今日からゲームが仕事だ。
コンビニを辞めてから、何日かたった。
俺は何をしているのかというと。
「……よし、あと一周!」
ゲームをしている。
毎日、ゲームをしている。
……。
まあ、別に一日中ずっとやっているわけじゃない。
ご飯も食べるし、風呂にも入る。
眠くなったら寝る。
ただ、仕事には行っていない。
辞めたんだから、当然だけど。
「……ふふ」
それにしても、自由っていいなあ。
何時に起きてもいい。
夜中までゲームをしていてもいい。
出勤時間を気にする必要もない。
ああ、久しぶりだなあ。
この感じ。
……。
…………。
まあ、百万円は貯まらないけど。
「……うーん」
そうなんだよなあ。
百万円。
あれがあるんだよなあ。
でも、今は仕方ない。
コンビニではちゃんと働いた。
レジも覚えたし、掃除もできるようになった。
それなりに頑張ったと思う。
少しくらい休んでもいいだろう。
「……うん」
次の仕事は、そのうち探せばいい。
……。
…………。
それより、今はちょっと面倒なことがある。
あのコンビニだ。
家から一番近いコンビニ。
元々、俺はあの店をよく利用していた。
飲み物を買ったり、お弁当を買ったり。
ちょっとした買い物なら、いつもあそこだった。
何しろ近い。
歩いてすぐだ。
それが気に入って、バイト先にも選んだわけだし。
でも。
「……行きづらいなあ」
今は、ちょっと行きたくない。
だって、あんな辞め方をしたんだぞ。
お客さんに怒鳴られて、店長に呼ばれて。
その場で突然、
『辞めます』
なんて言ってしまった。
残っていたシフトも、もう出られないと伝えてある。
店長は調整してくれると言っていたから、別に無断欠勤しているわけじゃない。
ちゃんと話はついている。
……。
…………。
でもなあ。
もし森田店長がレジにいたら?
「……こんにちは!」
って普通に挨拶すればいいのか?
それとも、
「この前はすいませんでした!」
って、もう一度謝ったほうがいいのか?
……。
いや、でも買い物に来ただけだぞ。
わざわざ謝るのも変じゃないか?
「……うーん」
柴田さんがいたら、もっと面倒だ。
『あれ? もう辞めたの?』
なんて聞かれたら、何て答えよう。
『はい、辞めました!』
……。
…………。
いや、そんなことは知ってるか。
店長から聞いてるだろうし。
「……あー、めんどくせえ」
考えるだけで面倒になってきた。
というわけで、最近は少し離れた別のコンビニで買い物をしている。
歩く距離は増えたけど、そっちのほうが気楽だ。
店員さんも知らない人ばかりだし。
普通に商品を選んで、普通にお金を払って帰る。
何も考えなくていい。
「……ふぅ」
やっぱり、知らない人の店っていいなあ。
……。
…………。
いや、何を言ってるんだ、俺は。
家から一番近いコンビニに行けなくなるなんて。
「……めんどくさいことになったなあ」
……。
あっ。
そういえば。
「……制服」
まだ返してない。
「…………」
……。
…………。
「あー……」
あれ、どうしよう。
店長にも返してねって言われてるし。
いつまでも家に置いておくわけにはいかない。
でも、返しに行くとなると、結局あの店に行かなきゃいけないんだよな。
「……郵送するか?」
そうだ。
郵送すればいいんじゃないか。
届けばいいんだろうし。
……。
…………。
でも、制服って洗ってから返すんだよな?
普通に洗濯すればいいのか?
クリーニングに出したほうがいいのか?
「……うーん」
クリーニングだと、お金がかかるなあ。
郵送だって送料がかかる。
……。
…………。
「……店に持っていけばタダなんだよな」
そうなんだよ。
歩いてすぐなんだから。
……。
…………。
でもなあ。
「……まあ、あとで考えるか」
制服はちゃんと袋に入れてある。
なくしたわけじゃない。
いつでも返せる状態にはしてある。
「……うん」
大丈夫だろう。
*
それにしても。
最近、ゲームが本当に楽しい。
あの年間パスの自動更新がなかったら、こんなに遊んでいなかったかもしれない。
一万二千八百円。
引き落とされたときは本当に腹が立ったけど、今は毎日のようにログインしている。
「……まあ、結果的によかったのかもな」
それに、最近は一緒に遊ぶ仲間もできた。
『こんばんは!』
『今日もよろしくお願いします!』
『よろしくです!』
画面に流れるメッセージを見るだけで、少し嬉しくなる。
「……ふふ」
いいなあ、こういうの。
前は野良のパーティーばかりだった。
知らない人たちと組んで、ダンジョンをクリアしたら解散。
それで十分だと思っていた。
でも今は、俺がログインすると声をかけてくれる人がいる。
『今日、周回行きませんか?』
『あの装備、まだ欲しいんですよね』
『じゃあ行きましょう!』
「……おお、いいねえ!」
俺はすぐに返事をする。
『行きましょう!』
やっぱり、一緒に遊ぶ人がいると楽しいなあ。
それに、ゲームの中では俺は結構強い。
装備も揃っている。
難しいダンジョンだってクリアできる。
最近は、ほかのプレイヤーに攻略方法を聞かれることもある。
「……ふふ」
俺も頼られるようになったんだなあ。
なんか、いい気分だ。
現実では、もう無職だけど。
……。
…………。
まあ、別にいいか。
ゲームの中では忙しいし。
今日は素材集め。
明日は装備の強化。
週末には、またみんなでダンジョンマラソンだ。
「……忙しいなあ」
やることがいっぱいだ。
「……ふふ」
……。
…………。
「……いっそ、こっちが現実だったらなあ」
俺は画面を見つめた。
こっちの世界だったら、毎日楽しいのに。
モンスターを倒して。
装備を集めて。
お金を稼いで。
仲間と一緒に冒険する。
頑張れば頑張っただけ、キャラクターが強くなる。
強くなれば、もっと難しいダンジョンに行ける。
「……最高じゃん」
現実もこんな感じだったらいいのになあ。
……。
…………。
「あっ」
そうだ。
俺には、戻りたい現実があるんだった。
大学時代。
あの頃に戻るんだった。
「……そうだったなあ」
百万円。
あの老人に言われたんだ。
百万円を貯めろって。
……。
…………。
でもさあ。
冷静に考えてみると。
「……百万円貯めたら、本当に戻れるのか?」
そんなこと、あるのか?
普通に考えたら、過去に戻るなんて無理だろ。
時間を巻き戻すんだぞ?
そんなことができるなら、世の中もっと大騒ぎになってるはずだ。
「……うーん」
そもそも、あの老人は何者なんだ?
勝手に部屋に入ってきて。
百万円を貯めろなんて言って。
いきなり消えてしまった。
「…………」
……。
…………。
「……夢だったのかなあ」
そうだ。
夢だったのかもしれない。
あの日は、大学時代の夢を見ていたんだ。
その続きで、あの変な老人まで出てきたんじゃないか?
「……そうだよなあ」
百万円貯めたら過去に戻れるなんて。
そんな都合のいい話、あるわけないよな。
……。
…………。
いや。
でも。
「……あれ、夢じゃなかったよな」
確かに起きていた。
部屋にいたんだ。
老人が。
ちゃんと声も聞こえた。
……いや、ちょっと待て。
夢の中だって、声くらい聞こえるよな。
「…………」
……。
…………。
「……なんやねん、いったい」
考えても分からん。
本当に何だったんだろう、あれは。
……。
まあ、いいか。
どっちにしても、百万円があれば困ることはないだろう。
過去に戻れるなら、それでいい。
戻れなかったとしても、百万円は残るわけだし。
「……うん」
貯めて損はない。
……。
…………。
問題は。
「……どうやって貯めるかだよなあ」
今、無職だし。
「……あー、きっついなあ」
百万円。
遠いなあ。
*
コンビニを辞めてから、もう一つ困ったことがある。
食費だ。
「……高いなあ」
俺は買ってきたお弁当を見つめた。
五百九十八円。
これに飲み物を買ったから、結構な金額になった。
「……うーん」
コンビニで働いていたときはよかったなあ。
廃棄のお弁当。
あれ、本当に助かっていたんだよな。
夜勤が終わったら、お弁当やおにぎりをもらえる。
家に帰って、シャワーを浴びて、それを食べる。
買い物に行く必要もない。
お金もかからない。
「……最高だったなあ」
今は違う。
腹が減ったら、何か買わなきゃいけない。
……まあ、当たり前だけど。
「……くそっ」
毎日、ちょこちょこお金が減っていく。
五百円。
七百円。
また五百円。
「……あー!」
全然貯まらないじゃないか!
おかしいなあ。
働いていたときは、あんなに食費が浮いていたのに。
……。
…………。
いや、そりゃそうか。
働いてないんだから。
「……はあ」
やっぱり、コンビニのバイトはよかったな。
給料も入るし、食費も浮くし。
……。
…………。
「……いやいや」
もう辞めたんだから。
今さら考えても仕方ない。
それより。
「……ふふ」
今日は、ちょっと楽しみなことがある。
そう。
初給料日だ。
「……ふふふ」
ついに。
ついに、この日が来た。
コンビニで働いた分のお金が、口座に振り込まれる。
俺が自分で働いて稼いだお金だ。
「……おおお」
楽しみだなあ。
実は昨日から、ちょっとワクワクしていた。
もちろん、途中で辞めたから満額ではない。
それは分かっている。
でも、何日も夜勤を頑張ったんだ。
それなりの金額にはなるはずだ。
「……よし」
俺はスマホを手に取った。
午前八時。
オンラインバンキングを開く。
口座残高を確認する。
「…………」
……。
「あれ?」
まだ振り込まれてない。
「……なんだよ」
八時じゃ早いのか?
まあ、銀行もいろいろ処理があるんだろう。
もう少し待つか。
……。
…………。
午前九時。
「……よし、今度こそ」
俺はもう一度、口座を確認した。
「…………」
……。
…………。
「……まだかよ!!」
なんだよ!
給料日だろ!
今日、給料日なんだろ!
もう九時だぞ!
「……くそっ」
いつ振り込まれるんだ?
十時か?
昼か?
まさか午後?
「……うーん」
何か手続きでも必要だったのか?
いや、そんなことは言われてないしなあ。
……。
…………。
まあ、待つしかないか。
でも、ただ待っているのも時間がもったいない。
「……よし」
こういうときこそ、仕事だ。
俺はゲームを起動した。
今日は素材を集めよう。
装備の強化に、まだ結構な数が必要なんだよな。
ダンジョンを周回して。
素材を集めて。
売れるものは売って。
「……ふふ」
忙しいなあ。
俺はパーティー募集を確認した。
ちょうどいい周回パーティーがある。
「……おっ」
よし。
参加しよう。
*
午前十一時。
ダンジョンを一周終えたところで、ふと思い出した。
「あっ、給料」
そうだ。
確認するのを忘れてた。
俺はスマホを手に取り、オンラインバンキングを開いた。
「…………」
……。
…………。
「……おっ?」
数字が増えている。
「…………」
……。
69,284円。
「……きたああああ!!」
入ってる!
本当に入ってる!
「……おおお!」
俺は思わず椅子から立ち上がった。
やった!
初給料だ!
「……ふふふ!」
何度見ても、ちゃんと数字がある。
俺が働いた分のお金だ。
「……いやあ、すげえなあ」
……。
…………。
「……あれ?」
でも。
思っていたより、少ないな。
「……うーん」
もうちょっとあると思ってたんだけど。
……。
…………。
ああ、そうか。
途中で辞めたからか。
それに、給料っていろいろ引かれることもあるんだっけ。
「……まあ、いいか」
約七万円。
十分じゃないか。
俺が働いて稼いだんだぞ。
そう考えると、結構すごい。
「……ふふ」
頑張ったなあ、俺。
最初は面接に行くのも緊張した。
履歴書を書いて。
服を買って。
自分で髪を切って。
夜勤の仕事を覚えて。
レジも掃除もできるようになった。
柴田さんと漫画のことで言い合いになったりもしたけど。
最後は、まあ……ちょっと大変だったけど。
「……うん」
ちゃんと働いた。
俺は働いたぞ。
そして、お金を手に入れた。
「……よし!」
これで百万円に一歩近づいた。
えーと。
約七万円だから。
百万円まで、あと……。
「……九十三万円か」
「…………」
……。
…………。
「……遠っ!」
いやいやいや!
七万円も稼いだのに!
まだ九十三万円もあるのかよ!
「……うわあ」
百万円って、すごい金額なんだな。
……。
…………。
まあ、でも。
最初は百万円まるまる必要だったわけだし。
ちゃんと減ってる。
……いや、途中でいろいろ使ったから、実際にはもうちょっと必要か。
「……うーん」
細かい計算は、あとでいいか。
とにかく今日は給料日だ。
「……ふふ」
せっかくの初給料。
ちょっとくらい、自分にご褒美があってもいいんじゃないか?
俺はゲームの画面を見た。
ちょうど今、期間限定のイベントをやっている。
限定アバター。
あれ、欲しいんだよなあ。
見た目も格好いいし。
今しか手に入らないらしい。
「……うーん」
ちょっとだけ課金するか?
せっかく給料も入ったんだし。
少しくらい、いいだろう。
自分で稼いだお金だもんな。
「……ふふ」
よし。
ちょっとだけ……。
……。
…………。
「……いや、待て」
俺は手を止めた。
「……ダメだろ」
何を考えてるんだ。
百万円貯めなきゃいけないんだぞ。
せっかく入った給料を、すぐゲームに使ってどうする。
しかも、ついこの前、一万二千八百円も引き落とされたばかりじゃないか。
「……あー、そうだった」
危ない危ない。
また無駄遣いするところだった。
「……よし」
今度こそ、ちゃんと貯めよう。
真面目に百万円を目指すんだ。
まずは次の仕事を探さないとな。
「……うん」
そうだ。
何かいい仕事、ないかなあ。
家から近くて。
あんまり面倒じゃなくて。
できれば時間も自由で。
「……うーん」
そんな仕事、あるのかな。
……。
…………。
「あっ」
いや。
待てよ。
「…………」
……。
…………。
俺、今ゲームしてるよな。
「……うん」
しかも、結構強くなってるよな。
装備も揃っている。
レベルも高い。
最近はダンジョン攻略だって、かなりうまくなった。
「…………」
……。
これさ。
売れるんじゃね?
「…………」
……。
…………。
「……あれ?」
いや、そうだよ。
ゲームのアカウントって、売ってる人いるよな?
昔、どこかで見たことがある。
強いキャラクターがいるアカウントを、高い値段で売っている人。
「……そうだ!」
俺のキャラだって、結構強いぞ。
最近は高難度ダンジョンにも行けている。
装備だって、それなりに揃っている。
限定アイテムもいくつか持っている。
しかも、年間パスも購入済みだ。
「……おお」
これ、結構価値あるんじゃないか?
「……ふふふ」
ちょっと調べてみるか。
俺はゲームをいったん止めて、検索画面を開いた。
『ゲーム名 アカウント 売買』
検索する。
「……おっ」
いくつかサイトが出てきた。
本当に売ってるじゃないか。
俺は一つ開いてみた。
画面には、いろんなアカウントが並んでいた。
レベル。
装備。
所持キャラクター。
限定アイテム。
そして、価格。
「……へええ」
なるほどなあ。
こういう感じなのか。
五千円。
一万円。
二万円。
「……おお、結構するな」
さらに下へスクロールする。
五万円。
八万円。
「…………」
……。
…………。
「……え?」
ちょっと待てよ。
これ、俺のキャラとそんなに変わらなくないか?
いや、装備は向こうのほうが少しいいけど。
レベルは同じくらいだ。
「……まじか」
八万円?
こんなにするのか?
「……おおお」
俺は条件を変えて、さらに検索した。
高レベル。
限定装備あり。
育成済み。
すると。
「…………」
……。
…………。
「……は?」
200,000円。
「…………」
……。
…………。
「……に、二十万!?」
いやいやいや!
高すぎるだろ!
ゲームのキャラクターだぞ!?
「……えええ」
こんなの買う人いるのか?
……。
…………。
いや。
待てよ。
欲しい人がいるから、出品されてるんだよな。
「……なるほど」
そういう世界なのか。
確かに、最初から強いキャラクターを使いたい人もいるだろう。
忙しくて育成する時間がない人だっている。
お金を払って、その時間を短縮したい。
……。
「……そうかあ」
そういうことか。
俺は、もう一度二十万円のアカウントを見た。
装備はかなりいい。
限定キャラクターも揃っている。
レベルも高い。
でも。
「……うーん」
俺だって、頑張ればここまで育てられるんじゃないか?
「…………」
……。
…………。
「……これ、ビジネスになるんじゃね?」
俺は椅子に座り直した。
ちょっと待てよ。
今の俺のアカウント、いくらくらいになるんだろう。
似たような条件のものを探してみる。
「……おっ」
あった。
五万円。
「……なるほど」
こっちは七万円。
あ、これ結構強いな。
でも、限定装備は俺のほうが多い。
……。
…………。
「……十万円くらいで売れるんじゃね?」
「…………」
……。
…………。
「……おおおお!」
十万円!
もし十万円で売れたら。
今日の給料が約七万円だから。
七万と十万で……。
「……十七万円!」
おお!
十七万じゃないか!
百万円まで、あと八十三万円!
「…………」
……。
…………。
「……まだ八十三万もあるのかよ!」
くそっ!
全然足りねえ!
……。
…………。
いや。
待て待て。
さっきは九十三万円だったんだぞ。
それが八十三万円になるんだ。
十万円も近づくじゃないか。
「……おお」
結構でかいぞ、これ。
しかも、だ。
俺はゲームで遊んでいるだけだ。
好きなことをして。
キャラクターを育てて。
それが、最後にはお金になる。
「…………」
……。
…………。
「……これじゃね?」
これだよ!
俺が探していたのは!
毎日決まった時間に出勤しなくてもいい。
好きな時間に起きて。
好きな時間にゲームをして。
自分のペースでキャラクターを育てる。
「……最高じゃん!」
俺は思わず笑ってしまった。
……。
…………。
いや、待てよ。
十万円で売るのは、ちょっともったいなくないか?
だって、二十万円のアカウントもあったんだぞ。
もっと育てれば、俺のキャラだってそのくらいになるかもしれない。
「……そうだ!」
二十万円。
そこを目指せばいいんじゃないか。
今すぐ売る必要なんてない。
どうせゲームは面白いんだから。
遊びながら育てて。
装備を集めて。
キャラクターをもっと強くする。
そして、十分に価値が上がったところで売る。
「……ふふふ」
完璧じゃないか。
ゲームも楽しめる。
お金も稼げる。
しかも、家から出なくていい。
出勤時間もない。
嫌なお客さんもいない。
柴田さんもいない。
「……おおお!」
なんだ。
こんないい方法があったのか。
もっと早く気づけばよかったなあ。
……。
…………。
そうだ。
売るためには、もっと価値を上げないとな。
ただレベルを上げるだけじゃダメだ。
ほかの人が欲しがるものを集めなきゃいけない。
限定装備とか。
珍しいキャラクターとか。
「……うーん」
何が一番価値あるんだろう。
俺は出品されているアカウントを、もう一度見比べた。
「……なるほど」
やっぱり、限定アイテムを持っているアカウントは高いな。
後から手に入らないものって、価値があるんだろうなあ。
……。
…………。
「あっ」
限定。
「…………」
……。
…………。
そういえば。
あの限定アバター。
「……おお!」
そうだよ!
さっき欲しかったやつ!
今のイベントでしか手に入らないんだよな。
あれを持っていたら、アカウントの価値も上がるんじゃないか?
「……ふふふ」
そういうことか!
ただゲームをしているだけじゃダメなんだ。
どのアイテムに価値があるか。
何を優先して集めるか。
ちゃんと考えて育成しないと。
「……なるほどなあ」
これは奥が深いぞ。
……。
…………。
俺はゲームの画面に戻った。
限定アバターのイベント。
開催期間は、あと数日。
「……うーん」
やっぱり格好いいなあ。
しかも、期間限定。
これを逃したら、もう手に入らないかもしれない。
「……欲しいなあ」
……。
…………。
いや。
違う。
欲しいからじゃない。
「…………」
……。
…………。
そうだ。
これは、アカウントの価値を高めるためだ。
将来、二十万円で売るための準備なんだ。
だったら、多少お金をかけるのも仕方ない。
「……うん」
仕事だって、最初にお金がかかることはあるだろう。
コンビニの面接に行くときだって、服を買ったじゃないか。
あれも、働くために必要な出費だった。
今回も同じだ。
「……そうだよ」
無駄遣いじゃない。
将来のために必要なお金だ。
「……ふふふ」
俺はもう一度、口座残高を確認した。
今日、入ったばかりの初給料。
約七万円。
「……よし」
これを元手に、もっと大きく稼ぐんだ。
今度こそ、百万円に近づいてやる。
俺は限定アバターの購入画面を開いた。
「……これは課金じゃない」
……。
…………。
「……投資だ」




