認してくるので了承、ちゃんと単位も間違いなく理解してくれたみたいだしな。


「うん、それでお願いします」


それに驚いたらいしのがリーダー、両肩を掴まれて正気か!?と依頼内容を確かめられた。


「だってあのヤローが持ち逃げしなきゃそれなりに皆んなもっと貰って帰れたんだろうし

俺からギルドで世話になったパーティのメンバーにお祝い位したいと思ってさ、受けてくれるか?」


学園に通う学生って明かしてあるからそれなりのボンボンだってのは理解してくれたみたいだし

あのヒョロ、それなりに値の張る道具やポーションばっかり選んでパクッてたしな。


「ありがとう!ありがたく受けさせて貰う」


リーダーが涙を滲ませて頭を下げてくる後ろからドヤドヤと帰還してきた人の声。


「ちょっと待ってくれ!その依頼、追加で頼む!」

「そうだ!そこのガキだけに良いカッコはさせねぇぞ!」


どうやら途中で俺等のやり取りを聞いてた帰還したギルドメンバー達が待ったを掛けて追加依頼を掛ける。

それだけ『スナネコの尻尾』はギルドメンバー達から信頼された良いパーティだったんだろな、

依頼料は追加なので安めだが、次々とギルドメンバーに話が回ってチリも積もればで

一人が受け取れる金額もかなりの額になり、ラナンって娘には祝いと称して様々な布や生活用品が

ハリってシスターには喜捨と称した金品にサシカには防具屋の開店祝いとして様々な素材、

リーダーにはギルドマスター就任祝いの酒やギルドにとポーションや素材が贈られ、その運搬と

花嫁のラナンを無事に故郷に送れとギルド横の定食屋で臨時の解散結婚就任開店パーティーが開かれ、

一名を除いた新生『スナネコの尻尾』は最後の依頼を受けて旅立って行った。


これでメデタシメデタシ☆本当に良い事したよなぁ〜お別れパーティーは楽しかったし。



それから半年後、あのヒョロことゼナン君はというと。


あのナントカ…厨二爆破スキルがありゃ次のパーティ加入も楽勝と思ってたんだろけど

そう世間は甘くも単純に出来ても無かったんだよね〜

まず、『スナネコの尻尾』解散直前にパーティ共有の道具類をパク逃げしたって噂が街のギルドから

地方のギルドへと伝わってて、手癖の悪いメンバーはいらないってお断りの連続らしい。

サフリカ村ギルドのマスターも噂を肯定してるから確かな情報としてゼナンはヤバいと認知されてる。

噂を知ってゼナン君は、教会に駆け込んで名前の変更を申請したけど却下。

不都合があったり結婚や職業上の都合で通名を付けたり名前を変えるのは教会行って認めてもらってから

ギルドカードを書き換えるって事をしてるけど、過去の所業を隠す為なんて絶対無理な理由だし

シスターのハリが噂を肯定しててそもそも門前払い。

ならばと冒険者を廃業して何処かの村に所属して帰農し村人として再出発しようと方向転換したが

なるべくウチのギルドから遠い村を目指して行ってみたが、運がよっぽどアレなのかw

偶然リーアの故郷、代替わりしたての村長がリーアの旦那って無理ゲー(笑)

結婚を機に代替わりした村長は、村と自分の為に冒険者稼業に精を出して稼いで帰って来てくれた

恋女房に付き纏うクズと早合点、まぁ嫁からもセクハラされたと聞いてたから強ち間違いじゃ無いなw

話も聞かずに叩き出した後に山へ向かう冒険者一行にゼナンの噂を聞いて、

手癖の悪い奴を村の仲間に迎え入れなくて良かったとそれはそれで胸を撫で下ろしたらしい。


結局俺は何にもしてない内にゼナン君は盗賊に身を持ち崩し、偶然襲ったどっかのギルドの

高位ランカー一行に返り討ちに合って首と胴が泣き別れたっきり、

もう噂すら誰の口に登る事無く忘れられてったみたいw

この話に出てきた大楯のサシカは拙著『転生公爵家令嬢の意地』の

クラウド君遠いご先祖って裏設定があったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ