民間刑事3
港区某所。
深夜。
東京の喧騒から少し離れた裏通りに、一軒の小さな地下カフェがあった。
階段を下りた先。
古びたドアの向こうから、柔らかなジャズが聞こえてくる。
カラン――。
ドアベルが鳴った。
「……」
荒木巧が、重い足取りで店内へ入ってくる。
その顔には疲労が色濃く浮かんでいた。
銃撃戦。
カーチェイス。
警視庁の介入。
さすがの荒木も限界が近かった。
店内には客がいない。
カウンター奥では、誰かがしゃがみ込んでゴソゴソと何かを探していた。
荒木はふらつきながらカウンター席へ座る。
「……大丈夫か?」
その声に。
「ひゃっ!?」
しゃがんでいた人物が飛び上がった。
ゴンッ!!
「いたぁっ!!」
勢いよくテーブルへ頭をぶつける。
荒木は半目になる。
「……」
頭を押さえながら立ち上がったのは、カフェ店員の白石真帆、20歳。
茶髪をポニーテールで後ろを結んで
エプロン姿のまま涙目になっている。
「いったたた……」
彼女は荒木を見る。
「あ、なんだ……荒木さんか……」
荒木は少しだけ笑った。
「やっぱドジなんだな」
「……うるさい!」
白石は少し頬を赤くしながら言い返す。
「急に話しかける方が悪いんだから!」
「店員が床と戦ってるとは思わねぇよ」
「戦ってないし!」
店内に少しだけ明るい空気が流れる。
白石は咳払いすると、カウンターへ立った。
「で、今日は何飲むの?」
荒木は疲れ切った顔のまま答える。
「……いつもの」
「はいはい」
白石は慣れた手つきでグラスを取り出した。
数秒後。
荒木の前へ置かれたのは――麦茶だった。
氷入り
白石は呆れたように言う。
「もうちょっとお酒とか慣れたら?」
「この店バーも兼ねてるんだけど?」
荒木は麦茶を一口飲む。
「……俺、酒苦手なんだよ」
「23歳でそれ珍しくない?」
「酔うと眠くなるし...」
「理由がおこちゃま過ぎるでしょ……」
白石は苦笑する。
だが次の瞬間。
彼女は荒木の顔を見て、少し表情を変えた。
目の下のクマ。
疲れ切った表情。
どこか張り詰めた空気。
白石は少し微笑み
「……今日は大変だったみたいだね」
荒木はしばらく黙る。
そして、小さく息を吐いた。
「そうなんだよ……」
グラスを見つめる。
「俺の5億円がぁ……」
そう言いながら、テーブルへ溶けるように突っ伏した。
「全部あとちょっとだったのに……」
白石は目を丸くする。
「え、5億?」
「逃げた……」
「何が?」
「全部……」
「怖い怖い怖い...」
白石は苦笑しながらも、少し安心していた。
少なくとも。
今ここにいる荒木は、銃声もサイレンもない場所にいる。
白石は静かにカウンターを拭きながら言った。
「とりあえず、今日はもう休んでね」
荒木は顔を伏せたまま答える。
「……ああ...」
地下カフェには静かなジャズが流れている。
だがその頃、東京のどこかでは。
堂田財閥
東京保安庁
警視庁
革命軍
そして東京自警団
それぞれの勢力が、巨大金庫を巡って次の行動を開始していた。
東京の夜は、まだ終わっていなかった。
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