堂田財閥2・自警団1
東京都中央区。
日本経済の中心部にそびえ立つ超高層建築――堂田財閥本社ビル。
夜空を貫くように伸びるその巨塔は、もはや企業ビルというより、一つの国家権力の象徴だった。
ビル32階。
限られた幹部しか入ることを許されない専用バーラウンジ。
窓一面に広がる東京の夜景は、まるで光の海だった。
湾岸部を走る高速道路。
無数のホログラム広告。
空を横切る輸送ドローン群。
その景色を、一人の男が静かに眺めていた。
田中龍平、30歳。
堂田財閥危機管理局所属。
黒いジャケットを羽織り、片手には赤ワインの入ったグラスを持っている。
彼は無言で東京湾方向を見つめていた。
その背後。
カツ――ン。
大理石の床を叩く甲高い足音が近づいてくる。
田中が振り返る。
そこに立っていたのは、中津直樹、42歳。
堂田財閥情報取締役。
灰色のスーツを完璧に着こなし、細い眼鏡の奥から鋭い視線を向けている。
中津は田中の隣まで歩いてくると、軽く笑った。
「まさか財閥直属部隊を出すとはな」
その声には、少し感心したような響きが混ざっていた。
「ずいぶん派手に動いたもんだな」
田中は景色から目を離さず答える。
「あの資料が警視庁や保安庁に渡ったら面倒ですからね」
「全くだ」
中津はグラスを取り、ワインを口へ運ぶ。
しばらく二人は沈黙した。
遠くではヘリコプターのライトが夜空を横切っている。
おそらく、先ほど回収された金庫だろう。
中津は再び口を開いた。
「それにしても……」
「なぜ保安庁へ任せなかった?」
田中が視線だけ向ける。
中津は続けた。
「堂田財閥と東京保安庁は、かなり良好な関係を築いていたはずだ」
「今さら我々が直接動く必要があったのか?」
田中は小さく息を吐く。
「俺に聞かれても分かりませんよ」
グラスを揺らしながら答える。
「今回の部隊派遣も、上層部からの直接命令ですし」
「……なるほど」
中津は静かに頷く。
だが、その表情にはわずかな警戒が浮かんでいた。
彼は周囲を確認する。
バー内部に他の人間はいない。
BGMだけが静かに流れている。
中津は声量を落とした。
「最近、妙な噂がある」
田中の目がわずかに細くなる。
「堂田財閥上層部が、東京保安庁を“邪魔な存在”として見始めているらしい」
一瞬。
空気が変わった。
田中は何も言わない。
中津は続ける。
「保安庁へ潜入しているこちら側の班からも報告が来てる」
「最近、民間刑事事務所の連中が動き始めてるらしい」
「財閥と保安庁の裏取引について調べ回っているそうだ」
窓の外では、東京タワーの赤い光がゆっくり瞬いている。
田中は少しだけ黙った。
そして左腕の高級腕時計を確認する。
秒針の音だけが静かに響いた。
やがて彼は、薄く笑う。
「大丈夫ですよ」
ワインを一口飲む。
「堂田財閥の力は、今や関東最大ですから」
その言葉には、絶対的な自信が滲んでいた。
警視庁。
東京保安庁。
政治家。
民間組織。
すべてを飲み込むほどの巨大な経済力。
中津はその横顔を見ながら、静かに思う。
――だが、巨大になりすぎた権力は、いずれ必ず軋み始める。
その頃。
東京湾上空では
堂田財閥直属ヘリが、極秘資料の入った巨大金庫を吊り下げたまま、太陽が沈み切った少し薄暗い空を飛行していた。
だが、そのヘリを。
さらに遠くから追跡している“別の影”が存在していることを、まだ誰も知らなかった。
ボボボボボボ――――。
高層ビル群の隙間を、重低音が通り過ぎていく。
堂田財閥直属ヘリ。
巨大金庫を吊り下げたまま、東京湾方面へ飛行していた。
その姿を。
薄暗い裏路地から監視している者たちがいた。
中央区の雑居ビル裏。
雨水の臭いが残る細い路地。
そこで一人の男が、双眼鏡を片手に空を見上げていた。
井上宗平、26歳。
黒い戦闘服に防弾チョッキ。
腰には拳銃。
背中には折り畳み式カービンライフル。
民間組織――東京自警団第4部隊隊長。
警察でも保安庁でもない。
財閥支配に反発する市民武装組織の一員だった。
井上はヘリの動きを追いながら、小型無線機を口元へ近づける。
「こちら東京自警団第4部隊隊長、井上」
双眼鏡越しにヘリを確認する。
「堂田財閥のヘリを確認。何かを吊り下げながら飛行中」
「まだこちらの存在には気づいていない様子」
無線からノイズ。
そして声が返ってきた。
『了解』
低い男の声だった。
『ヘリ周辺では監視ドローン複数確認している』
『長居は危険だ。早めに偵察を済ませろ』
井上は静かに頷く。
「了解」
通信終了。
すると背後の暗闇から、人影が次々と現れ始めた。
全員、防弾装備を着用している。
和田修一、26歳。
大型ライフルを背負った巨漢。
「相変わらず派手だなぁ、財閥さんは」
飯田順平、24歳。
小型ドローン端末を持つ電子戦担当。
「監視ドローンの周波数拾えました。やっぱ軍用仕様ですね」
村上新之助、21歳。
若いが鋭い目つきの隊員。
「一般企業が持つ装備じゃねぇよ……」
そして二人の女性隊員。
渡辺小百合、23歳。
狙撃銃ケースを肩へ掛けている。
「……ヘリの護衛、最低でも二機はいる」
最後に現れたのは村上直美、24歳。
ナイフホルダーを装着した近接戦闘担当。
「で? どうするの宗平」
井上は双眼鏡を下ろした。
ついに夜空になる時間になった。
巨大ヘリはなお飛行を続けている。
その下には、巨大金庫。
東京中が奪い合っている“何か”。
井上は静かに言った。
「追う」
隊員たちが顔を上げる。
「堂田財閥が、ここまで露骨に動くなんて珍しい」
井上の表情が険しくなる。
「……あの黒い物体、相当ヤバい代物に違いない」
飯田が苦笑する。
「また面倒事っすか」
「最初から平和な仕事なんてねぇだろ」
和田が弾倉を確認しながら言う。
その時。
飯田の端末が小さく警告音を鳴らした。
「ッ!」
全員が振り向く。
飯田がモニターを見ながら顔色を変える。
「まずい……!」
「監視ドローン一機、こっち向いてる!」
直後。
上空の小型ドローンが赤いセンサー光を点灯させた。
井上の目が鋭くなる。
「散開!!」
次の瞬間――。
ドローン側面から、機銃口が展開された。
見てくださった皆様、本当にありがとうございますm(__)m
評価やブックマークで応援してくださると嬉しいです!




